出会いのはじめは別れから
この土地に来て5年。
この土地を気に入ってた。
右も左も分からない、友だちもいない。
そんな最初の1年はいつも地元に帰りたいと思った。
それから3年経った頃、友だちもでき土地にも慣れた。
年も重ね周囲は結婚をしていく。
しかし、私には焦りなどなかった。
恋人と別れた頃、1人の時間の楽しさと寂しさを感じ
毎夜毎夜、飲み歩きその時出会う人と仲良くなった。
自然と寂しさなど消え去り、毎日が楽しくなった。
地元の友だちが会いにしてくれることも楽しみの一つだった。
1年前、飲み友だちが海外で生活していたことを聞いた。
私も学生の頃にそんな夢を見ていた。
その人とは意気投合したくさんの話を聞いた。
そして、ひと言私に言った。
「行ってみたらいいよ。」と。
日々の生活にマンネリを感じていたのもあった。
この年齢でも間に合うのかと不安にも思った。
タイミングが良かったのだ。
そして私は海外に行くことを決めた。
住み慣れ始め、友人ができ
楽しく過ごせるこの場を離れること。
それは刺激的であり、無謀でもあるだろう。
決めたが最後、私は仕事を辞めた。
少し名残惜しく感じて、地元に戻る前にこの土地で過ごそう。
そう思った私は1ヶ月半、残ることを決めた。
引越し1ヶ月前にいつも飲みに行くお店で
ある人物に出会った。
それが私がこの土地に残す
心残りになるとは思いもしなかった。
その人は私がこの土地を離れることも承知の上で
デートの申し込みをしてきた。
初めは気などなかったと思う。
いや、あったかもしれない。
初めは酔い潰れている姿を見ただけだが、印象的だった。
2度目は私は友人と一緒で会話をしなかったが
デートの誘いを人伝にされ、それを気に入らないと断った。
3度目も偶然、同じ店で会った。
またか。と思ったがそのときは直接会話をした。
マスターも「デートくらいなら行っておいで」と言った。
たしかに、これだけ偶然会うのも奇遇だと思ったこと
第一印象通り面白そうな人だと思った。
人としては気になっていたと思う。
そして、デート当日。
彼と半日過ごしただけで、私は恋をした。
もし、タイミングが違えば、もっと早く出会っていれば
そんな気さえしてくる。
もちろん彼はダメ元で私に惚れられるなんて
思ってなかっただろうと思う。
別れが近いことも承知だったのだから
遊びだったかもしれない。
彼の大きく柔らかく、暖かい手。
寒い冬にはそばにいてほしいと思った。
隣にいて安心できる彼の攻撃性のなさ。
息をするように心地よい気がした。
抱きしめられると自分がこんなにも小さかったのかと
気付かされるくらいの体格差と少し感じられる彼の体重。
私は単純だったんだろう。
キスをしたら本格的に好きになる。そんな予感はしていた。
もし、好きになってしまったなら私はこの1年の
自分自身の決意を変えてしまうのではないかと思った。
案の定、今の私は可哀想なくらい彼に会いたい。
今の私は、彼の声が聞きたい。
もし、出会い方が違ったなら
お互いの好きな映画を一緒に観れたなら
他愛もない会話をカフェでしたり
のんびり家でくっついて過ごしたりしたのだろうか。
そんな風に過ごせる気がしたし、
少なくとも一緒にいる間は、
彼も同じようにそう思ってくれてたと思う。
でも、決意を変えることはできない。
帰りを待つことをお願いもしたくない。
私自身の自由と彼自身の自由を奪うことも奪われることも
許されないから。
その日以降、
彼からの連絡は待てど待てどこなかった。
付き合うことはできないと言う私に
彼は何を思ったのだろう。
海外に行くの辞めてくれないか
と言う彼に私はそれはできないと言った。
そのくせ、連絡が来ないことに悲しくなっている私は
自分勝手にも程がある。
それを見かねて、マスターが私に内緒で連絡をしていた。
だから、私はフラれたのだと泣きじゃくった。
何を思ったか、
彼は連絡をくれたがそれがただの優しさだと思った。
だから、これで終わりだと思った。連絡は途絶えた。
結局、彼が本心どんなふうに思っていたのか
知ることはもうない。
どうにもできないくせに、ただ好きなのだ。
どれもタイミングが悪かったのだろう。
私は予定通り引越しをし地元に戻った。
淡々と海外渡航に向け準備を進める。
そんな中、ふと頭によぎる彼への想い。
どうして好きになってしまったんだろう。
どうせなら、はっきりとフラれてしまえたら楽なのに。
きっといつかその姿を探してしまうかもしれない。
はっきりさせない恋の終わりは、どんな失恋よりも
後味が悪いものだと思う。
それでも、恋はタイミングが大事なのだ。
こうもタイミングが悪い人はきっと、神様がいたなら
その人ではないと言っていたんだろう。
でも、恋心はタイミングなど気にしないのかもしれない。
刹那的な感情で、いつか忘れられるかもしれない。
幸せになっていてくれるだろう。
離れる土地で、
帰ってこれない場所に心を置いてきてしまった。
きっとまた、この土地に帰ってきたくなるのかもしれない。
未来の私はどんな選択をするだろうか。
彼を選ぶには、時間が足りなかった。
きっと、そうする方がよかった。
そんな風に思える未来を作っていこう。
あなたに出会ってしまったことに感謝できるように。
出会いのはじまりは別れから。
これは、最近あった私の実体験で
惨めな女に感じられる方もいるかもしれません。
それでも、これでよかったと未来の私が思えるよう。
そして、こんな経験あるわーみたいな人の目にとまったのなら幸いです。
恋って難しいですが文字にしてみると悪くないですよね。