拾得物
とてもとてもファンタジーな話です。書いてみたかった。
何となく時間が過ぎていく大学の講義中、後ろの席で先生の喋る声を聞き流しながらぼーっと窓の外を見つめる。
「…では今日はここまでにしたいと思います。来週この時間の最初にレポートを提出して下さい、授業終わりには受けつけませんので」
講義が終わった、みんなぞろぞろ学生証を通して退出していく。その流れに身を任せながら講義室を出た。
私はフード付きの深緑色のパーカーを着て黒スキニーをはいている。量産型女子大学生にはなれなかった女子大学生だ。実家暮らしで自転車で大学へ通っている。
今日もいつもと同じ帰り道、同じ下り坂、のはずだったのだが、、、
シャーっとブレーキに手をかけずに下り坂を降りて行く。
風が気持ちいい。なんとはなしに通っている大学の講義終わりには清々しく感じる。
(ん?) 一瞬何かが視界に入った。慌てる必要もなかったのに、慌ててブレーキをかけ止まった。振り返ってみると、ノートが落ちている。気になってしまい、ノートを手にして表紙を見た。
『願いが叶うノート』
あまりに胡散臭すぎる。まるでなろう小説だ。
だけど内容が内容なだけに気になってしまい、結局カゴにぶち込み帰宅した。
家には誰もいない。まだ家族は帰ってはいない。
荷物を適当に置き、自分の机にさっき拾ったノートを広げてみた。何でも叶うんかな。
最初のページに使い方のようなものが書いてあった。
「【願いが叶うノート】 これは書いたことが何でも叶うノートです。◯◯が欲しいや、◯◯になりたい、等自由に書きましょう。日付や時間設定もでき、あなたの思うままです。願いを取り消すには書いたページを破れば元通り。素敵な人生になること間違いありません!」
はあ。青いたぬきが出しそうな道具だ…。試しに書きたくはなる。そうだな、、コンビニのチキンが食べたいな。
私はノートに「◯◯チキが食べたい」と書いた。書いた直後、いい匂いがした。顔を上げると、さっきまで何も無かった机の上に、それが出現していた。うおぉ…
これはかなり危険な代物だ。私が本気を出せばこの世界はどうとでもなってしまう。
まぁ、私にそんな大それた事は起こせないし起こしたくもない。SNSに依存してる私にとって、好きな漫画のアップや、好きな動画、好きな音楽の新作を観られる今がとても幸せだから。悪用したら、とんでもない事になることは言うまでもない。
ただ、私は少し欲が強い。いや私に限った話ではないと思う。お金が欲しい、可愛くなりたい、推しに貢ぎたい、旅行や遊びに行きたい。そんな欲が止まらない。使いたい。これを使ってやりたい。
…破れば全て元通りなんだもんね…。
私は1度、欲望に忠実になることにした。