2話
「ふむ。では説明してやろう。他でもない、君の頼みというのならね」
黒ノは生意気にも、そんな切り出しで説明をした。
結論から言えば、俺が先程から述べている ”死刑判決後から6ヶ月後以内に死刑を執行しなければならない” という決まりは、あくまで ”努力義務” に過ぎないそうだ。
努力義務。すなわち、法的拘束力はないということである。
そして現在、6ヶ月以内に死刑が執行されるケースはほとんどないのが普通だそうだ。
黒ノも水卜も火口も、何らかの事情で執行までに数年の期間が設けられ、そして死刑制度が廃止となり今に至るということだ。
「なんだよそれ。ふざけんなよ」
説明を聞いた俺は、静かに怒り始める。
「じゃあお前は、俺の家族を殺しておいて、このまま生き続けるというのか。何の償いもせず、反省もしないままに」
「ああ、そうだよ。いやあ、さすがに死刑は怖かったんだ。廃止されて助かったよ」
そして黒ノは、俺に笑い掛ける。
「ほんとうに。ラッキー、ラッキー」
その舐めた態度に、プチんと、何かが切れたような音が聞こえた。恐らくは、俺の堪忍袋の緒が切れた音だろう。
俺は黒ノに詰め寄って、胸ぐらを掴んだ。そのまま彼女の顔を近づける。
「何がラッキーだ。冗談じゃない。被害遺族の、俺の気持ちはどうなる」
「ハハッ! 君が私の胸ぐらを掴んで凄みを利かせるとはね。君の家族を皆殺しにしたあの日は、歳下の私に恐れを抱いていたというのに」
黒ノは俺に動じず、むしろ愉快そうに言った。
「しかし、被害者遺族の気持ちねぇ。でも君。死刑にすることによって、被害者遺族が報われる客観的な証明はないんだよ」
黒ノは言った。被害者遺族が報われる客観的な証明はない? そんなのは嘘だ。だって俺は、俺は……。
「君だってそうだったんじゃないか? 君は私が死んでいると思い込んでいたようだけど、それで君は今まで通り、普通でいられたのかい?」
今まで通り、普通でいられたはずがない。だって俺は父と母と姉の三人を殺されてしまったのだ。三人を一度に失った悲しみが、たった一人の死刑囚が死んだところで、どうにかなる訳がないのだ。
「例えば台風で親族が死んでしまったとしよう。台風は時間が経てば消滅するが、それで遺族の気持ちが晴れるというわけでもない。私たち死刑囚はその台風のようなものさ。確かに死刑によって私たちの存在は消滅する。台風のようにね。でもそれで遺族の気持ちが晴れるなんて、あり得ないのさ。まあ、多少の安心感は得られるかも知れないけれど」
饒舌に語る黒ノは、そしてニヤリと笑ってこう言い放った。
「要するに、死刑にしろ、は性衝動に過ぎない。やめて欲しいね。私たちをオカズにするのは」
その後の俺の記憶は曖昧であった。




