4話
「飯塚さん。お久しぶりです」
俺は彼の名を呼んだ。彼の名は飯塚 良樹。黒ノを逮捕した時の担当刑事である。
俺と飯塚はテーブル越しに向かい合う形で椅子に腰掛けた。
「城島さん。その後、どうですか」
「いえ、まあ。やっぱり辛いですよ。あれから4年ですか。それだけ経っても、傷が癒えることなんてないです」
俺は飯塚の問いに対して素直に答えた。飯塚は被害者遺族である俺のケアを良くしてくれた。だから俺は彼に対して全幅の信頼を置いている。
それから俺は、飯塚さんに弱音を沢山吐いた。飯塚さんはやはり変わらずお優しい方で、とても親身になって俺の言うことを聞いてくれる。
「それでね城島さん。今回はあなたに頼みたいことがあって来たんです」
「頼み、ですか」
俺は聞き返したものの、しかし飯塚さんの頼みだったら、何だって聞くつもりであった。
「城島さん。実は2年後に、死刑制度が廃止となります」
「死刑制度が、廃止……?」
俺は思わず聞き返した。
「なぜです? どうして死刑制度が、廃止に……?」
「理由はまあ、いくらでもあります。国が合理的に考えて、死刑を廃止するんでしょう」
「そんな。でも彼らに、生きる権利なんて、ないでしょう!」
俺は興奮するあまり、テーブルを強く叩いてしまう。
「お気持ちは分かります。しかし彼らにも人権がある。死刑は、その人権を踏みにじる行為です」
「因果応報じゃないですか。最初に人権を踏みにじったのは、当の本人でしょう」
俺は少し冷静になって。いや、なっていないかも知れないけれど。ともかく落ち着いた口調で言った。
「仰る通りです。しかし国が国なりの理由で人を死刑にするように、死刑囚は彼らなりの理由で人を殺している」
「彼らなりの、理由……」
俺は飯塚さんの言葉を繰り返した。
――君の家族は、実験によって尊い犠牲となった。だが誇って良い。この実験によって国は、世界はさらなる進歩を遂げる。必要な犠牲だったんだ。
そして、黒ノの言葉を思い出す。実験。国が、世界が進歩を遂げるための実験。そのために家族を殺したという。
なんてふざけた理由だ。
「私たちは常に理知的であるべきだ。だからこそ、殺人鬼たちと同じことをしてはならない」
飯塚さんの言葉に、納得できる訳がなかった。
「じゃあ飯塚さん。遺族の気持ちはどうなるんですか」
俺は、悲しげに言った。
「だからこそだよ城島さん。あなたに頼みたいことがあるんだ」
飯塚さんは熱意を込めた眼差しを向ける。
「城島さん。あなたに死刑囚のための学校の教師になってもらいたい」




