3話
やがて黒ノは逮捕された。彼女の供述によると、動機は実験であった。
彼女はよく分からない実験のために、老人や障害者に対して人体実験を行っていた。やがて手頃な素材が足りなくなって、我が家族に手をかけたそうだ。
彼女の逮捕は俺に対しての自白がきっかけであった。そんなことをすれば捕まりやすくなるのは当然だ。しかし敢えてそうしたのは、自身の自尊心を満たすためだったらしい。
彼女は裁判に掛けられた。彼女は当時18歳で未成年だ。未成年の刑事事件には少年法という特別処置がある。これによって裁判は家庭裁判所で行われ、保護厚生の処置が下される。つまりは緩和措置である。
しかし彼女は18歳であった。18歳は死刑相当の判決に対して緩和措置が定められていない。実際にも少年法が適用される未成年であっても死刑になった例がある。
なんと彼女は、その残虐性が考慮されて死刑が科せられた。少年法が適用される未成年であっても死刑になった例の一つとなったのであった。
*
事件発生から4年後。25歳になった俺はとある女子校の教師となった。
なぜ女子校なのかは俺自身も分からない。強いて言えば、やはり俺の家族を皆殺しにした黒ノという女性のせいだろう。
彼女は女子高生であった。彼女にまともな教育が施されているはずがない。まともな教育を受けた者が、大量殺人なんてするはずがない。
日本は治安の良い国とされているが、それでも死刑が下された死刑囚が何人も発生してしまっている。もちろん全ての死刑囚が殺人によって逮捕されているわけではないが。
しかしそれでも、日本は教育が足りないのだ。人を殺してはいけない。法律を犯してはいけないという、教育が。
死刑執行は判決後、6か月以内に行われなければならない。死刑の執行は被害者遺族に通知されないが、4年は充分すぎる期間である。
黒ノはもうこの世にいない。だからこそ、第二第三の黒ノが発生しないために、俺は教師として教育を施さなければならない。
「おい、お前ら。席に着けー」
いつもどおり騒がしい教室。その教室の教壇に俺は立った。そして、少し煩わしい感じで皆に言った。
俺が言うと皆は、はいはい、といった感じに着席した。
俺は教室中を見渡して、教え子たちを見る。
果たして、彼女たちに俺の教育がどれほど伝わるのだろうか。俺の教育によって、本当に彼女たちは黒ノのような殺人鬼にならずに済むのだろうか。
俺の教師としての生活は、正義とそんな疑念による葛藤の日々であった。
ホームルームが終わったところで、俺は会議室に呼び出された。なんでも、警察の方がお見えになっているとか。
会議室のドアを開けると、そこには見知った刑事がいた。
「やあ城島さん。お久しぶり」
その刑事は、朗らかに俺に挨拶をした。