5話
勤務地の刑務所内に入った。俺は飼育中の犬やブタたちの様子を見る。今日も問題はなさそうである。そのことを確認した後、次に職員室に入った。
職員室には飯塚さんがいた。彼は俺を見るなり、相変わらず気の良さげな、朗らかな笑みを浮かべて、おはようと挨拶をした。
「外のデモ、今日も凄いですな」
と飯塚さんが言った。
「ええ、本当に。もう慣れましたけどね」
と俺が返した。初日はあの叫び声に、面を食らったものだ。
「城島さん。今でも、彼らの主張に賛成ですか?」
飯塚さんは俺に尋ねた。俺はその問いを聞きながら、書類等を手に持って立ち上がる。
「いえ。今では、死刑制度は無くなって良かったと思っています」
俺は職員室のドアに手を掛ける。俺は、彼女たちに反省して欲しい。その為にも……。
「じゃあ、授業行ってきます」
ガラガラ、とドアを開いた。
「ええ、行ってらっしゃい」
廊下に出た後に、飯塚の声が聞こえた。
*
俺は廊下を進んでいく。向かう先は、彼女たちが待機しているであろう教室だ。その近くのトイレを通り過ぎようとした時であった。
――ガシッ!
俺は急に、誰かに引っ張られた。そして何も分からないまま、女子トイレに引き込まれる。
朝日があまり差し込まれていない、薄暗い女子トイレ。白いタイルの壁。
洗面台の鏡で、俺を引っ張っている犯人の顔が見える。
「み、水卜っ!?」
俺はその女性の名を呼んだ。その間に俺は女子トイレの個室に連れ込まれ、そして鍵を掛けられる。
「み、水卜! 何の真似っ……!?」
俺は口を塞がれる。彼女の唇によって。
何と水卜は、俺にキスをしてきたのであった。
俺は思わず彼女の唇の感触に意識してしまう。ぷっくりしていた彼女の唇の柔らかさが、俺の唇越しに伝わってくる。
「んんっ!?」
俺は思わず呻く。彼女は唇と唇を重ねるだけでは飽き足らず、舌を入れてきたのだ。
彼女の舌が口内を巡っていく。前歯の歯茎をなぞり、そして裏側をなぞる。その次は口内の中央にある俺の舌を捉え、強引に絡ませていく。
「んん、んん!」
俺はとにかく力任せに彼女を引き剥がそうとした。しかし彼女はがっちりと俺を抱きしめて抵抗する。
「んん、ぷはっ……。ふふっ!」
ようやく彼女はキスを止めて、そして笑った。
「やだ先生。キスしただけで顔真っ赤じゃん。可愛いー! もしかして、初めて?」
挑発的な笑みを浮かべながら、水卜は言った。彼女の言う通り、俺は女性経験がなかった。つまり先ほどのそれがファーストキスであって、水卜に奪われてしまったのだ。
「水卜……、一体、何を……」
俺は息を切らしながら言った。そして彼女の顔を見つめる。不思議だ。こんなにも彼女は可愛かったのだろうか。彼女は元死刑囚。俺が忌むべき存在。それなのに、彼女の顔はより整っているように見えるし、挑発的な笑みにはとてもドキドキさせられる。
「あのね先生。先生に叱られてから、先生のことが頭に離れないの」
そう言うと水卜は、その小さい身体を俺により強く押しつける。彼女の胸が俺の腹部に当たって、押しつぶされる。俺の股下に、彼女の太ももが割り込んでくる。
そして彼女は、俺を見上げた。やはり彼女はいやらしい笑みを浮かべている。その頬は紅潮していた。
「私、先生のこと、好きになっちゃったっ!」
そして彼女は上目遣いで、とんでもないことを言い放ったのであった。




