3話
一ヶ月後。成長したブタの飼育が始まった。ただし彼女たちは独居房に居なければならない時間があるので、その間は俺が世話を行う。
ブタの名前はトロに決まった。名付け親は火口である。何だか妙な名前であるが、まあ良しとしよう。
学校の時間中、トロは教室内で保護する。生徒たちは盲導犬の訓練を行いつつ、トロの世話を行う。
また、水卜が訓練していたアリスと名付けられた犬は療養中であったが、無事に帰ってきた。しかし犬の記憶力は大変良く、特に自身に危害を加えたことは良く覚えている。残念ながらアリスも例外なく水卜が自身を傷つけたことを覚えており、彼女に対して警戒してしまっていた。
この警戒心を解くのは至難の業だろう。問題の件以前は上手く関係を築けていた水卜であったが、流石に苦戦しているようであった。
一方、トロは初めて訓練中の犬たちと出会った。トロたちはお互いを受入れたようで、問題はなさそうである。
こうして盲導犬の訓練とブタの飼育は順調であった。盲導犬の訓練に関しては一難あったし、まだ苦難は続きそうではあるが、一応は想定内である。
そんなある日の朝。俺は今日も生徒たちに授業をするべく、起床した。
刑務官であれば午前7時までに到着する必要があるらしい。俺の場合は教師なので、授業開始の8時前までに到着しておけば良い。
しかし朝に訓練中の犬たちやトロの様子を見る必要があったりなど、やることが多い。その為、大体30分前には現地に着いておきたい。
俺は7時に起きて必要最低限の身支度を済ませ、自宅を出た。
俺は勤務地の近くに引っ越していた。そのため通勤時間は、歩いて15分程度。歩いている間にイヤホンを耳に付け、ニュースのヘッドラインを音声だけで確認する。
聴いているのは、動画ストリーミングサービスで流れるニュース番組だ。今日は死刑制度廃止の事と、元死刑囚の為の特別な教育について議論がなされていた。まさに俺と生徒たちのことであった。
有識者と称されるコメンテーターが、死刑制度はあった方が良いと思いますけどねえ、とコメントしている。その根拠が、犯罪の抑制であったり、死をもって反省させるべき等と、以前の俺が抱いていた考えであった。
はてさて、今はどうだろう。俺は歩きながら思考する。死刑制度によって犯罪が抑制される科学的根拠はない、と飯塚さんは言っていた。
そして死刑制度によって死刑囚が反省することは出来ないと、石垣さんは言っていた。
どうもメディアやネット上で蔓延している主張は間違っているように思える。じゃあ、やっぱり死刑制度は無くなって良かったのだろうか。
俺の気持ちはどうだろう。死刑制度が廃止されていなければ、黒ノはいずれ死刑に処されていた。死刑による反省はありえない。その事実を知った今、黒ノがそのまま死刑に処されて、俺は納得が出来るだろうか。
「出来るわけがないよな」
俺は呟く。俺はやはり、黒ノを許せない。家族を凄惨に殺害したあいつが、反省しないまま死ぬなんて、許せるわけがないのだ。




