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1話
もし俺の生きる現実が物語になっていたとして。その物語を誰かが見ているとして。その ”誰か” を ”君” と仮定したとする。
その君に問いたい。君には想像できるだろうか。君の大切な人が、殺人鬼に無残にも殺されてしまった時の感情を。
――済まないね。人体実験によって、君の家族を殺してしまったんだ。
歩き慣れない廊下。その廊下を歩きつつ、俺はとある女性に言われたことを反芻する。
――仕方がなかったんだ。本当は未来のない老人や障害者だけにしたかったのだが、足りなくてね。
カツン、カツンと俺の足音が響き渡る。とても静かな廊下だ。
――君の父、母。そして姉。みんな死んでしまったよ。でも安心してくれ。君はまだ若いから、代わりに別の人を用意することにした。
朝日に照らされたドアに手を掛ける。学校の教室のドアだ。そして俺は、この学校に赴任された教師である。
ガラガラと音を立てながら、俺はドアを開けた。