7話
日本の死刑の方法は絞首である。
踏み板に受刑者は立って、縄を首にくくる。すぐ近くにボタン室があって、そこには五つのボタンが設置されている。そのボタンの内の一つが踏み板を開くボタンである。踏み板が開くと受刑者の首が縄に吊られ、死に至るという仕組みだ。
死刑の流れとしては、まず前日にボタンを押す刑務官に通知がされる。昔は不真面目な刑務官を罰として任命していた。しかし不真面目な人は様々な要因によって直前にボタンを押さないことがある。よって最近では真面目な人を任命するのだそうだ。
死刑執行当日。死刑囚は独居房から所長室まで連行される。そこで所長に死刑執行のことを言い渡され、死刑囚はようやく自身が死刑に処されることを知る。
そこから執行室に連行される。道中は刑務官が数メートルおきに立っている。これは死ぬ直前の受刑者が何をするか分からないので、万が一のためのものである。
「その立っている刑務官に知り合いがいますとね、お世話になりました、と受刑者が声を掛けたりするんですね。でも一方で刑務官は、何て声を掛けたら良いか分からないんですよ。元気でね、なんて言えるわけがない。これから死ぬんですから」
石垣はそう言って説明を続ける。
死刑執行が言い渡された受刑者が最初に通されるのが、教誨室という場所だ。そこで教誨師と呼ばれる人と話をしたり、遺書を書いたりなどを行う。
次に前室という場所に通される。ここで所長が正式に死刑執行の旨が言い渡され、目隠しと手錠をされる。
そして最後に執行室に向かう。部屋の中央には赤い四角のテープが貼られ、そこに立たされる。足を縄や手錠で拘束し、首に縄を掛ける。
そして最後に言い残す言葉を尋ねる。
死刑囚が話し終わった瞬間に、執行ボタンの合図が送られる。この時、話し終わった直後に合図をしないと、舌を噛んで血まみれになり、大変残虐な光景となってしまう。よって合図は話し終えた直後に行うという。
合図を送られた瞬間、ボタンを押す係に任命された刑務官数名が一斉にボタンを押す。すると踏み板が開いて、首が吊られる。
ボタンが複数あって数人に押させるのは、刑務官の精神的負担を軽減させるためである。ボタンが複数あることによって、受刑者が死んだのは自分が押したからではないという、心の逃げ道を用意するためだ。
またこの時、踏み板の下にはさらに刑務官が待機している。首を吊られた時、身体がぶらん、ぶらんと揺れる光景がまた残虐ということで、身体を押さえる係である。
さらに死亡判定の医師もいる。絞首は死に至るまで少しだけ時間が掛かるので、死亡判定を行う医師が必要なのである。
「城島さん。死刑執行までに、これだけの人員が削られています。費用だけではありません。特にボタンを押す人と、身体を支える人の精神的負担は計り知れないのです」
確かに、と俺は考え込む。もし俺がボタンを押す係に任命されていたら。吊らされた身体を押さえる係に任命されていたら。
そんなの、一生のトラウマものではないか。
「死刑の執行を頻繁に行えば、それだけ刑務官の精神が削られます。なので死刑執行の頻度を迂闊に上げることはできないんです」
そんな実情を知らされてしまったら、俺は納得せざるを得なかった。