6話
「ひとまずは、お疲れ様です」
午後16時。諸々の処理を終えた俺は、職員室に居た。そこで飯塚が俺をねぎらってくれたのであった。
「それにしても、肝を冷やしましたなあ。彼女があんなことをするとは、想像も付きませんでしたよ」
石垣も職員室にいた。俺の側に来て、同じく俺に話しかけた。
「しかし、今回の一件はかなり問題ですよね。死刑囚のための学校は、取り止めでしょうか」
俺は飯塚に尋ねた。
「いえ。何らかの問題が発生することは、当然織り込み済みです。少なくとも今回は試験運用も兼ねているので、最後まで続けて頂きますよ」
そして飯塚は、俺の肩に手を掛ける。
「まあ、そう気を落とさないで下さい」
優しく、飯塚は俺に言ってくれた。
「いえ。もちろんそのこともあります。しかしそれ以上に私のあの時の言動は、教師にあるまじきものだったかも知れない、と」
そう言って、俺は自分の言ったことを思い出す。
――これでこの子が死んでみろ。お前を絶対に許さないぞ。
そんなことを言うまでもなく、水卜は既に後悔しているように見えた。それでもこんなことを言ったのは、俺自身の怒りをぶつけたかったからに他ならない。
「城島さん。あなたは生き物の死に敏感なんです。もちろんそれは悪いことじゃありません。水卜の行動に怒りを覚えるのは、当然のことですよ」
飯塚さんにそう言ってくれたおかげで、俺は少し気持ちが楽になる。
「飯塚さん。俺はやっぱり、思ってしまうんです。彼女たちがきちんと死刑にされていれば、今回の被害はなかったのではないかって」
そして俺は、飯塚さんに言った。
「どうして、彼女たちはルールに則って死刑にされなかったんでしょう」
しばらくの間、沈黙が続いた。
やがて、石垣さんが俺の肩に手を掛ける。
「死刑囚には、というより判決が確定した確定囚には、その判決に納得できない時に再審を請求できる権利があるんです」
そんな語り口で、死刑執行が延びる仕組みを説明し出した。
死刑囚には再審を請求できる権利がある。その請求中に死刑を執行するということは、死刑囚の権利を侵害するのと同じである。
また判決後6ヶ月以内というのは、再審請求期間中は算入しないという規定がある。これにより再審によって6ヶ月を過ぎたとしても、法律上は問題はない。
再審によって無罪を勝ち取った例もあるので、再審請求中は死刑を執行し難いのである。
「でもそんなの、ただ延命のために再審しているだけじゃないですか」
俺は石垣に言った。
「ええ、そうかも知れません。でもそうじゃないかも知れない。何せ自分の命が掛かっているんです。その権利を蔑ろにする訳にはいきません」
それでも近年では再審請求中に死刑を執行した例がいくつかある、と石垣は続けた。
「それとね、城島さん。死刑がどうやって執行されるのかご存じですか」
石垣はそして、死刑執行までのことを語り始める。