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死刑囚ハーレム  作者: violet
盲導犬の訓練
16/25

4話

 それから色々あって、各々が犬に名前を付け終わった。


 授業はそれで一区切りとして、休憩時間を挟むことにした。


「それと、日直を決める。日直は日替わりで交代だ。とりあえず今日は黒ノ。お前が今日の日直を務めろ」

「ふむ。まあ先生がやれと言うなら、やってやるさ」


 黒ノは、やれやれ、といった感じで言った。全くこいつは。素直にはい、と言えないのか。


「日直は授業の開始と終了に号令を掛ける。黒ノ。号令を」

「はいはい、分かったよ。起立」


 黒ノが適当な声で号令を掛けた。全員が立ち上がって、黒ノの声によって頭を下げる。元死刑囚の彼女たちだが、一応は義務教育を終えている。授業開始終了の号令などの、一般的な学校の常識はあるようであった。


 俺は休憩のために教室を出た。


「城島先生」


 すると監視役の一人が俺に声を掛けてきた。飯塚さんと同じ雰囲気の、優しげな雰囲気の初老の男性である。


「石垣さん」


 俺は彼の名を呼ぶ。彼は石垣(いしがき) 五郎(ごろう)。生徒たちのいた拘置所の刑務官である。


「城島先生。ちょっと話しませんか」

「ええ、良いですよ」


 生徒たちの監視役は数人いた。石垣は生徒たちの監視を他の人に任せて、俺と一緒に廊下を歩いて行く。


「驚きましたよ。彼女たちが、あんなに楽しそうで」


 石垣は感慨深く言った。生徒たちが拘置所に居た頃、石垣は生徒たちが居た棟の管轄であった。そのため、拘置所での生徒たちの様子をよく知っているのだ。


「拘置所に居た頃の生徒たちは、どんな感じだったんですか?」


 俺は拘置所で過ごす生徒たちの様子が想像できなくて、気になった。


「普通、ですよ」


 石垣は短く答えた。


「城島さん。私は長年、死刑囚たちを見てきたから分かるんですけどね。やはり死の恐怖ってのは、凄まじいものなんです。死刑囚たちは様々な態度を取っています。中には余裕そうに振る舞っている者も。でも分かっちまうんです。それらが全部、いずれ来る死に対する恐怖を誤魔化しているだけだと」


 石垣さんは思い出しているかのように、語る。


「死刑囚はいつ死刑が執行されるか分からないんですよ。死刑を執行する日になった当日に、初めて知ることになる。それを死刑囚も分かっているから、毎日を怯えて過ごしているんです。今日は生きられたけど、明日は分からない、とね」


 それはさぞかし怖いことだろう。


「生徒の一人である火口さん。城島さんも先ほど知ったかと思いますが、彼女は特に精神が脆くてね。我々刑務官の足音がいつもと違っただけで、それはもうビクビクと震えていましたよ」

「足音が違うだけで?」

「ええ。刑務官も人間ですから、死刑を執行するとなると、やはり違いが出てくるのかも知れません。彼女はそれで、ついに自分の番が来たのだと誤解して怯えてしまうんです」


 火口のメンタルの弱さは先ほど把握しただけに、彼女にとって拘置所での暮らしが過酷だったのは想像に難くない。


「城島さん。先ほど私は、普通と答えましたね。彼女たちは、至って普通でした。他の死刑囚と変わらずに、死に怯えておりました」

「そう、ですか……」


 俺は言葉に詰まりながらも、何とか返事をした。教室では、あんなにも飄々とした様子であった彼女たち。しかし拘置所で死刑を待っていた時は、死に怯えていたという。


「死刑ってのは、やはり罰なのですよ。そして死刑囚は、罰を受けるだけで精一杯なんです。反省をする余裕なんてありません。なので死刑囚に求められるのは、反省ではなく、ただ罰を受けることのみなんです。でもね、城島さん」


 石垣は立ち止まって、俺に真っ直ぐ向いた。


「死刑制度は廃止となりました。彼女たちに、反省する余裕が与えられました。彼女たちは初めて、反省することを求められているんです」


 石垣は、熱意を込めて、言い放った。


「城島さん。どうか彼女たちを、しっかりと反省させて下さい」


 石垣はそして、頭を下げたのであった。

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