表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死刑囚ハーレム  作者: violet
盲導犬の訓練
14/25

2話

「待たせたな」


 職員室から戻って来た俺は、そう言って教室内に入る。すると教室内には既に火口が戻ってきていた。


「きゃあっ! 可愛い!」


 俺の方を見た水卜が、見た目通りの可愛らしい声を上げた。


「これからしばらく、お前らには盲導犬の訓練を行ってもらう」


 俺の足下には、三匹のラブラドール・レトリーバーがいた。その三匹の首には首輪が付けられていて、そこからリードが繋がれ、やがて俺の両手に収まっている。


 盲導犬の訓練は、実は過去にも受刑者の教育に利用された例がある。人を殺したこいつらには、命の尊さを知ってもらわないといけない。


 盲導犬の訓練には資格が必要だ。俺はたまたま盲導犬訓練士の資格を取得していた。人生、どこで何が役に立つのか、本当に分からないものである。


「火口。お前はこいつだ」


 犬のリードを火口に差し出す。


「お、おう」


 火口は恐る恐るリードを受け取った。こいつは小動物を虐殺している。たった今手渡した犬を絞め殺したりしないかが、一番の懸念点であった。


「水卜」

「はーいっ!」


 水卜が元気の良い返事をして、嬉しそうにリードを受け取る。予想通り、彼女は動物が好きそうであった。


「黒ノ」

「あ、ああ」


 黒ノは火口と同様、戸惑いながらリードを受け取った。


「じゃあ最初の授業だ。今受け取った犬に、名前を付けろ」

「はあ? やだよ面倒くせぇ」


 火口が嫌そうに言った。命名すら面倒くさいとは、先が思いやられる。


「面倒でも付けろ。これから自分たちが訓練する犬なんだ。愛着を持って、愛情を注ぐためにも。そして責任を持って訓練するという誓いのために、名前を付けるんだ」


 俺がそう言うと、生徒たちは自分たちの握るリードに繋がれた犬と向かい合った。


「そ、そうね。名前、名前ねぇ」


 意外にも黒ノは、まだ戸惑っているようであった。普段の余裕そうな態度は見る影もない。何だかそれが、妙に可愛らしい。


「この犬の種類は……ラブラドール! そうね、ラブラドールって名前はどうかしら」

「良い訳ないだろ。犬の種類をそのまま名前にする奴があるか!」


 しまった。黒ノがあまりにアホなことを言い出すものだから、思わずツッコみを入れてしまった。


「そ、そう……。そうよね。えっと、それじゃあ……」


 俺の勢いに任せたツッコみを素直に受け止め、黒ノは再び思案する。


 うーん。いつもこんな風に素直だったら、もっと別の人生を送れただろうに。


「お前は、こいつにどんな風に育って欲しい? その思いを、名前に込めたらどうだ」


 犬の目線まで屈んで、右手の人差し指の先を頬の辺りに添えて、思案すること数分。見かねた俺は、助け船を出してやった。


「どんな風に育って欲しい……なるほどっ!」


 黒ノは、閃いたように目を見開いた。そして、犬に向かってその名前を言い放つ。


「君の名前は、盲導犬だっ! よろしくな、盲導犬!」


 俺は思わず頭を抱えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ