1話
その後、黒ノの自己紹介は軽く済ませた。黒ノの罪に関しては、俺が一番良く知っている。改めて説明されたところで、不愉快なだけである。
俺は生徒たちに待機を命じた後、一旦授業の準備をするために職員室に向かっていた。
静かな廊下を歩きながら、先ほどの議論、いや口論のことを考える。
国民が法律を変える、または新たに作る方法はいくつかある。例えば議員となって国会で法案を通す。例えばそういった要望を議員や政党、その他然るべき機関に請願する。例えば団体を組織、もしくは既存の団体に入り、強い圧力を掛ける。
いずれにしても、ハードルが高いのが現状である。
無論、その議員は民意によって選ばれた代表であるのだから、間接的に民意が反映されているとも言える。
しかし刑法は遙か昔に出来たものだ。つまり民意はその当時の民意であって、現在の民意とは限らない。まあ放置されているということは、同意しているということと見なされているのかも知れない。
だが法改正を行うためのハードルの高さが、全国民の民意を正常に反映させていると言い難い状態であることは事実である。
俺の言った法の重みとは、所詮はその程度のものだ。
それでも客観的に見て、水卜の正義の重みとは比べものにならないのも事実だろう。
しかし水卜にとっては別だ。自身の都合の悪いことばかりが書かれた六法全書に、重さなんてない。
水卜が掲げる天秤に掛ければ、彼女の正義に傾くのは当然である。
そんな思考を巡らせること数分。職員室に辿り着いた。
俺は手短に必要な物を用意して、すぐに退室した。




