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死刑囚ハーレム  作者: violet
自己紹介
12/25

6話

「んじゃあ、次は私かなぁー?」


 先ほどから大人しかった、水卜が言った。


「ああ、そうだな。次はお前の番だ」


 俺がそう言うと、水卜は起立した。立つことによって、彼女の背がやはり小さいことを再確認する。小学校高学年から、中学1年くらいといったところか。


「水卜心香。21歳でぇーす! 私の罪は……」


 そして彼女は、とても愉快に、楽しそうに自らが犯した罪を言い放った。


「放火でぇーす!」


 沼澤や黒ノと同じく、18歳で水卜はその罪を犯した。18歳である彼女は、自宅から近い高校に通っていた。


 彼女の学校ではいじめが発生していた。いじめの対象は水卜本人ではなかったが、彼女は自身の正義感により、行動に移る。


 それが放火であった。彼女は後先考えずに、自身の通う学校にガソリンをまき散らし、火を放ったのである。


 結果、校内は大炎上した。いじめ犯どころか生徒や教職員にも被害が及び、大多数の死傷者が出た。


「水卜。お前のその行為によって、いじめられた対象はどうなったんだ」


 俺は水卜に尋ねる。


「さぁー? 分かんなーい」


 俺は絶句した。どう言葉を掛けるべきなのかも、分からなかった。怒るべきなのか、哀れむべきなのか。それすらも、分からないのだ。


「じゃあ水卜。お前は結局、何の為に放火をしたんだよ」


 俺はさらに水卜に尋ねた。とりあえずは、彼女を理解しようと思ったからだ。


「ええ? そんなの、決まっているじゃん」


 水卜はそう言うと、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべて、こう言い放った。


「悪い奴を、ぶち殺したかったんだよ」


 可愛らしげな彼女とは思えない程に不気味な雰囲気に、俺は思わず鳥肌が立った。


 火口や黒ノとはまた別の狂気が、彼女にはあったのだ。


「いじめられた奴なんて知らない。ただ、悪い奴がいるのは良くないことでしょ? だから殺してやったんだー。悪い奴はいなくなるし、私の正義は果たされる。みんな幸せだよねー!」

「お前の正義? 一体、どんな正義だ?」

「うーん? だからぁ、私が良いと思ったことが正義で、私が悪いと思ったことが、悪なんだよ」


 水卜は、まるで当然のことかのように言った。なんて歪んだ正義を持っているのだろう。というか、これはもはや正義と言えないのではないか。


「狂ってる」


 俺は素直に、そう呟いてしまうのであった。


「そうかな。日本の司法だって、同じようなものだと思うけれど」


 俺の呟きに、またしても黒ノが異論を唱えた。


「水卜のやったことが、司法と同じだって? 一体、どこが同じだというんだ?」

「だってそうだろう城島先生。水卜さんは水卜さんの正義で人を罰した。この国もこの国の正義によって我々を死刑にしようとした。一体、何が違うというんだ」


 またこいつは、次から次へと詭弁を弄する。


「お前たちは法を犯した。その罰として死刑が下った。一方で水卜が行ったことは、単なる虐殺だ」

「違いが分からないね。水卜さんだって、彼女なりの正義に周囲が抵触したから、水卜さん自身の手によって死刑を執行した。それと何が違う?」


 黒ノは気分が良くなったのか、嬉しそうに立ち上がる。


「そもそも、なぜ水卜さんの正義は間違っていると言える? そしてなぜ、私たちを罰した法律が正しいと言えるのだろう。法律が正しいと信じ込み、そして違反者を罰する。水卜さんがしたことと同じじゃないか」

「同じじゃない」


 俺は黒ノの言葉を遮るように言った。


「日本の法律は、国民が選んだ代表、つまり議員によって定められた法律だ。その議員は、時に国民の意見を参考に法案を提出する。国の法律は、そうやってできる限り民意を尊重して出来たものだ。人を殺してはいけない。刑法199条に規定されている殺人罪には、多くの人々が賛同している。一方で水卜の正義に、一体誰が賛同するというんだ。法律を信じることと水卜の正義を信じることとは、その重みが違うんだ」


 俺が言い終えると、黒ノはフッと軽く笑った。俺が述べた意見が、水卜本人に伝わらないと思っているからだろう。


「ふん。バッカじゃないのぉ? 私の正義に賛同しない人達なんて、みんなクズなんだよ? そんなクズの賛同に価値なんてないじゃーん。クズがいくら集まったところで、私の正義は揺らがないんだもーん!」


 案の定、水卜はトンデモ理論をぶつけて一蹴してしまうのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  一気に読みました。漫画やドラマだと未成年は殺人を犯しても二年で出れる展開が多いのに、きちんと法律を描いているのが良いです。  主人公は家族を殺された憎しみに囚われているけど、あとがきのよう…
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