不意打ち
「遅い……」
決闘時間に合わせて、15分前にはシミュレーションを終えた雷蔵は時計を見る。
集合時間の5分前を越えていた。
あと、1分ほどで決闘の時間だった。
遅刻ではないが……
まさか巌流島の宮本武蔵と佐々木小次郎の対決を模して、こちらをイラつかせて?
「いや、まさか、風子とか言う脳筋にそのような知恵があるわけがない……」
決闘の開始時刻を一分回った時、雷蔵は頭上のハッチを開けて上に出た。
機体から20mの範囲には、機体反応がなかったが、ひとまず決闘前の挨拶をすべく、機体の上に乗る。
大きく息を吸って……
「やいやい、この卑怯者!いい加減姿を現しやがるぇ!」
ちゃんと、世紀末のチンピラ風に、片足を前に出しながら、舌を巻きながら大きな声を出した。
日が暮れた廃墟からは、反響した声が返ってきた。どことなく恐ろしげだった。
モーターの駆動音がした。銃声だ。
ベチャとはじける音が聞こえて、雷蔵が足元を見ると、ペイント弾が着弾していた。
「あの女、狙撃で不意打ちをしやがった!」
卑怯者めっ!こちらは、世紀末系チンピラだぞ!
通常のロボコンだと、正々堂々と、50m離れた地点から、向かい合ってのスタートになる。
確かに、決闘とは言ったが、ロボコンルールとは決めていなかった。
暗黙の了解とした自分が悪いと雷蔵は反省した。
「一発で勝ったってルールは決めてないっ!」
雷蔵は自分に言い聞かせ急発進した。
相手は狙撃だ。早く動いて隠れないと危ない。高速で動くルールで移動を開始した。
ペイント弾の弾痕から、方向はおおよそ検討が付くので、その死角になる場所に急がなくは行けなかった。
センサーに反応はない。もう夜という事もあり、赤外線センサーや、超音波による障害物認識を行い、機体内のモニターにはCGによる合成映像が表示されていた。
加えて、日のあるうちに回りを回ったので、細かい情報も網羅出来ていた。
超音波で障害物を探して、CGを作るにも多少の処理時間を要する。高速移動をするとそれが少し遅れてくるので、表示の一寸先は闇と言う状況だった。
突然アラームが表示されて、CGに一筋の線が真横に表示される。
多脚戦車の足に引っかかる。
二足で走る人間がつまずけば転ぶが、多脚戦車には足が四本ついていて、バランスの制御を行うので、転がりはしなかったが、バランスを崩して、急停止をせざるを得なかった。
「くそぉ!罠か!」
脳筋かと思ったがなかなかの策士だ。
止まった先は、町の広間になっていた。
時々音楽系のイベントが開かれる場所で、唯一整備されている所だった。遮蔽物がなく、路面は整備されていた。
遮蔽物がないのでこの場所は避けたかったが、よろけた反動で、この場所まで出てきてしまった。
本当は数ブロック前を曲がりたかったが、仕方ない。
少しずれれば狙撃の射線上からは離れるはずだ。
が今度は別の方向からペイント弾が飛んできた。
センサーを見ると、高速で移動するものを見た。
多脚戦車では重すぎてここまでの高速移動は難しかったが、それはまるでバイクの様な……
「あいつ、本当にあの一輪バイクで来たのか……」
バイクのハンドルの下部にはミニガンが装備されていた。
高速で、蛇行しながら多脚戦車に向けて発砲した。
雷蔵もすかさず移動を開始して、左の腕から砲撃を始めた。
「くそっ!早い。当たらない。」
単純に多脚戦車同士の銃火器で、足を止めての発砲が原則だが、相手は所構わず連射してくる。
止まったら、あっという間にペイントまみれになってしまう。
どこから狙撃したのか不明だが、一発狙撃して、すかさず移動を開始して先回りしたのだろう。この夜中で大した度胸だ。バイクの方が早いとはいえ、なかなか出来る事ではないことは容易に想像できた。
「さすが我が宿敵!」
世紀末チンピラとしては言うべきだなと雷蔵は思った。