決闘準備
「なんなのあの男は!?」
そう言いながら、少し綺麗になったグラウンドを見回す。
あの男に残りの整備はやらせよう……ひとまず明日の体育の授業には支障はないレベルにコンダラをかけて綺麗に均した。もちろん、風子は女の子なのでコンダラを引っ張ったわけではない。
「昭和か!?」
誰かに突っ込みを入れつつ、風子は多脚戦車のコクピットにもぐり、操縦桿を握った。
流石にバイクで雷蔵の乗る多脚戦車に勝てるか考えたとき、あまりに敵の戦力が未知数では勝ち目はゼロである。
智子が学校に設置されていた多脚戦車を引っ張り出し、慣らしのついでにグラウンドの整備を行ったのだ。
「うーーん、ずいぶん使われていなかったもののはずだけどよく動いたなぁ……これはロボコンの全国大会……結構前の大会に使われた戦車で、、、あ、多脚戦車って、ロボコンの競技用なんだけど、歴代で多脚でないものも含めて、なんとなく多脚戦車と言うシリーズで呼ばれているものなんだけど……」
と長々と風子に智子は説明してくれたが、「ふーーん」と聞くよりほかにリアクションを取り様がなかった。
確かに倉庫には、色々なロボットが置いてあった。
確かによく動いた。普通機械物はそれを保守メンテする必要があるが、この時代の倉庫にはナノマシンが設備されているので、機械もののメンテはそう言った機械が自動的に行ってくれていた。
それでも、ポンと出して何の苦労もなく動くと言うのは、前世の記憶を保有する智子にとっては、それはやはり不思議なことだった。
コクピットに座った風子の正面に三枚のモニタ。背面に一つモニタが設置されていた。
両手の操縦桿を、両方前に押すと前進、後ろに倒すと後退。右を後ろ、左を前に倒すと、時計回りに旋回した。
左の操縦桿には、左の腕に着いた兵装を扱うボタンが付いており、右の操縦桿も同様だが、右腕には指しかついていないので、そちらの操作と連動されていた。
難しい操作は必要とせずに、それぞれのボタンにマクロが割り付けられている仕様だった。このマクロのプログラムが各学校のプログラム技術と思想が表れていた。
足元にはペダルがあり、左足はギアチェンジ、右足はブレーキの機能が備わっていた。
ギアチェンジと言っても、ギアが変わるわけではなく、機能が変わる。
車体全体の方向を操縦桿で制御するのか、上半身のみ制御するのかだ。クラッチなどはついていないし、霊子エンジンの駆動を伝える為のギアなどは存在しない。
いわゆるオートマだ。
もっとも、そこまで煩雑にしてしまうと、一人乗りとしては厳しいものになってしまう。
出力制御や、姿勢制御などはほぼ自動的に行っていた。何十年と蓄積したナレッジからAIが判断するようになっていた。
「どうしたものか……」
風子はコクピットで一人呟いた。
こんなに性能が良いのか……それが、風子の感想だった。
風子は一時間後の決闘に、バイクで向かおうと思っていた。
喧嘩をするなら、圧倒的な力の差を見せつけなくてはいけない。それが喧嘩の鉄則である。
二度と相手が歯向かわないようにする必要がある。
バイクで、あの巨体を倒せれば、それが一番のハンデキャップである。
智子は当然、多脚戦車vs多脚戦車を想定していることだろうが、それはあまりに面白くなかった。
が、これは勝てそうにもない……普通だったら、絶対……
「智子……相談があるんだけど。」
コクピットから降りた、風子は智子にもとに向かって歩き出した。
「え、なにその不敵な笑みは……」
「ふふふふふ」
夕日をバックに、何か良くないことを考えている顔で風子は歩き出した。