レースでもあるのかな?
「風子―今日もお願いね。」
そう言う智子のお願いで、今日も今日とて、一輪バイクのデータ取です。
「智子―。バイクのレースでもあるの?」
「似たようなものかなー?」
智子はバイク部ではなく、ロボット部。確かもうすぐ県大会があるとか?
バイクで出るのか?
そもそもロボットの大会だから、オートバランサーでという事も考えられるけど……
前回から、数日経ち、バランサーも大分仕上がった様子で安定していた。
もう転ばないとふんでか、かっこいいカウルもついていた。
「カウル付いたんだ。」
「うん、レーシーでしょう?」
「れ、れーしー?よく分からないけどかっこいいよ。」
レーシーとは、レーシングマシンチックでかっこいいでしょうと言う事らしい。
風子は、バイクに跨ると、軽くアクセルを回し、エンジンのレスポンスを確認する。問題ない。スムーズに回っているし、レスポンスも良い。足元のギアをローギアに入れると、ガゴンと確かにギアが入った感覚がする。手元のレバーを慎重に離して行き、ゆっくりと発進する。
低速で安定しないはずが、オートバランサーで転びそうな気はしない。
徐行から、一度クラッチを切って、急ブレーキをかけた。
二輪なら、後輪が少し浮くくらいの力が生じるはずだが、智子の一輪バイクは、うまく慣性を殺すことに成功していて、前回の様に、投げ出されることはなかった。
伊達にカウルはついてない……そう風子は思った。
とりあえず校庭を一周する。
調子に乗って、徐々にスピードを出していく。
10周するころには大分楽しくなってきて、スピードも大分出せるようになった。
校庭と言う段階で、ダートなのだが、色々試したくなってきたので、校庭の外周に生えている木の間を走り始める。
木の根で、地面がガタガタするし、小さいアップダウンがあるが、平然とついてくる。
楽しい!
「どう、乗り味よかったでしょう?風子好みのはずなんだー。」
しばらく走って、智子の所に戻ると、多少のどや顔をこちらに向けたので、褒めると喜んで、また難しい話を始めた。
「まじ、何言っているか分からない……」
正直、転生者の技術なので、智子は見てくれこそ女子高生のそれだが、知識と技術は、それこそ数百年ものだ。そんなものを、ほんの十数年しか生きていない普通の自分に分かりようもないのだ。
「私普通だから、そう言うのはちょっと……」
「風子が普通かはさておき、技術の話はそうだねぇ。」
普通の奴では乗れない。そう智子は言うのだが、運動神経が壊滅的な人間に言われても、あまりあてにはならないなと、いつも思っていた。
「それにしても、ロボット部の大会って何をやるの?」
「え、、、もう風子が操縦士でエントリーしてあるけど……」
なんで知らないの?と言わんばかりの顔を向けてくるが、なんてことはない、聞いていないからに他ならなかった。
それにしても、操縦士って……バイクのか?
「え、ロボット部だよ?」
若干、バカなの風子?とでも言わんばかりのテンションで言ってきた。
「ロボット部なんだから、ロボットバトルだよ。」
「そ、そうか……バトル?レースとかじゃなくて?」
「そうだよ、レースじゃないよ。バトルだよ。ロボット同士のステゴロでのタイマンだよ。」
ステゴロ……タイマン?
「この一輪バイクで?」
「ううん、これロボじゃないじゃん?ただのオートバランサーと風子の好みの調査だよ。」
「ほう、、、とりあえず冷静に話を聞こうか……」
話を整理すると、ロボットの部の大会は、無人機のラジコンで玉入れをしたりするものではないらしい……昔はそう言った機械的な、あるいは電子的な機構と制御技術の勝負だったらしいのだが、だんだん地味だと後継者に対しての宣伝効果に乏しいという事で、ロボット同士のバトルをするようになったらしい。
一度バトルになってしまうと歯止めが付かないらしく、最初の100年は、相撲や、プロレス、ボクシングと言った、従来のスポーツや格闘技を模したものをロボットにやらせたようだが、無人機より、有人機の方が面白いのでは?
そう言いだすと、今度はロボットと言う垣根を越え、部活の枠を超えて、ミリタリ関係の部活や、自動車系の部活を取り込み、戦車で戦う様になったのだとか?
団体戦に至っては、体育会系の部活の人員が、塹壕を掘るところから始まるとか言うので、ほぼ死人が出ないだけで、戦争の様なのだとか……。
「うわぁ……狂気……」
いきさつ、今大会のルールとかの前に話された、大会の歴史に狂気しか感じない、そんなものに、皆熱狂していると……
そこで少し気になった。
「あれ、そんな大それた大会の割に、ロボット部って智子だけ?」
「……なぜか……」
とりあえず智子の言い分だけ聞くと、智子が入部するまでは、結構な人数がいたらしいのだが、けが人が出たりとかで、退部者が続出したとか……
彼女は人望もあつく、可愛さからか、入部希望者も多かったと聞く。男女共だ。
それが、今や……彼女ひとりと来た。
おそらく原因は彼女であろう。
おかげで今年の県大会は、絶望的と言う話がある。
県大会とは言っても、2校しかないので、決勝戦ONLYだが、このままでは不戦敗は必死と言うのが世間の評判だった。
「うん、大変なんだー」
そう言う智子には悲壮感がなかった。
「勝てばいいんでしょう?」
そう言った彼女の笑顔に、何故か恐怖を感じた。
何をする気だ?電子戦?まさか、化学兵器じゃあるまいな……会場が狂気に包まれそうな予感を感じる……ここは人質でも必要かな?
県大会と言っても、ライバル校は、学校の近くを流れる、広めの川の反対側にあるご近所さんだ。
川を渡る橋は、ずいぶん前に落ちてしまって、川向うと川こっちでは、結構文化圏が異なるらしかった。