表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/45

アンドロイドお母さん

 プシュー


 バスの自動ドアが開いて、運転手が話しかけてくる。


「風子ちゃーーん、商店街ついたよー」


 なじみの運転手のオジサンが、大声で声を掛けてくる。


「うるさっ!」


 驚いて起きる風子に運転手のオジサンは、よだれついているよとジェスチャーをする。

 フラフラとバスを降りた風子に、運転手のオジサンは手を振って挨拶をすると、発車していった。

 100メーターほどの小さな商店街を抜けると、住宅街があってその中に風子の家はあった。

 せっかくなので、なじみの店で今晩の晩御飯の食材を買って帰ることにする。


「お母さん、今日の晩御飯の買い物するけど何が良い?……と」

 歩きながら、携帯端末でメッセージを送る。しばらく歩くと、返信があった。


「ふーーむ、カレーかな?」

 返信にあった、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを買いに八百屋さんによる。

 気前のいい店主は、サツマイモを一つおまけしてくれた。

 肉屋さんに寄って、豚肉を買えば、焼鳥を一串おまけしてくれた。

 皆、気のいい人たちだ。

 生まれてから、毎日通る商店街に、通学に使うバス。

 そして、帰れば待っている優しい母親。整った生活だった。

 過度に高望みをする家族ではなかったが、自分の使命すら思い出すことが出来ない娘の自分に、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 その気持ちを隠すように、少し玄関の扉を勢いよく開いて、風子は言う。

「ただいまー」


「おかえりー。早かったわね」

 奥から優しい母親の声がした。

「少し早いけど、ご飯作って後でだらだらしようかなと」

 そう言う、風子に母は優しく笑いかけると、こちらはいいから、部屋で休んできなさいと告げた。

「ありがとう、お母さん。じゃあソファで少しだけ休むよ。」

 正直助かる。少し休めば平気かなと判断して、部屋ではなくリビングのソファで少し目を閉じた。



「あっ」


そんな母の声で目が覚めた。母の方を除くと、包丁で指を切ったらしい。

 めずらしいと思って、見ると、結構ぱっくりと切れているのが見えたが、その指からは血が流れ落ちてこなかった。

 代わりに、皮膚の下からは金属なのか、人工物のマテリアルがのぞいていた。

 風子は驚きをかみ殺して、寝たふりを決め込んだ。

 母は人間ではないのか?ロボットだったのだ!


 親友の智子に聞かれたら、「ロボットじゃないよ。アンドロイドって言うんだよ。」と訂正されそうだなと思った。

 そんなことを冷静に思った自分に少し驚きながら、母のカレーが出来るのを待った。

前世の記憶を持つような世の中で、アンドロイドもそんなにめずらしいこともないか……それよりも、十数年それに気が付かないって私鈍いのかしら?

 もしかしたら腕だけロボと言う可能性もある。晩御飯のカレーを2人向かい合って食べていると、ふと思った。

 食べたものは果たしてどうなるのか?そもそも昔アニメを見ていて、涙ぐんだ母を見たことを思い出したし、汗を掻く姿も、息を切らしながら猛然とダッシュしてきて、ひっぱたかれたこともあった。

 あのときはなんだったかな?確か、昼寝をしている母の鼻の頭を黒マジックで塗って、頬にひげを三本ずつ書いたあと、母は起きて買い物に行って、商店街から戻って来た母が猛然と追いかけて来たんだったか……あれは怖かった。もう二度としまいと思った。


 とりあえず、1:実はアンドロイド説、2:腕だけロボ、3:さっきのは目の錯覚で普通の人間と、三パターン考えたことで、聞いてみることにした。

 カレーを食べたあと、思い切って聞いてみた。

「お母さんって、ひょっとしてアンドロイドなの?」

 母はエンタメ系の番組を見ていたが、表情を止めて、すこし驚いた様子でこちらを見た。


「どうかしたの風子?」


「さっき指切ったでしょう?全然血が出てなくて、代わりに……」


「そう……見てしまったのね……」


 観念したのかうつむく母は唐突に言った。

「みぃーーたぁーなぁあーーーー」


 手を前にして、いわゆる幽霊のポーズで、母は顔を上げて言ってきた。

「は?」

 冷たく、言い放つと母はすんなりと、素に戻った。

「そうね……アンドロイドと言えばアンドロイドね。でも風子の母親という事は絶対間違いないから……」

 バレてバツが悪いと言う風もなく、淡々と答えて来た母親に、薄ら得体の知れない恐怖を感じた。

 今まで肉親だと思っていた人が、絶対的に母と言う地位に居た人が、実は肉親どころか、人間でない事、ショックだったが、こう淡々と告げられるとなんだか、「あ、はい。」と言う感じで納得するしかなかった。

 優しい顔で淡々と何か、社会のシステムについて説明している母の言葉は、全然入ってこなかった。

 どうやら、商店街の人達や、学校の先生達、いわゆる大人の人たちはアンドロイドらしいのだ。風子達人間が、自分達の使命を全うするのをアシストするのが、役目らしい。


 しかし、ずいぶん人間味にあふれたAIなんだな……だんだんと私はそう思い感心した。

 こんなに感情を理解し、しかも私の性格や精神を理解して、告げても問題ないと判断する。そもそもバレずにずっと過ごしてきたと言うことは、大したものだなと思った。

 ショックを受けるよりも、すこし心が軽くなっていることに気が付いた。

 申し訳ないと思っていた肉親が、実はロボだったと言うことで、すこし気が楽になった。

 まぁ、明日からは少し気楽に生きて行こうかなと、前向きに考えられるようになった。

「そうなんだー。よく分からないけど、それがこの社会のシステムなんだね。」

 前世を覚えていないから、この世界のシステムも正しく把握していないのは、自分のせいなんだろう。

「お母さん、カレー美味しかったよ。また明日ね。」

 笑顔で手を振る母親は、テレビに視線を戻すと爆笑していた。

 どこまで人間らしいのだろうか?

 もう風呂に入って寝て明日がんばろう……

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ