大会に向けて出発
「え、車で運ぶとかではなくて?」
「自走ですよ。風子先輩」
え、本当に?と言う感じで聞いた風子に聡次郎は冷徹に答えた。さも当然の様に。
「まぁ、完熟走行というか?慣らし運転見たいなものだと思って頑張ろうよ風子。」
大会の会場は県外にあったため、少なくとも数百キロはある。風子と雷蔵はかっ飛ばせばあっという間につくが、智子と聡次郎は車で移動だった。結構な距離がある。
ほとんど自然界に戻ってしまった道を移動するのに、何の武装も無いトラックでは心もとなかった。
風子と雷蔵は、空中をゆっくり飛ぶか、歩くかして、歩みをトラックに合わせた。
トラックに乗せて行くことが出来れば、交代で運転する。ちょっとした旅行気分の予定だったが、風子の予定は崩れ去った。
「この体勢きついなぁ」
「分かるぜ、バイク型と言うのは、気合が入っていいが、手首が痛い。」
プラスして、己のパイロットスーツのセクシー具合に嫌気がさしていた。風子はせめて上半身だけは丈の少し長いジャージを身に纏っていた。
行く途中、ところどころ二人は暇つぶしに模擬戦を繰り返した。
機体の相性的に、どうしても近距離特化の雷神さまでは、厳しい結果だった。
雷蔵は、聡次郎にどうにか、遠距離……せめて中距離の武器を希望していたが、「浪漫」の一言で却下されていた。
風子は着実に風神さまを乗りこなしてきていた。
戦闘を始めた風子を見て、聡次郎はいつの間にか、風子をなぜか先輩呼びするようになっていた。
「智子さん、風子先輩まじぱねぇっす。雷蔵さんも頑張っているけど、センスがけた違いですね。」
「せ、せんぱい?雷蔵さん?……聡次郎ちゃんキャラ崩壊しているよ。」
「前世の記憶がなくても、余程の戦闘経験があるのではないかと僕は思いますね。」
「攻撃的だけど、冷静に物を見ていて、すごいよね。パイロット向きというか……」
ふわふわと、戦闘が終わった風子は、気晴らしに廃墟の街の上空を浮遊していた。
人がすまなくなって、数百年。かつての文明も、放っておけば自然に帰って行く、自然と言うのは偉大だなと思った。
これだけの文明を築いておきながら、よくあっさりとそれまでのものを捨て去り、新しい生活に移行できたものだなと風子は漠然と思った。
保守的に、今までの生活を続けたいと思う人達はいなかったのか?抵抗した人はいなかったのだろうか?
街は、廃墟と化していて、そこにはかつて争いがあったのかさえ、見てとれないほどであった。
風子には前世の記憶がなかったが、考えると疑問に思うことがあった。
なんでも、他の人類は、霊子のサーバーの中の仮想現実に住んでいて、自分達はそれらをメンテする様に、現実世界にリアライズされているという事だったが、果たしてサーバーのある現実世界がこの様に衰退した状態でインフラは大丈夫なのだろうか?
発電をするにしても、送電はどうするのか?
街の管理は?下水、上水の管理は?ゴミは?
道路の保守点検は?アンドロイドが街を整備しているのなら、アンドロイドは誰がメンテをしているのか?人間か?
その人間が病気か何かで死んだらどうなる?あまりに多様性もないし、脆弱過ぎやしないか?
風子は自分の母親をはじめ、多くのアンドロイドを見て来たが、やはりこの社会はおかしい気がした。周りの皆が普通と思う世界をどこか不自然に感じていた。
地平線の先に太陽が沈んで行くのを見ながら、浮かぶ青い月を見ながら、「人は頭を使うと不幸になる。」そう独り言を言って、帰投した。
何日目かのキャンプをして、あと2日位後には大会会場に着く……そうしたらひとまず一生懸命優勝を目指して戦おう。そう風子は思った。




