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厄災 戦争の記憶

 「きな臭い?」


 そう風子は感想を持った。

 そもそも、多脚戦車自体、戦争が出来そうな兵装を持っているではないか?

 

 その昔、霊子が発見された後の時代。

 ある人物が世界に蔓延させたウィルス。それは霊子に悪意を込めること。

 たったそれだけのことで起こった。

 それは魔素と呼ばれ、病気の様に人を蝕み、多くのものが息絶えた。

 計算外の事態として、魔素をため込んだ死体からは、怪物が生まれた。

 はじめ巨大な虫のようなかたちをしていたが、すぐに他の個体を取り込み、羽を持つもの、水に海に対応するもの、地中に潜むもの、四足で歩くもの、恐竜のように巨大なもの、人のように二足歩行をし、知恵を持つものも現れた。

それらの虫は、残った人類と同等の固体数にまで増えた。

世界は魔素で満ちており、魔素を食べる虫たちにとって、繁殖には十分な環境が整っていた。

虫は人々を好んで襲うことは無かったが、知恵を持つ虫には、生前人間だったころの妬み嫉み憎しみを覚えており、残った人類に対し、本能にも似た憎しみを持っていた。

虫を研究し、それを知った人類にとっては、脅威と判断するには十分な理由だった。

人類は、それらの虫の駆除に乗り出した。

 人類の誇りを象徴し、霊子を活用した人型兵器を作成し、魂を砕く剣と、魂を射抜く銃を装備させた。


虫サイドも、駆除されまいと抵抗し、大きな戦争へと発展した。

世界の霊子と魔素は乱れ、圧倒的に魂の量が不足していった。

抵抗力の弱い種の、虫や人は、戦場に赴くことも無く死んでいった。


 その戦争はあまりに長く、ひたすら辛いものだった。

 前世の記憶を持つという事は、それらの記憶を持つということだ。

 生まれ変わっても、生まれ変わっても戦争が続いていて、常に苦しみが続くというのは、まさに逃げ場のない地獄そのものをこの世の中に体現させたようだった。


 前世の記憶を持たない風子には分かり様も無い苦しみだった。


 『虫』を駆除してずいぶん時間が経っているが、多くの参加者に対して不快感を与えた。

 智子はタブレットタイプのデバイスで、ロボコン関係のSNSの画面を開いて、つぶやき、コメントを確認していた。

 参加者からの批判はもちろん、かつての参加者や、一般のロボコンファンからの批判も上がっていた。


 「さすがに大会主催者の悪趣味ぶりが……」


 智子は難しい顔をしていた。


 風子は先日のゴリ戦車での殴り合いを思い出していた。

 あの戦車戦の悪趣味に対して、何も言わずに笑っているような人たちが、ここまで批判すると言うのが、事態の深刻さを物語っていた。


 「思い出しただけで頭が痛くなってきた……」


 参加者の中には、不参加を表明しているチームもすでに上がっていた。


 「大会主催者からのコメントも出ていますね。」


 聡次郎が、コメントを要約して読み上げてくれた。

 

 「虫の脅威が去って数百年経過し、環境も文化も旧世紀の繁栄を取り戻しつつありますが、また脅威が訪れた事を想定して、霊子兵器のメンテナンス。新たな技術への挑戦と、より良い世界の発展をめざし、かつてのテクノロジーを使いたいそうです。」


 「前向きでよいことじゃないか!」


 雷蔵はどこかひきつった表情だったが、元気に言っていた。

 風子も補足する。


 「まぁ、いつの世も科学は戦争の道具にされがちだけど、それはいつの世も扱う人間の心次第なんじゃない?」

 

 この問題の本質は、戦争体験者のトラウマを呼び起こすから、傷つく人がいるから辞めようよという事だが、実はこの理屈だとすべての事はやるべきではないと言う理屈になってしまう。

 それは皆わかっているから、論点をずらしてしまう。


 風子の発言を、智子はそのままSNSに描きこんだ。

 確かに戦争と聞いただけで、拒絶反応を起こして、否定的に考えるのは、あまり建設的ではない。

 戦争が何故起きたのか?どうすれば回避できたのか?

 歴史を学ぶとはそういうことだ。

 SNS上は若干、霊子兵器に対するアレルギーに満ちていたが、一週間と日が経つごとに、だんだんと落ち着いて行き、いつしかお祭りムードに満ちていた。


 「なんなのこのおめでたい人たちは?」


 人間とは忘れて行く生きものという事を実感し、そう風子は独り言を漏らした。


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