巨大ロボットバトル!
青い空、ギラギラと町を照らす太陽。野鳥の声が響きわたり、野生に還った犬が町を走っていた。
季節は夏だったが、クーラーの室外機や、車の排気ガス。なにより多くの人間が吐きだす二酸化炭素の減少により、かつてのこの町よりは涼しい夏を迎えることが出来ていた。
町にはすでに人が住んでいない廃墟だ。
長い間人が住んでおらず、老朽化で朽ちたビル。
道路は割れて、草木が生えていた。かつて地下鉄が走っていた地下の空洞には、水がたまっていた。地下街なども同様だった。
木造建築だっただろう建造物は大方自然発火により焼失していたが、それも大分前のことで、その形跡を探すのはもはや遺跡調査の域だった。
かつては地方都市だったこの町も、人の管理がなければ、川は氾濫し、土砂崩れで地形はかわり、見る影もなくなっていた。
人がこの町に住まなくなってから、300年以上は経過しているらしかった。
ジャングルとまではいかないが、もはや遺跡といった感じだ。
気温は下がったが、湿度は高く、不快指数は高かった。
そんなボロボロの街の中を、一つの動く建造物があった。
それは人型だったが、大きな姿をしていて、素材は金属。吸気音と排気音、各関節の駆動音を響かせて、動く身の丈15mほどの巨大な二足人型ロボットだった。
ロボットはズングリとして体形をしていた。コクピット部分が入っていると思われる胴体は基本球の形をしていて、太い両足がドシンと大地を踏みしめ、各センサが集中した頭部はやや縦長で、頭頂部には鬼の顔のレリーフが浮かび上がっていた。
両手には、チベット密教の道具プルパの様な形をした剣を持っていた。
中でも特徴的なのは、後部に配置されたリング状に配置されたジェットエンジンで、風神雷神図のなかで描かれる雷神さまの太鼓を彷彿とさせるシルエットだった。
なぜ有人機なのが分かるのか?
そのロボには、外部スピーカーが付いていて、パイロットの声が筒抜けだったからだ。
「おい、卑怯だぞ!」
ガラの悪い男の声が聞こえた。
その巨体に似合わない俊敏さで、ビルの合間に姿を雷神さまは身を隠し、センサを上空に向けた。
パイロットの周りの空間に、立体映像のモニタが表示される。素早く操作し、望遠映像で敵の姿を探した。
「あれか……やばっ!」
コクピットはバイクに跨るような形式の物だったが、パイロットは左手のレバーを半分離しながら、右手のハンドルのグリップを素早く捻った。
敵を見つけたが、危険と判断して出力を上げると、雷神さまは急発進した。上空の敵が、遠距離から砲撃を仕掛けて来ていたのだ。
射撃される弾丸は、町のビルを貫いて、標的をあぶりだす。
あぶりだされた標的雷神さまが、居た地点は崩れたビルの残骸で埋もれてしまった。
間一髪、急発進して回避した雷神さまは、その勢いで周りの建物をなぎ倒しつつ体勢を整えた。
「おいっ!雷神には、遠距離武器はないのか!」
無線に怒鳴る。
「……あーー、もしもし、雷蔵君?すまない、雷神さまは近距離戦闘様に特化してあるから、武器はその二刀流の剣しかないのだよ。」
無線からは、まるで緊張感のない声が返答されてきた。
「くぅ、この野郎……!」
「……雷蔵君……近距離武器しかないなんてこれは浪漫ないのだよ。理解してくれ。」
門前の虎、後方の狼とはこのことか!(違う)とコクピットの雷蔵は思った。
出力を上げると、雷神さまは空中を飛びあがり、ビルの廃墟を乱暴に蹴りあがり、上空の敵へと向かった。
敵はまっすぐ数発弾丸を放ったが、雷神さまと雷蔵は、野生の感とも言える反射神経で、剣で弾き飛ばした。
「よし、見えた。」
正確には肉眼ではなく、雷神さまのセンサによる映像だが、敵の姿をとらえることが出来た。
敵のロボットのシルエットは、雷神さまに似て、やはり球から太い足が伸び、手が生えていた。両肩にはおそらくフライトユニットと見られるパーツが接続され、武器は遠距離射撃が出来るライフルだったが、形はどことなく弓矢のように見えた。
頭は、やや後方に長く、額には雷神さま同様に鬼の顔のレリーフがうかびあがっていた。
特徴的なものは、胸と背中、それに腰回りには、緑色に発光する布のようなものがはためいていた。風神雷神図のなかで描かれる風神さまの風を噴出す袋と、風を受けてはためく布飾りを彷彿とさせるシルエットだった。
「よっしゃ!風神!往生せいやぁ!」
大振りせず、無駄のない突きの構えで突撃する雷神さまの動きをそのまま攻撃へと変えた。
風神さまの腰飾りのパーツが緑色に発光すると、自動的に伸縮し、攻撃を受け止め、いなした。
風神さまの躱した反動でそのまま半回転すると、雷神さまに回し蹴りを放った。
「ぐはぁ!」
スピーカーから聞こえる叫び声に、風神さまは一瞬動きを止めたが、その隙を突く余裕は雷蔵にはなかった。勝負は決していた。
雷神さまは、何とか体勢を整えながら、地上に向けて落ちて行った。
風神さまのコクピット内のモニタには、「you win」の文字が表示されていた。
黒髪をかきあげて、ドリンクホルダから飲み物を取り出すと、乾いたのどに水分を流し込む。やはり緊張していたのか、水分が体によく染み入る感覚を味わいながら、風神さまの出力を落とし、ロボを自軍の陣地に帰投させる。
「まったくあいつは、なんであんなに暑苦しい戦いをするかなぁ……」
風神さまのパイロットは、自機の外部スピーカーがオフなことを再度確認してから、独り言を言った。
「えぇ、風子先輩。そこが雷蔵さんの素敵なところじゃないですか!?」
自分の陣営の無線が、そうパイロットの風子に反してきた。
「え……バカなだけじゃ……」
「徹底したロールプレイってやつですよぉ……先輩わかってないなぁ」




