2話★ ボクの名前
「ツ・カ・サって、発音しにくいよね」
食堂の看板を下ろして鍵をかけながら、マックが言った。
え!?
いや、それより、この店って、マックの店だったの?
驚く僕を後にして、マックもDも店の裏手に入って行った。
「同じアジア人のお前でも、発音しにくいのか?」
Dがマックを一瞥して言った。
「Dのイジワル〜!俺がほとんど中国語しゃべれないの、知ってるでしょうに。母音の連続攻撃なんて、もう発音、不可能なんだって!」
マックが大げさに嘆いてみせた。
「と言うことで、君の名は今日からツークとしよう」
ビシッと僕に人差し指をつきたてて、マックが満足そうに宣言した。
え?
勝手に命名?
「な? Dだって、ツカサよりツークの方が言い易いだろ?」
マックがDに同意を求めると、
「どっちでも、いいから」
と冷たい返事。
そう、Dは僕のこと、どうでもいい存在なんでしょうね、きっと。
そんな無駄話をしながら、Dとマックは駐車場のシャッターを開けて、大きなバイクを中から出してきた。
「俺はドローンを乗っけてくから、ツークはDのケツに乗せてもらいな」
そう言うと、マックはドローンをバイクの荷台にしっかり固定した。
僕がおずおずとDを見ると、Dは眉間にシワを寄せながら、
「ほら!」
っと、ヘルメットをボクに投げてよこした。
やばい…バイクに乗せてもらうなんて、生まれて初めてなんだけど、バレたら馬鹿にされるだろうか。
僕は出来るだけ平気なフリをして、Dのバイクの後ろにサッと乗る。
やばい!
けっこう高くて怖いかも。
Dの風貌からして、絶対、無謀な運転しそうじゃん!
ボク、絶叫系のアトラクションは無理な人なんだけど。
不安で挙動不審になりつつある僕の腕をDが掴むと、
「ちゃんと捕まっとけ」
そう言って、彼の腰に腕を回すよう指示された。
「あの、D…」
「何だ?」
Dが僕を振り返る。
「あまり、スピード出さないでくれると助かる…」
消え入りそうな声でそう頼む僕に、いっそう眉間にシワを寄せてみせたD。
あ、やっぱ、馬鹿にされたか。