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ふたり  作者: ちかおり
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1話★ Dとマック

 それにしても…。

 ディーは、僕がこの辺りで迷子になってるって、マクロバンナ氏に聞いて、迎えに来てくれたってことだよな。

 マクロバンナ氏は、なんで、僕の居場所が分かったんだろう。

 次々といろんな疑問が頭に浮かんだけれど、Dに質問できるような空気でもなく、僕は彼の後を無言で付いて行くしかなかった。


 10分ほど歩くと中華街があらわれた。

 色彩の華やかな看板が立ち並び、歩いている人もアジア系の人ばかりだ。

 しかし、中華街といっても、観光客が寄りつきそうもない、なんとなく排他的な空気をまとった街なのだった。

 地元の中国系アメリカ人たちが住んでいるエリアだろうか。

 そこに不釣り合いな、芸能人オーラ満載のDだったが、臆することなくどんどん中華街に入り込んで行く。

 途中、またもや柄の悪そうな、今度はアジア系の少年たちが、Dに声をかけていた。

 でも、会話が早すぎて、僕には聞き取れなかった。

 と、ふいに、Dが僕を振り返る。

「着いたぞ」

 Dは、顎をしゃくって、その場所を指した。

 そこは、かなり年季の入った食堂だった。Dに続いて店に入ったが、客は誰もいなかった。


「や~、いらっしゃいませ~」

 奥から声がしたかと思うと、スキンヘッドのアジア系の少年が厨房から出てきた。

 優しそうな顔とはうらはらに、筋肉ムキムキで背も大きく、Dとはまた別の意味でオーラのある少年だった。

「きみ、ツカサ君かな?」

 かがんで僕の顔を覗き込んだ。

「は…はい。そうです。あなたがマクロバンナ氏ですか?」

 僕の問いに、スキンヘッドの彼はにっこり笑って、

「ネットオークションでは、その名前で、自分の作品を出品してるよ。よかったら、マックって呼んでね~」

 と、答えた。

 感じの良さそうな人だ。

「はじめまして。今回、マックさんの作品を落札させてもらいました。ツカサ伊藤っていいます」

 マックは「うんうん」と頷きながら、

「ツカサ君、道に迷ってるみたいだったから、友人に迎えに行ってもらったんだよ」

 と、Dを指差して言った。

「多分、こいつのことだから、きみ、自己紹介もなしにここまで連れてこられたんじゃない? 無愛想でごめんね~」

「い、いえ。」

「彼はDって名前で通ってるから、そう呼んでやってね」

 マックはDの肩に腕を回して、僕を見てウインクした。

「あ、はい。D…さん。さっきは助けていただいて、あと、ここまで案内していただいて、ありがとうございます」

 僕がお辞儀をすると、Dは驚いたような顔をして、じっと僕を見ている。アメリカ人の少年だし、お辞儀なんてされた経験なかったのかな。

 Dの緑の瞳がキラキラ光っていて、宝石みたいに綺麗で、僕はなんだか急に恥ずかしくなってしまった。

 Dの視線から逃れるため、僕はマックに質問をした。

「あの、マックさんはなんで僕が迷子になってるって分かったんですか?」

 するとマックは、

「ほら、ぼくって、機械マニアじゃん?きみの携帯番号を知ってたから、ちゃちゃっと位置も分かっちゃうんだよ。」と言って、またウインクした。


 確かに、機械マニアだからこそ、マックの出品したドローンを落札したわけだが…。

 マック自身がパーツを組み立てて、大気圏外、つまり宇宙まで行けるドローンだ。

 ドローン作成の評価が高いマックだったから、値段も高値になってしまったが、僕はオークションで必死に競り勝ったのだ。

 すると、ずっと無言で話を聞いていたDが口を開いた。

「それにしても、そんな高いおもちゃ、子供が何に使うんだ?」

 Dは呆れた様子で聞いてきた。

 子供って…、自分だって子供だろうに。僕は明らかにムッとした表情をした、のだと思う。

 それを察したマックがフォローのつもりで、僕の顔を覗き込んで言った。

「そうだよね~。結構な金額だったし、わざわざ日本から取りに来るってのも、不思議な話だよね~」

 マックには、修学旅行のついでに取りに来たって説明、特にしてなかったな、と僕は気づいた。

 わざわざ日本から、ドローンを取りに来た、頭おかしい日本人のガキと思われているのか?僕。

「日本に…持って帰るつもりはないんです。

こっちで飛ばそうかと思って、宇宙に」

 僕がそう言うと、マックは驚いたような、そして次に納得したような表情になった。

「ドローンに、1インチ四方の荷物を乗せれるスペースを作ってほしいって注文だったよね。あれが、理由なのかな?」

「…はい」

 ドローンを買うお金は、今まで使わず貯めてきたお年玉を全部、はたいたものだ。親が聞いたら卒倒するだろう。

 僕の説明に、マックもDも、それ以上は聞いてこなかった。


「じゃあ、ドローンを持ってくるね」

 マックがドローンを、店のお奥に取りに行っている間、僕はDと2人っきりになった。

 無言…

 何の接点もないので、会話のきっかけもなく、気まずい空気だけが流れる。

 Dを見ると、腕を組んで窓の外をじっと見ていた。そんな様子も映画の俳優みたいで格好いい。

 世の中には、こんな完璧なイケメンもいるんだな~。僕みたいに、チビでガリガリで、顔もあっさり単純な作りの人間からすると、正直、羨ましい限りだ。

 そして、マックが持ってきたドローンは、結構な大きさだった。

「けっこう重いし、ツカサが持つには、大変かもね」とマックは言った。

「大丈夫です」

 そう言って、僕が受け取ろうと手を伸ばすと、Dがサッとドローンを受け取ったのだ。

「いや、俺が持つわ」

 Dが僕を見た。その日あった中で一番優しい表情だった。

「ツカサ、飛ばす場所は決めているのか?」

 え…、Dも来てくれるわけ?僕はボーゼンと立ち尽くしてしまった。

 マックが僕の肩をポンッと叩いた。

「ツカサくん、ぼくも一緒に行くからね。制作者だし、操縦はまかせて。確実に宇宙まで大切な荷物を届けよう!」

 




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