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死神で殺る

「最初に言っておきますけど、私は女神ですからねーっ!!」



 などと供述しており。

 死神シェキナは今日もスミレ暗殺計画を練っている。


「女神ですからねーっ!! 大事なことなので二回言いましたーっ!!」


 話は少しずれるのだが『死神シェキナ』って『女神シェキナ』より語呂良くね?


「女神ですーっ!! 何度も言わせないでくださーい!! はぁはぁ……。しかし、あの兄妹にも困ったものです。私の魔の手をここまで退けるとは……。……『私の魔の手』って自分で言っちゃった……死にたい……」


 一人で叫んだり落ち込んだり、忙しい女神である。

 ……いや、今日の彼女は一人ではない。


「ふふふ……。そう! 今日の私は一人じゃないのです! 故郷ニューデリアより、強力な助っ人を連れてきたのですからね! さぁ、カモンマイフレンズ!!」


 シェキナに呼ばれて出てきたのは、黒いローブを羽織り、黒いフードを深く被り、全身は文字通りの骨、大きな鎌を引っ提げている異形の存在。


 言ってしまえば死神である。

 シェキナのような半端者ではない、リアルガチ死神である。


「半端者って何ですかーっ!? 善の女神って言ってるでしょーがーっ!!」


「まぁまぁ姐さん、落ち着いて」


 死神がシェキナをなだめる。

 彼は元々魔王軍の所属なのだが、シェキナに籠絡ろうらくされて彼女の手駒となった。

 彼女の目的が『異世界から勇者を呼ぶこと』であることももちろん知っている。

 知っていて、彼女のために魔王軍に反旗を翻したのだ。

 彼は、シェキナのどこを気に入ったのだろう。いやマジで。



「ふふふ……。みんな私のことを死神、死神って、そんなに言うなら本当の死神を見せてあげます! いくらあのお兄さんが超人でも、襲い来る死の運命には抗えないでしょう! これはもう完全に私の勝ちですね! 妹さんはもらいます!!」


「姐さん。そうやって調子に乗ってるとまた失敗しますぜ? 死亡フラグってヤツでさぁ」


「おお、さすが死神くん! そういう死の運命的なものに敏感なのね! これはますます頼りになるわ! 私ってばもう大船に乗った気分ね!」


「姐さーん……」


 無自覚なのか確信犯なのか、死亡フラグを乱発するシェキナ。

 そんなシェキナを呆れた目で見つめる死神。目無いけど。


「……それで、オレは誰をればいいんです? 姐さん」


「よくぞ聞いてくれました! あなたにってほしいのは、あの子よ!」


 そう言ってシェキナは、物陰から斉賀兄妹を指差した。




「俺は家事を終わらせたら学校に行く。気を付けて行け」


「わかった。それじゃ先に行ってるね、お兄ちゃん」


 アルトに見送られ、スミレは学校に登校する。

 ちょうど、シェキナたちが隠れている物陰の側を通過するルートだ。


(あの女の子をるんですかい? 姐さんでもれそうなのに……)


(あの子だけならね……。ただ、あの子のお兄さんが鬼のように強いのよ)


(へぇ。そりゃ興味深い)


(とにかく、お兄さんに気付かれないうちに、サクッと妹さんをっちゃって! ザラキでもムドオンでもアバダケダブラでも何でも使って、妹さんを仕留めちゃって!)


(ウチの世界にそんな呪文無いでしょうに。……ま、いいです。では早速……!)


 死神が両手で印を結ぶと、彼の身体から漆黒の波動が放たれた。

 これは普通の人には見えない『死の奔流』である。


った! 当たる! あのままいけば間違いなく当たる!!)


(姐さん、だからそれ死亡フラグ……)


 死の奔流は、真っ直ぐスミレへと向かう。

 アルトはまだ駆け付けていない。

 やはり死の運命には打ち勝てないのか、そう思ったその時。



 死の奔流は、スミレを飲み込んだ。


「当たった………」


 信じられないものを目撃したかのように呟くシェキナ。


「当たった………!」


 だんだんと嬉しさが込み上げてくるシェキナ。


「当たったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 思いっきりガッツポーズをするシェキナ。

 この喜びよう、死神よりよっぽど死神である。


った! 勝った! 仕留めた! ついに妹さんをニューデリアに送れますよー!! バンザァーイ!!!」


「……いや、待て姐さん。アレを見てくれ」


「あっ見たくない!! この流れでそのセリフ、絶対悪い報告だもん!! 見たくない!!」


「そうは言うがな、目の前の現実は変わらないんだ。観念して見てくれ」


「うう……一体何なんですかぁ……?」


 シェキナが恐る恐る死神が指差す方を見ると、そこにはピンピンしているスミレの姿が。


「なんで!? 確かに死の奔流当たりましたよね!? あなたの力がヘボかったとか!?」


「そんなこたぁない! オレの力は冥界随一だ! アレだ! アレを見てくれ!」


「ええと、どれですかぁ……?」


 再び死神が指差す方を見ると、そこには一つのお守りが落ちている。


「オレの死の奔流を浴びた時、嬢ちゃんの鞄に付いていたアレが、千切れて落ちたんだ。ありゃあ即死に耐性を付けるアクセサリーなんじゃねぇか?」


「あのお守りは…………あのお守りは…………!」


 シェキナは、そのお守りに見覚えがあった。


 読者の皆様は覚えているだろうか。

 記念すべき第一話『トラックで殺る』の作中で、アルトがスミレに渡した白いお守りを。

 ……このお話から読んでるから見てない? すぐに読んでくるんだ。


 今、道路に落ちているのはそれだ。

 死神の『死の奔流』からスミレを守り、役目を終えて、地に落ちたのだ。


「くっ……なんと命運の強い……! ですが、これでもうあの子の即死耐性は消えました! 死神さん、第二波です! 次の奔流であの子を仕留めてください!」


「おうよ! 任せろ!」


「させると思うか?」


「げっ……!」


 シェキナと死神がやり取りを交わしている内に、アルトが二人に気付いて、二人の目の前に立ちはだかった。


「ふむ、死神が二人……。参ったな、元々俺たちを襲ってきてたのはどっちだったか分からなくなる」


「どー見ても私でしょーが!! 美少女女神と骨ですよ!? 何で分からないんですか!!」


「まぁどうでもいい。二人とも殴るから同じことだ」


「言ってくれるじゃねぇか人間サンよぉ! だったら喰らえ、死の奔りゅ―――」


「遅い」


「ぶげぇ!?」


 死神が『死の奔流』を放つ前に、アルトが死神を殴り飛ばした。

 死神は地面と平行に吹っ飛んでいき、その先のブロック塀に激突し、バラバラになった。

 それを確認したアルトは、シェキナに歩み寄る。


「さて、次はお前だ。言い遺したいことはあるか」


「あー、えーと、その、あのお守りは何だったんです? どこで手に入れたものですか?」


「あれか? 俺が作った」


「まさかの自作!?」


「妹が危険な目にあわないように、愛をこめてな」


「うわぁ………」


 ドン引きする女神。

 一方、アルトは顎に指をあてながら、何やら思案している。


「……ふむ、しかし、お前らのせいでお守りの力が切れてしまった。新しいものを作らなければならん」


「い、言っておきますけどお守りの材料費なんて持ってませんからね、私は。どうぞ殴るなら一思いに殴ってください!」


「……うーむ。思ったんだが、お前が着ているその白いローブ、聖なる力を感じるな」


「あ、分かっちゃいます? 天界の高級ブランドでオーダーメイドしてもらった特注品なんですよ」


「そうか。……よし、それを次のお守りの生地にしよう」


「……へ?」


 そう言うと、アルトはシェキナのローブのすそを掴み、千切り始めた。


「きゃあぁぁぁぁぁ!? な、何してるんですかぁぁぁぁ!?」


「生地を分けてもらっているところだ。安心しろ、そんなに多くは貰わん」


「ふざけないでください! 乙女の服を、あなた、そんな……!」


「そうケチケチするな。先っちょだけ。先っちょだけで良いから」


「いやーっ!! 誰かーっ!! 汚されるーっ!!」



 しかしシェキナの悲鳴を聞き届けてくれる者は誰一人として現れず。

 特注品のローブは無残に引き裂かれてしまった。先っちょだけ。


「うう……もうお嫁に行けない……」


「お前なんかを貰ってくれる男がいるのか」


「」


「……悪いことを聞いてしまったらしい。俺は学校に行くとしよう」


 押し黙るシェキナを見て、彼女の恋愛事情を察したアルトは、そそくさと退散してしまった。



 見た目はまさしく絶世の美少女であるシェキナだが、皆さんご存じの通り、彼女は性格がかなり、いや凄まじく残念である。


 彼女の傍若無人っぷりは、ニューデリアの天界でも非常に有名である。

 シェキナに対する男神たちからの評価も「中身以外は最高の女」、「見た目は宝石箱、中身は火薬庫」、「喋る危険物」、「タスケテ」など散々なものである。


 ニューデリアの地上において、彼女は善性の他に、豊穣と愛を司る女神としてまつられているが、肝心の彼女が愛を実らせることをできていない。それこそ彼女の最大のコンプレックスであった。



「はぁ……。どこかに私だけを見てくれる、イケメン年収1000万の男神サマはいないものですかね……」


 絶望のため息をつくシェキナ。

 そんな彼女に、首だけになった死神が声をかける。


「姐さん、オレで良かったら……」


「え? 死神くん……?」


「今だから言うけど、オレ、姐さんに惚れて魔王軍を抜けたんだよ。この先、全てが敵に回ったとしても、オレは姐さんを見捨てない。姐さんだけを見てる。だから姐さん、オレと一緒になってほしい」


「あ、ごめんなさい。私、骨っぽい人はちょっと無理」


「あっオレ死んだ」


 残酷極まりない即答であった。

 ざんねん!! 死神の はつこいは ここで おわってしまった!!


 この冷血女神が良い相手を見つけられないのは、相手に求める条件がキツ過ぎるのもあるからだということを、そろそろ誰か気づかせてやるべきである。

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