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駅のホームで殺る

 日曜日、スミレは友達と共にS市の中心街へと遊びに来ていた。

 思い思いのままに休日を満喫し、日が暮れてきたころ、友達と別れて帰路につく。

 

 スミレはこの中心街まで電車で来ていた。

 S駅に到着すると、切符を購入し、改札を抜けて、駅のホームに上がる。

 偶然か日頃の行いか、まだホームに並んでいる人はいない。


「あ、やった。いてる。誰も並んでない」


 スミレはホームの淵に立ち、静かに電車を待つ。



 そんなスミレを背後から尾行する女神が一人。


(ふふふ、喜んでもらえているようで何よりです! 私も因果律をいじってあなたを最前列に並ばせた甲斐がありましたよ!)


 つまり電車に並ぶ列が空いていたのは偶然でも、ましてや日頃の行いでもない。

 コイツの仕業である。

 こんな下らない因果律操作を行う存在など、現在の地球上には一人しかいない。

 シェキナことクソ女神である。


「逆! 逆だから! そこは『クソ女神ことシェキナ様である』でしょ!? ……って、私はクソ女神じゃなーい!!」



 シェキナは叫ぶが、その方向には誰もいない。

 傍から見れば、聞こえてはいけない声が聞こえている、危ない人である。

 さらに言うと、ここは日本の都会の中心駅であるが、シェキナの服装は相変わらずファンタジーな白ローブである。


 これは目立つ。悪い意味で非常に目立つ。

 コスプレイヤーと思われればまだ良い方だろう。

 下手をすると新手の痴女とも思われかねない。


「ママ―。変なカッコの女の人がいるよー?」


「シッ。見ちゃいけません!」


 近くの親子連れがシェキナから距離を取る。

 他の人々も奇異の目でシェキナをチラチラと見やる。


「うぐぐ……。視線が痛いです。でも、ここであの子をニューデリアに連れていくことができれば、こんなみじめな思いともおさらばです……!」


 今回の作戦は、こうだ。


 まず、ホームの淵に並んでいるスミレに、背後からこっそりと近づく。

 そしてスミレをホームから線路に突き落とし、到着した電車にひいてもらう。

 以上。

 わっっっかりやすい作戦である。


 罪の無い少女の命は奪われ、人身事故により電車のダイヤルは大きく狂う。

 誰一人として幸せにならないクソ作戦である。

 だがシェキナは気に留めない。

 電車のダイヤルより、世界の命運の方が大事に決まっているからだ。



「電車に身投げっていうのも、この世界では非常にポピュラーな自殺方法ですからねーっ! 転生には持ってこいですよねーっ!」


「思いっきり他殺だろうが。だが、あの子の兄がまた助けに来るんじゃないか?」


「ふふふ、もちろん来るでしょうね。しかし! 今日はそこも対策済みです!」


 スミレの兄、アルトには、自身の信者たる女神官たちをニューデリアから召喚し、けしかけた。

 シェキナの女神官には、身目麗しい女性しか就くことができない。

 今、アルトはニューデリア屈指の美女たち総勢50人に取り囲まれているところだろう。

 それも、美幼女から美少女に美女、美熟女まで幅広く。


 これだけ揃えていれば、誰か一人はアルトの好みにヒットするだろうという作戦である。

 こうして時間稼ぎしている間に、スミレを線路に突き落とすのだ。



「電車が来たと同時にあの子を突き落とします。きっとお兄さんは助けに来る暇もないでしょう。おお……我ながらなんと完璧な作戦……! 自分でも恐ろしいほどの智将っぷりです。さぁいざ、電車でGO TO HELL!!」


「智将というか、畜生だがな」


「む。仮にもニューデリアの女神である私に向かって、畜生とは不敬ですね。というか、どこの誰ですかさっきから私にふざけたことを抜かす無礼者は」


 シェキナが振り返ると、そこに立っていたのはアルトだった。





 繰り返す。

 アルトだった。


「あれぇ……? 何でここに……?」


「やぁ」


「あ、どうも……」


「突き落とす前に阻止してしまえば、作戦も何も無いな」


「お、仰る通りで……」


「……あれ? お兄ちゃん? それに死神さんも……」


 と、スミレが後ろにいた二人に気付き、声をかけてきた。


「無事だったかスミレ。死神コイツがまた悪さをしようとしていたようだ」


「死神じゃなくて女神ですーっ! ……ところでお兄さん、一つ聞きたいんですけど」


「何だ?」


「私、ちゃんとシェキナ女神官軍団をあなたにけしかけましたよね? 何でここにいるんです? 今頃あなたは美女たちに囲まれて骨抜きになっている予定だったんですけど」


「そんなことか。なぜなら、俺は妹以外の女性に興味は無い」


「うわぁ……。…………うわぁ」


 ドン引きのあまり二回も声を漏らすシェキナ。

 一方のスミレはというと、顔を赤らめている。



(え? 脈アリ? 脈アリなのですか!? この兄妹、業が深い……!)


「……あ、お兄ちゃん、電車来たみたい」


「そのようだな。一緒に帰るか。……おい、お前も乗れ」


「え? 何で私もなんです? 今日はもう帰ろうかなって……」


「良いから乗れ。電車好きだろう?」


 パキポキと指を鳴らすアルト。


「わぁい電車。シェキナ電車大好き」


 顔色を青くしながら答えるシェキナ。


 こうして三人は電車に乗った。

 電車の中は程よく空いており、三人は揃って椅子に座ることができた。

 真ん中にアルトが座り、右にシェキナ、左にスミレという構図である。


「ふふふ、お兄さん、両手に花ですねぇ」


「そうだな。片方がトリカブトだが」


「妹さんをトリカブト呼ばわりですか」


「しばくぞトリカブト」


「ごめんなさい」


 電車が出発する。

 ガタンゴトンと揺れながら、線路を走って行く。



「……で、結局何で私も電車に乗せられたんです?」


「聞きたいことがあった。お前、仮にも神だろ。自分で魔王を倒すことはできんのか」


「やろうと思えばできますけど、古の盟約だとか神々の掟だとかで、私が直接戦うわけにはいかないのですよ……」


「ファンタジーの世界っていうのは面倒くさいな」


「ええ。こうしている間にも多くの人々が苦しめられているというのに、まったく、お上は本当に頭が固いんですから! ……というワケで妹さんください」


「しばくぞトリカブト」


「ごめんなさい」


「もう一つ聞きたいことがある。なぜこんな街中で、そんな白ローブ着てるんだ? 目立つだろ」


「あー、これはですね、他の服を用意する余裕が無かったと言いますか……」


「仮にも神なのに、そんなに懐が寒いのか」


「私の世界、ニューデリアは魔王の軍勢に圧されてまして、人々は神に供え物をする余裕さえ無いんですよ。よって供え物を貰えない私もスカンピン、というワケです……」


「死神も大変だな」


「女神ですーっ! ……というワケで妹さんください」


「しばトリ」


「めんご」



 三人とその他大勢を乗せて電車は走る。

 目的地の駅までまだ少しかかりそうだ。


「あのー、私からも聞きたいことが」


「妹を寄越せとか言い出したら、今度こそしばく」


「ち、違いますよぅ……。私はただ、あなたがなんでそんなに強いのかなーって気になっただけですぅ……」


「深い理由は無い。毎日8時間半の睡眠時間を取り、筋トレを欠かさず、栄養管理を怠らない。そうすれば、強い身体は自然と出来上がる」


「……それにしたって強すぎません?」


「そんなことはない。特に睡眠時間が重要だ。日本人は寝なさすぎなんだよ」


「は、はぁ。そうですか……」


 電車は、あと3分ほどで目的の駅に到着する。

 その時、シェキナはあることを思いついた。


「……お兄さん。私、閃いちゃいました」


「なんだ」


「今から私が因果律をいじって、この電車を脱線させれば、妹さんをれるのでは?」


「お前、そうするとその他大勢の人が犠牲になるぞ」


「ふふふ、ニューデリアの未来を想えば、必要な犠牲です……!」


「そうか。とりあえずお前、冷静に車内を見回してみろ」


「車内を?」


 アルトに言われ、シェキナは電車の車内を見回す。

 多くの人々がいる。

 友達と仲良く話す女子高生たち。

 生まれたばかりであろう赤ん坊を抱きかかえる母親。

 その様子を優しい表情で見守るお年寄り。

 窓からは陽の光が差し込み、電車内を明るく照らす。

 なんと暖かい光景なのだろう。


「お前、この光景をぶち壊す気か」


「……私が間違ってました」


「よろしい。……おっと、駅に到着したようだ。下りるぞ」


 三人は電車を下りて、改札口に向かう。

 そして、アルトはシェキナに声をかける。


「最後の質問だ。お前、あっちの駅のホームにはどうやって入った。スカンピンだったんだろ?」


「それはもちろん、女神テレポートで侵入して……」


「よし分かった。ついてこい」


「え? え?」


 アルトはシェキナの手首を引っ張りながら、駅員窓口までやって来て……。


「駅員さん。無賃乗車犯を捕まえました。連行してください」


「何ぃ!? こいつはメチャゆるさんよなあああ!!」


「あーっ!? お兄さん、非道ひどいですよ!?」


「お前は外道だがな」


「王道の女神ですーっ!」


「こっちにこい女ァ! 社会の正しいルールを身体に刻み込んでやる!」


「いやー! 助けてー!!」


「……良し。これで社会のゴミがまた一人減ったな。帰るぞスミレ」


 

 こうして今日の戦いも終わった。

 だがもし、シェキナがあの場面で電車を脱線させることを選んでいたら、アルトも妹を守れたかどうかは分からない。


 シェキナは、己の甘さゆえに勝ち筋を捨ててしまったのだ。

 がんばれシェキナ! 他人の命を何とも思わない女神になるんだ!


「それってもう、それこそ邪神か死神じゃないですかー! やだー!」

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