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植木鉢で殺る

「ふんふんふーん♪」


 鼻歌を歌いながら、スミレが高校から帰宅している。

 通り道の左側には、五階建てのマンションが建っている。

 そのマンションの五階の一室にあるベランダから、シェキナはスミレの様子をこっそりと窺っていた。


(ふふふ、来ましたね。あなたがこの道を通って帰宅していることは調査済みです!)


 シェキナは、ベランダの淵にそっと植木鉢をスタンバイする。

 これをスミレの頭に落としてさらば地球こんにちは異世界してもらおうという腹づもりだ。


「いやーそれにしても、植木鉢って結構重いのよねー。この世界のマンガとかで、落ちて来た植木鉢が人の頭に当たるシーンとかよく見るけど、こんなの実際に頭に当たったら死んじゃうわよねーっ。けど植木鉢が落ちたところで、通りすがりの人にピンポイントで当たるとかなかなか無いだろうし、当たってしまったらそれはもう不幸な事故よねー! というワケでおっと手が滑ったぁ!!」



 シェキナは、スミレ目掛けて容赦なく植木鉢を放り投げる。

 それも見事な脳天直撃コース、ピンポイント狙い撃ちである。

 何が「手が滑った」だクソ女神。


 スミレは落下してくる植木鉢に気付いていない。

 このままいけば、植木鉢は彼女の頭に命中し、その頭蓋を粉砕するだろう。


 しかし、それを許さない男が一人。


「ふんっ!!」


 どこからともなくやってきた兄、アルトが落下してきた植木鉢を拳で粉砕した。

 バラバラと、植木鉢の破片と土が飛び散る。


「きゃっ!? お兄ちゃん……!?」


「無事だったか、スミレ」


 妹の無事を確認すると、アルトはホッと胸を撫で下ろす。


「むむむ、出ましたねお邪魔虫!」


 その様子を、シェキナは歯ぎしりしながら見下ろしていた。

 アルトはベランダにいるシェキナに視線を向けると、人差し指の指先をクイクイと曲げる。

 アクション映画でよくやる「かかってこい」のジェスチャーだ。


「むきー! やってやろうじゃありませんかこのヤローっ!!」


 それにしてもこの女神、沸点が低い。

 シェキナは無数の植木鉢を召喚すると、次々と兄妹に向かって投げつける。


「数撃ちゃ当たると信じて! 死ねーっ!!」


「やっぱり死神じゃないかアイツ。……ふんっ! ふんっ!」


 雨あられのように降ってくる植木鉢を、アルトは両手のラッシュで叩き落とす。

 妹を庇いながら、ひとつ残らず粉砕していく。

 やがて植木鉢の雨が止んだ。先にシェキナの残弾が尽きたのだ。

 アルトは、マンションの五階でうろたえているシェキナに声をかける。



「バ、バカな……。私の植木鉢ラッシュに耐え切ったというの……?」


「なんで植木鉢にこだわるんだ。神なんだからロードローラーでも降らせてきたらいいだろうに。それでも俺が勝つが」


「ふっ、分かってませんね。閑静な住宅街、高いマンションの側ときたら、植木鉢で殺るしかないでしょう!」


「……薄々思ってたんだが、お前バカだろ」


「バカじゃありませんーっ! バカって言った方がバカなんですーっ!」


「バカと煙は高いところが好きって言葉があってだな」


「ぐふっ……!? い、言ってくれますね。ま、まぁ私女神ですし? 天界在住ですし? マンションの五階なんて高いうちに入りませんし? You see(ゆーしー)?」


「なんでちょっと韻を踏んでるんだ。ラップか。ラッパーなのか」


()()()()ベイベ~♪」


「誰か、ヤツの座布団を全部持っていけ」



 二人が言い争っていると、突然シェキナの後ろの戸がガラガラと開く。

 そして、家の中からおばちゃんが出てきた。

 シェキナを見るなり、彼女に怒声を浴びせ始める。


「こらー! 何よアンタ! 他人の家のベランダで大騒ぎして!」


「え? あ、は、はい、なんかスミマセン……」


「全く、最近の若い子はガミガミガミガミガミガミ……」


「スミマセンスミマセン……たぶんあなたより年上ですけどスミマセン……」


 その様子を見たアルトとスミレは、関わり合いになる前にさっさと帰ることにした。


「付き合ってられんな。行くぞスミレ」


「うん。お兄ちゃん」


「あの性質タチの悪い死神に狙われたら、遠慮なく俺を呼べ」


「分かった。ありがとう」




 そして後日。



「ふんふんふーん♪」


 鼻歌を歌いながら、スミレが高校から帰宅している。

 通り道の左側には、工事中のマンションが建っている。

 そのマンションのてっぺんから、シェキナはこっそりとスミレの様子を窺っていた。


(ふふふ、来ましたね。あなたがこの道を通って帰宅していることは調査済みです! ついでに、ここに工事中のマンションがあることもね!)


 シェキナはスミレがやって来たことを確認すると、なんと鉄骨を引っ張り出してきた。素手で。

 レンガ色で、工 ←こんな形をした、工事現場によくある鋼鉄のアレである。

 お前この章のタイトルちゃんと見たのか。植木鉢で殺れよ。


「ふぬぬぬぬぬ……!」


 鉄骨を持ち上げるシェキナ。

 腐ってもシェキナは女神である。

 女性の細腕でありながら驚異的な怪力を発揮することができる。メスゴリラ。


「誰がメスゴリラよぉぉぉぉぉ!!」


 虚空に向かって叫びながら、シェキナは鉄骨をスタンバイした。

 あとはスミレが目標ポイントに侵入したら、この鉄骨を落とすだけ。


「おねぇちゃん、こんなところでそんなもの振り回したらあぶねぇよぉ?」


 傍で見ていた工事のおじちゃんが声をかけてくる。


「ご心配なく! 安全第一を心がけてますので!」


「そうかい? そんならいいんだけどよぉ」


「心配してくれてありがとうございます! では早速おっと手が滑ったぁ!!」



 シェキナは、スミレに向かって鉄骨を放り投げた。安全第一とは何だったのか。

 今度は小さな植木鉢と違って、スミレに鉄骨の大きな影がかかる。

 自分の周りが少し暗くなっていることに気付き、スミレは真上を見上げると……。


「え!? て、鉄骨!?」


 落ちてくる鉄骨に気付いた。

 いきなりのことで足がすくみ、兄を呼ぶための声も出せない。

 もはや万事休すか。そう思ったその時。


「ぬぅんっ!!!!」


 兄、アルトが颯爽と駆け付けると、落ちて来た鉄骨を受け止めた!

 ズガン、と轟音が鳴り響き、アルトの両足がアスファルトの道路にめり込むが、妹は無事であった。


「なぁっ!?」


 シェキナは驚愕の表情で屋上から二人を見下ろす。

 アルトは鉄骨を持ち上げながら、真っ直ぐ、鋭い目つきでシェキナを見据えていた。


「くっ、やりますね……! ですが、二発目はどうですか……!?」


 そう言うと、シェキナはすぐさま二本目の鉄骨をスタンバイし、発射体勢に入る。鬼かコイツ。

 一方、アルトは落ちて来た鉄骨を投げ槍のように構えた。


「スミレ、離れて……いや、離れたら狙い撃ちにされるか。側に居ろ」


「う、うん。分かった」


 そして、互いの攻撃準備が整った。



「妹さんはもらったぁぁぁぁぁぁ!!!」


 二人目掛けて、鉄骨を勢いよく投げ落とすシェキナ。


「転生なんぞさせるかぁぁぁぁぁ!!!」


 投げ落とされた鉄骨目掛けて、鉄骨をぶん投げるアルト。

 果たして、両者の鉄骨は空中で激突し、シェキナの鉄骨が弾き飛ばされた。


「ウソでしょ!?」


 アルトの鉄骨スティンガーの勢いは止まらない。

 そのまま真っ直ぐシェキナに向かって飛んでいき、兄妹を見下ろしていた彼女の顔面にガン、と激突した。


「ぎゃふんっ!?」


 もんどり打って倒れるシェキナ。

 そのまま伸びて気絶する。

 屋上のど真ん中に、投げられた鉄骨が真っ直ぐ突き刺さった。


「だから言っただろうに。危ないって」


 そんなシェキナに向かって、工事のおじちゃんが呆れたように声をかけた。



 一方、マンションの下では。


「あ、ありがとう、お兄ちゃん……」


「……声、出せなかったか」


「……うん。ごめんね……お兄ちゃん呼べなかった……」


「気にすんな。お前が恐怖で動けなくなっても、俺から駆け付けてやる」


「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」


 

 こうして死神の襲撃を退け、兄妹は仲良く帰路についた。

 しかし、高いところが好きなバカは諦めない。

 兄妹とメスゴリラの戦いは始まったばかりだ。



「だーかーらー! 私、女神なんですけどぉ!?」

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