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 そして、空が宵闇(よいやみ)に包まれた頃のこと。

 いつものようにバクが森へとやってくると、ゴーグルを装着し、首から聴診器をぶら下げたイスケが待ち構えていました。

 そのイスケの手には、鞄がパンパンになるほど、色も形も大きさも様々な夢の実が詰め込まれていました。

 それを両羽に抱え持ち、満面の笑みで差し出すイスケに対し、バクは怪しむような目つきをして、(いぶか)しげな声で言いました。


「ヒーローごっこは止めたのか、小僧?」

「小僧じゃない。僕は岩飛イスケだ、夢喰いバク」

「俺は、榊山バクだ」


 お互いのフルネームを情報交換したところで、バクは話を戻しました。


「それで、イスケ。それは、何だ?」

「ヘッヘーン。間違って良い夢の実を食べられないように、悪い夢の実だけを集めておいたのさ。どうだ、参ったか!」


 イスケは、自慢げに胸を張りながら言うと、バクの象のように長い鼻の前へと鞄を置きました。

 バクは、毒でも盛られていないかと心配しながら、一番上にある実を一つ鼻で(つか)み、口に運びました。

 すると、当たり前かもしれませんが、その夢の実は、いつもと変わらない味がしました。

 むしろ、いつもより美味しい気さえしてくるくらいです。

 それから、バクが二つ目の実に鼻を伸ばしかけたところで、イスケは鞄を自分の方へ引き寄せ、バクに約束を迫りました。


「ちょっと待った。これからは、むやみに食い散らかすんじゃなくて、僕が選り分けた実だけを食べると約束するんだ。さもないと、またスケートボードをお見舞いするぞ」


 バクは、しばし考え込みましたが、悪い話では無いと思い、承諾(しょうだく)することにしました。

 

「ふん。まぁ、よかろう。そう、何度も目から星が飛ぶ思いをさせられるのは、御免(ごめん)だからな」

「やったー! ミッション、コンプリートだ!」


 これが、イスケとバクが宿敵と和解した瞬間でした。

 それからイスケは、毎晩、バクが良い夢の実に手を出さないよう、悪い夢の実を()り分ける習慣が身に付きました。

 それと同時に、イスケはバクと会話を交わすようになり、二人は仲良しになりましたとさ。

 めでたし、めでたし。

『夢守りペンギンと夢喰いバク』のお話、いかがだったでしょうか。

イスケにはイスケの正義感があり、バクの手から夢を守ることに情熱を燃やします。

けれど、バクが夢を食べるのは、あくまでバクが生きていくために必要なことだと気付いたとき、イスケは悩みます。

自分がやっていることはエゴなのではないかと思うようになったイスケは、そこで初めてバクの立場を考え出します。

そして、最後にイスケは、どちらにとっても悪くない妥協(だきょう)点を見つけ出します。

この話のポイントは、それまで常識だと信じて疑わなかったことを見直し、正義というものが絶対的なものではないということに気付くという、イスケ少年の成長ドラマにあります。

この点をふまえた上で読み返すと、また違った感想をいだくかもしれませんね。

それでは、ごきげんよう。

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