四
「諦めるのは、まだ早いぞ、イスケ」
あくる日の昼下がり。
イスケの口から昨夜の顛末を聞いた博士は、古ぼけた鞄の中から、一つの器具を取り出しました。
どう見ても、それが聴診器にしか見えないイスケは、首を傾げながら博士に言います。
「これで、どうやって見分けるんですか?」
「こいつを夢の実に当てることで、実の中の音を聞き分けるんじゃよ。良い夢なら、楽しげな声音が聞こえるじゃろうし、悪い夢なら、悲しげな声音が聞こえるじゃろう」
集音部分をイスケの胸に押し当てながら博士が言うと、イスケは、にわかにパーッと笑顔になりました。
その様子から、イスケがいつもの調子を取り戻したと判断した博士は、聴診器風の器具を鞄に戻し、その鞄をゴーグルとスケートボードと一緒にイスケに渡しながら言いました。
「これ以上、わしがとやかく言わんでも、どうしたら良いか分かってそうじゃな。こいつは壊れやすい物じゃから、大事にするんじゃぞ」
「ありがとうございます!」
イスケは、博士からそれらを受け取ると、一目散に森へと向かいました。
博士は、その直向きな後ろ姿を、工房から見えなくなるまで、眩そうに見送っていました。