三
そして、その夜のことです。
博士に言われた問いの答えが、何度考えても分からなかったイスケは、ゴーグルをしてトコトコと森へ向かいました。
スケートボードが無いせいで、いつもより何倍も移動に時間がかかり、バクの前へ到着した頃には、すっかり夜が更けていました。
「おや? 今夜はやけに遅いと思ったら、自力で歩いてきたんだな。悪いが、食事なら済んでしまったぞ」
バクの言う通り、すでにいくつかの実が、ヘタと種だけを残して平らげられたあとでした。
イスケは、遅かったかと悔しむ気持ちを抑えつつ、バクに質問しました。
「どうして、毎晩毎晩、夢の実ばかり食べるんだい?」
バクは、ハハッと軽く笑いましたが、質問するイスケの赤い目に、真っ直ぐな純真さが宿っているのを見て取ると、笑うのを止めて答えました。
「どうしても何も、俺の身体は、夢の実しか食べられないように出来てるからさ。小僧だって、どうして魚を食べるのかと聞かれたら、魚を食べるように出来てると答えるだろう?」
「そんな……」
質問への答えが、あまりにも意外だったイスケは、しばらく頭の中がぐちゃぐちゃに混乱していました。
そして、夢喰いバクは生きて行くために夢を食べていたのだと、やっとのことで理解すると、イスケは、こう言いました。
「でも、夢の実は、魚とは違う。夢の実が食べられてしまったら、別の世界にいる誰かが困るんだ」
「その誰かのためになら、俺は飢え死にしても構わないって言うのか? それこそ身勝手な話ではないか」
「だからって、夢が奪われていくのを、黙って見逃せない」
イスケは、バクの持論に丸め込まれまいとして、必死で自分の信念を言葉にします。
そして、樹々に生る実を見るともなしに見ながら、柔軟な頭脳をフル回転させて知恵を絞った結果、一つのアイデアを思い付きます。
「そうだ! 人間たちが見る夢には、良い夢と悪い夢があるって聞いたことがあるぞ。この中で、どれが良い夢の実か分かれば、それだけ残していけば良いはずだ!」
「簡単に言うけれど、どうやって見分けるつもりだ?」
「えーっと、それは、そうだなぁ……」
せっかくの良案も竜頭蛇尾になってしまったので、バクはフッとせせら笑いを一つこぼしてから、瞼を閉じて寝てしまいました。
やがて、バクは鼾をかき始めたので、イスケは意気消沈して帰って行きました。