一
ここは、みなさんの夢が集まって出来た世界。
その名も、ワールド・オブ・ドリームス。
たくさんの草木が生い茂り、きれいな小川が流れる、とても住み心地の良い楽園です。
ここに人間はいませんが、それ以外の夢動物たちはいっぱいいます。
夢動物たちは、この世界固有の動物で、草原を駆けたり、小川を泳いだり、木陰でかくれんぼしたりと、みんな思い思いに過ごしています。
そんな世界に、一羽の夢ペンギンの少年がいます。
イワトビペンギンに似た少年の名は、岩飛イスケ。
体長は、およそ五十センチメートルと小柄ですが、志の大きな正義漢です。
今日は、このイスケ少年についてお話ししましょう。
昼間のイスケは、海岸沿いの岩場にいます。
そこでは、海に潜って赤いくちばしで魚を捕まえたり、岩の上で頭の上に冠のように生えている黒い羽毛や、目の上に眉のように生えてきた黄色い飾り羽根を整えたりしています。
これだけ見ると、水族館のペンギンと大して変わりませんが、夜になると違います。
「出たな、夢喰いバクめ! 好き勝手な真似はさせないぞ!」
イスケは、頭に特製のゴーグルを装着し、短い脚で器用にスケートボードを操って森へ向かっています。
このゴーグルもスケートボードも、とある発明好きの夢フクロウが作ったものです。
スケートボードは、イスケの身体に合わせてサイズが一回り小さく作られ、ゴーグルには、暗闇でも昼間と同じように周囲がくっきり見えるような工夫がなされています。
「フン。また現れたな、ペンギン小僧。毎度毎度、飽きもせずに俺の食事の邪魔をしよって」
イスケがスケートボードで向かった先には、白と黒のツートンカラーの夢バクがいました。
このマレーバクに似た男の名は、榊山バク。
体長は、およそ二メートルと大柄で、夜な夜な、果実の形をしたみなさんの夢を食べに現れる存在です。
この森には、形も大きさもバラバラの樹々に、様々な色に光る果実が生っています。
その実の中には、どれも、みなさんの夢がギッシリ詰まっています。
イスケは、その大事な実を食い散らかすバクから、みなさんの実を守っているのです。
「今回も負けないぞ。とりゃー!」
両羽でスケートボードを大上段に構えると、そのままイスケは両足を踏み切って勢い良く飛び上がり、バクの黒い頭へと振り下ろします。
バクは、いきなり脳天にスケートボードを叩きつけられた衝撃で、目を回して倒れてしまいました。
イスケは、必殺技が決まった手応えと勝利の喜びから、ルンルン気分でスケートボードに乗り、森をあとにしました。