乱闘
「へぇ~。結構でかいんだなぁ」
勇誠達は、カラマーダに書いてもらった小切手?を換金するため、タケルの案内の元、冒険者ギルドにやって来た。
キングダムはかなり閑散としたギルドだったが、ここはかなり賑わっている。
「さ、早く済ませちゃいましょうか」
タケルはそう言って、少し急かすように言ってくる。まぁ特に気にすることはないので、勇誠達はタケルに続いて中に入ると、中には様々な服装をした冒険者と思われる連中が多数いた。
現代風の服装からファンタジー系の鎧みたいなのを着ているものまで様々だ。その中勇誠達はギルドの受付まで行き、
「ここで出来る筈ですよ」
「ありがとう」
タケルに勇誠はお礼を言いつつ、受付担当の者の前に立ち、
「あの、これの換金をお願いします」
「はい」
受付の女性は淡々と勇誠から紙を受け取ると、
「え?これは……あいや、失礼しました。少々確認致しますのでお待ち下さい」
と言って裏に引っ込んでいき、少し手持ち無沙汰でいると、
「おい嬢ちゃん達。こっち来て一緒に飲もうぜ」
「……」
複数人のグループらしき冒険者達に、皆がナンパされていた。ちょっと眼を離すとこうなるなぁ。と勇誠は頭を掻き、
「すいません。コイツらは俺の連れなんで……」
「つれないこと言わないでさ。酌でもしてくれよ」
「ひっ!」
勇誠は止めに入ろうとした瞬間、癒羅に絡んでいた男が、いきなり彼女の胸を掴んだのだ。
「っ!」
全身がカァっと熱くなり、勇誠は思わず近くのテーブルの上にあった瓶を掴んで走り出すと、突然胸を揉まれて固まった癒羅に、それを良いことに更に揉もうとすると男を、後ろから瓶で思いっきりぶん殴った。
「あがっ!」
「てめぇ……どこ触ってんだ!」
腸が煮えくり返るような気持ちだったが、それよりも癒羅だとそっちを見て、
「ごめん。大丈夫か?」
「う、うん」
勇誠の声で正気に戻った癒羅は頷くと、
「てめぇ!」
魔実をナンパしていた一人が、勇誠に襲いかかってきた。そのまま勇誠の胸ぐらを掴むと、そのまま近くのテーブルの上にのっていた皿やら何やらを蹴散らしながらも押し倒し、
「うわっ!」
「す、すいません!」
食事をとっていた別グループに思わず勇誠は謝罪をする中、相手はそのまま殴り掛かる。だが、
「この!」
勇誠は相手の耳の上の辺りを掴んで引っ張ると、痛みで相手の力が緩み、もう一方の手でテーブルの上にあった皿を掴むと、それを顔面に投げつけて怯ませて、強引に手を外して脱出。
「悪い」
「え?」
その瞬間空は、自身をナンパしてきた相手を、鼻がへし曲がるほど強烈な裏拳で沈め、先程勇誠がテーブルの上に押し倒された際に、テーブルの上が蹴散らされ落ちたナイフを拾い上げ、刹樹をナンパしていた男の手に投げて刺す。
「ぐぁ!」
思わず悲鳴をあげた男に向かって、空は走りだし、飛び蹴りを顔面に叩き込む中、美矢も相手の男の手首を掴み、捻りあげるとそのまま投げ飛ばす。
「こう見えても空さん程じゃありませんが、護身程度には武道も嗜んでおりますのよ」
美矢はそう言って笑うと、投げ飛ばした男の腕を取って捻って押さえる。
「離しやがれ!」
そこにクルルーラが好みだったらしい男が、美矢を引き剥がそうと飛びかかったが、
「えい!」
「あぎゃ!」
ガチャン!と大きなお皿で、頭の後ろから癒羅にぶん殴られて男は悶絶し、更に、
「あらよっ!」
空は飛び上がると、全身を捻って体を回転させながら、悶絶する相手の後頭部に、強烈な飛び回し蹴りを叩き込む。
「あっが……」
「よし」
すると相手の一人が、
「クソが!調子にのんじゃねぇぞ!」
剣を腰から抜くと、刀身が少し輝く。そして剣を振り上げ、勇誠は咄嗟に椅子を使ってガード……したが、
「気を付けてください!剣系の武器に適正がある者が使う技術で、特別名前はありませんが、剣に魔力を纏わせることで切れ味や、刀身の頑強さを上げる技です!」
「それ早くいって!」
スパン!と簡単に真っ二つにされたが、嫌な予感がした勇誠がギリギリで体を捻って避けたため、取り敢えず怪我はないようだ。
「おらぁ!」
「ちっ!」
取り敢えず勇誠は椅子の破片を投げつけて牽制。しかしそれを剣で軽く弾かれる。
更に男は剣の輝きを強め、勇誠に突進。
(不味い!)
相手の早さに流石の勇誠も、避けきれない。そう脳内が判断した次の瞬間!
「させない!」
「タケル!?」
タケルが間に入り、刀身を両腕で受け止めた。普通ならそのまま真っ二つ……だが刀身は腕で止まり、タケル自身もダメージを負った様子はない。そして、
「やぁ!」
タケルは強引に相手を押し返すと相手の胸を殴る。明らかに素人臭いへなちょこパンチ。の筈が、
「ごばぁ!」
『え?』
空気が震えるほどの衝撃と轟音。それと共に相手の男が、物凄い速度で吹っ飛び、壁に穴を開けて向こう側まで吹っ飛んでいった。
「おい!一体何の騒ぎだ!」
そこに出入口の方から怒声が響き、全員が身を竦ませる。
「ギルド長……」
「ったく。何があったらギルドの壁に穴が開くような事態のなるんだ!?」
見た目は壮年の男性が、中に足を踏み入れる。
「こいつがいきなり瓶でぶん殴ってきたんだ!」
「その前にテメェの仲間がしたことあるだろ!」
勇誠の方も、若干ヒートアップして相手に文句を言う。それを見たギルド長と呼ばれた男は、
「取り敢えず、全員取り調べだ!順番に話を聞いてやる!」
◆
ギルド長の号令から二時間ほど。漸く勇誠達は解放された。
周りの証言もあり、此方側が被害者と放ったものの、瓶でぶん殴ったのは流石にやりすぎだとは言われた。まぁそれに関しては勇誠も反省している。
とは言え、無事換金も出来、必要な分だけ引き出して、取り敢えずひと安心とした。
「しかしお前凄いんだな」
「い、いえそんなことは……」
取り敢えずギルドから出て、勇誠達は街中で適当な飯屋に入ると、先程の礼と言ってタケルにおごっていた。最初は遠慮していたものの、恰幅の良い見た目通りよく食べるようで、ちょっと収入があったからって、調子にのったかなと思う程度には頼みすぎた料理を、ペロリと平らげていた。
「ふふ~ん。タケルさんは凄いんですからね~」
と、タケルに負けず劣らずよく食べていたウジャマルラに、タケルはやめてよと言う。
「でも一体どんな能力なんです?」
「ちょっとクルルーラ。能力の詮索はマナー違反でしょ」
ちっ……と静かに舌打ちするクルルーラに、全くもうと言うウジャマルラ。先日のユドライアとは、クルルーラは相性が悪かったようだが、こっちは本当に仲が良さそうだ。
余りクルルーラは自分のことを話さないので、こう言う部分を見ると少し不思議な気分である。
「でも皆さんもお強いんですね」
「そんなことないよ。ああ言うのに慣れてるのは、空ちゃんと美矢ちゃんに勇誠君だけだよ」
いや私はそんな慣れてませんわよ?俺だってそうだよ、と美矢と勇誠は口々に言う。 実際ああいう荒事に慣れてるのは、空だけだった。
「最近は落ち着いたもんだがな?空は中学時代なんか、滅茶苦茶やべぇ女だったからな?」
「おい勇誠。後でじっくり話し合う必要がありそうだな」
空に背中をグリグリやられ、勇誠は痛い痛いと言って笑う。そんな様子を見て他の面々は笑い、そんな光景をタケルは見ていると、
「結局、皆さんってどういう関係なんです?見た所こっちに来る前から親しそうですけど……」
「うぅん。ちょっと説明しにくい色々複雑な関係かな」
タハハ、と勇誠は苦笑いを浮かべ、他の皆も確かにと苦笑い。タケルとウジャマルラは益々首を傾げた次の瞬間、
「おいタケル!テメェ何してんだ!」
『っ!』
突然怒声に、勇誠達まで思わず身を固くし、警戒体勢を取りながらその声の方を見る。
そこに立っていたのは、軽装に身を包んだ、明らかにガラの悪そうな男と、似たようなオーラを持つ男女3名。合わせて4名の輩で、タケルの元に行くと声を荒げていた男が、
「おいテメェ。クエスト終わったってのに何してんだ?あぁ!?」
「ご、ごめん。ちょっとご飯ぐっ!」
タケルは慌てて席を立って謝ろうとするが、男はタケルの腹を殴り、タケルは呻きながら口を抑え、吐きそうになるのを耐えると、タケルの髪を掴んで顔を上げさせる。
「てめぇ、クエスト終わったらすぐ来て報酬を渡すんだろ?俺との約束はどうした!あぁ!?」
「おい」
タケルに向けて振り上げられた拳を、勇誠は掴んで止める。
「あ?誰だお前」
「そっちこそ誰だよ。タケルは俺の恩人だ。ソイツに対して随分穏やかじゃねぇな」
勇誠がグッと相手の腕を抑えるが、どうにか振り払われないようにするだけでも必死だ。
(勇者になって力も上がってんのに……なんつうパワーだ!?)
「うぜぇなぁ!」
すると、相手の力が突如強くなり、片手で勇誠を振り回すと、そのまま地面に叩きつける。
「あがっ!」
「っ!」
一番先に動いたのは空だ。
椅子を蹴っ飛ばす勢いで立ち上がり、そのまま飛び上がると相手の男に飛び蹴りを叩き込む。
「ちっ!」
しかし相手はそれをガードし、後退る程度だ。
(勢いは十分じゃないし、牽制目的程度だったけど、こいつ思った以上に喧嘩慣れしてるな……)
空は男の仲間らしき連中も見るが、ニヤニヤして割って入る気はないらしい。余程男の強さに自信があるのか?
「いてて……」
「大丈夫か?勇誠」
受け身は取ったから平気だ。と答えながら立ち上がった勇誠に、空はなら平気だな答えつつ、相手を見据える。
見た目は178㎝。ガタイは普通。服装は現代的だがこっちでも珍しいものじゃない。だがあの強さ……まさか!
「気を付けてください!」
空が何かに確信した瞬間、そう叫んだのはウジャマルラだ。
「彼はレイジ。皆さんと同じ転生者です!」
『っ!』
「死ねやぁ!」
それと同時にレイジが突っ込んできて、型も何もないヤクザキックを空に放つ。
「やっぱそういうことかよ!」
それを空は横に体を捻って避けると、伸びた足を下から掬い上げて、そのまま足を思いっきり上に上げると、
「おごっ!」
後ろにひっくり返って、後頭部を強打して悶えた。
「ふっ!」
喧嘩慣れしてるとはいえ、所詮は素人だな。と空は止めを刺しに拳を顔面に振り下ろす。だが、
「ぬがぁ!」
「っ!」
レイジは腹筋の要領で一気に頭を上げると、額で空の拳を向かい撃つ。
「ぐっ!」
ゴキャ!と空の拳が嫌な音を立て、咄嗟に空はレイジから離れた。
「空!?」
「いって……」
見てみれば、空の指が変な方に曲がっている。
「大丈夫か?」
「こっちで殴らなきゃ大丈夫」
それは大丈夫と言うのだろうか……とも思うが、空の場合心臓さえ動いてれば大丈夫、と言いそうな所があるので、あまり信用できない。
「あぁくそ……イライラさせやがってぇ!」
ビキィ!とレイジの腕が隆起し、ギラリとこちらを見てくる。
「なんか嫌な予感がする」
「奇遇だな。私も」
等とやり取りをした次の瞬間、レイジが突っ込んでくる。
「やめて!」
「タケル!?」
レイジの前にタケルが入り、レイジ突進を止める。
「ごめんなさい!すぐに報酬を払いますから。だからどうか勘弁してください」
「……ちっ!」
レイジは突っ込むのをやめ、立ち止まると、
『っ!』
タケルの頬を殴った。
「てめぇ次舐めた真似したら殺すぞ」
「は、はい」
レイジは行くぞ、と仲間達に指示して、何処かへ行く。
「おいまて」
「そっちが待ってください」
勇誠をタケルが止め、顔を見る。
「僕は大丈夫ですから……」
「タケル。どうみたって普通じゃないし大丈夫じゃないだろ!お前クエストの報酬までとられてるみたいじゃないか!」
「放っておいてください!」
「っ!」
タケルの叫びに、勇誠はギクリと体を固くさせ、
「本当に大丈夫なんで、心配しないでください」
とだけいって、タケルもレイジ達を追って走り去るのだった。




