第4話『蒼き翼、灰の盾、橙の花』
「機体が見つかった!?」
「はい。荷物を整理してたらコアが見つかって」
私は部室で先輩に拝借したタブレットをコアに繋ぎ、データを表示した。昨日の夜に発見して以降色々調べてみたが機体についての情報が一切不明だったこともあり、昼休みを利用して聞いてみようと思ったからだ。先輩と何故か付いてきた氷室さんがタブレットの画面を覗き込み、機体のデータを閲覧していく。
「『YST-XXX-02C-F フレスヴェルグ』、登録された型番も意味不明だし…」
「頭の文字が『Y』ってことは試作型、ってことじゃないの?」
氷室さんが私の疑問に答えるように言う。どうやら彼女はその手の知識はそれなりにあるらしい。
「大体だけど、どこの企業でも試作やトライアル段階の機体には型式の頭に『Y』を付けてる。だからその系譜じゃないの?」
「何故そんな機体が民間に…?」
氷室さんの答えに先輩は新しい疑念を抱く。それはそうだろう。本来そう言う類のものは社内だけの機密だったり、少なくとも企業関係者以外に触れさせることは滅多にない。そんな代物を普通の民間人、それも一学生がプレゼントで贈られてくることこそおかしいのだ。
「そうでも無いのよ。他社への牽制や宣伝にもなるから、トライアルを民間に委託する企業なんて珍しく無い。それに実戦の場でのデータ収集だって出来るんだから悪い話じゃないし」
「それってプロとか世界大会選手レベルの話じゃ?」
「まぁ普通はね。だけどこの機体、念入りに型番も潰して偽装してるし何かしらの事情があったんじゃないのかしら。社内コンペで負けたとか。
そこで制式採用されなくてガワだけ取り替えて流出、その後何らかの経緯でアンタに流れてきたんだと思うわ」
もし氷室さんの推測が当たっていれば、この機体は曰く付きな代物と言う事になる。どうしてそんな機体を押し付けてきたのか、と文句をつけたいところだが背に腹は変えられない。この機体が無ければまともに試合にすら出られないのだから。
幸いスペック自体は優秀で、さらに武装の方もオーソドックスにライフルとシールドに近接用のバスターソードまで備えてる、氷室さん曰くまさに『初心者にはもってこいの機体』だそうだ。
「でも氷室さん、どうしてそこまで詳しいんですか?」
「諸事情」
疑念ははぐらかされた。初心者の筈の彼女がどうして色々詳しいのか、と言う目でじーっっと見ていると彼女は『フレスヴェルグ』のコアをタブレットから切り離し、私に渡してくる。そして誤魔化すようにタブレットに自分の機体のコアを繋いでデータを表示させた。
「そんなことより、これが私の機体よ」
「あ、誤魔化した」
「五月蝿い」
どうやら彼女は私の問いに答えるつもりは無いらしい。諦めてタブレットを覗き込むと、おおよそ彼女に似つかわしくないような重量級の機体のデータが表示されている。
「『ブラストアイギス』、『HHI』の『アイギス』のカスタムモデルですか」
「はい。運動性能は高くないし、そんなに飛べませんが火力と防御能力なら一流です」
『HHI』と言うのは国内にあるメーカーの一つで、正式名称は憶えていないがトランスアームズ関連の部品や武装を製造、また国内でも10社に満たない機体本体も製造している企業、だと昨日調べた限り分かっている。そして『アイギス』は『HHI』のベストセラー機で、初心者にも扱い易い機体らしい。
見たところ『ブラストアイギス』は先輩の『烈花』とは真逆の機体、遠距離特化型で重装甲の機体のようだ。右肩に装備された実弾のキャノン砲や両腕のガトリング砲、バックパックのミサイルランチャー、と実弾をメインとした装備となっている。
「チームとしてのバランスは悪くない… 問題はどこまで連携が取れるか、かな」
「なるようになるしかないわよ。もう時間の猶予だって無いんだから」
私の呟きに対し氷室さんはぶっきらぼうに答える。確かに彼女の言う通りだ。それぞれの機体の性能を把握したとしても、どこまで戦えるかは腕の差にもよるし、何より練習なんてしてる余裕も無い。だが確実に勝つにはまだ数手足りず、そこは埋めておきたいところだ。
「指示は私が出します、その通りに動いて貰えれば大丈夫ですよ」
先輩がそう言うが、私にはどうも引っかかる。彼女に必勝の策があるのかどうか聞こうとした時、昼休み終了の予鈴が校舎に鳴り響き、解散となってしまった。そして私達は部室棟を後にする。しかし私の中の一抹の不安が無くなった訳ではなかった。
・2020/12/3 一部情報など変更
メイン3人の機体設定
・フレスヴェルグ
海乃の専用機。メーカー・原型機不明のカスタムモデル。
通信・索敵能力が高く指揮官向けの機体。しかし徹底的な軽量化と背中のウイングバインダー、腰部に装備されたフレキシブルスラスターにより運動性能も高い。特にパワーは従来型より一線を画しており並の一般モデルでは歯が立たないとされている。
武装は可変バレル式レーザーライフル『イーグルMK3』、とウイングバインダーにマウントしているバスターソードが二振と実体シールドを装備。
武装に関しては最新型だが一般販売されているモデルであり場合によっては変更も可能となっている。
謎の多い機体で型番も潰されているが辛うじてこの機体が『2号機』であることが分かる。
・ブラストアイギス
火澄専用機でHHIの装甲強化モデル『アイギス』を改修した機体。生前祖母が遺していたもの。
重装砲撃仕様のハイエンドモデルとして改修を加えられており、運動性は低いが火力とパワーは非常に高い。しかし運動性の低さは群を抜いており飛行性能は高くない。
武装は両肩の右肩のキャノン砲、両腕のガトリングガン、背部ランドセルに内蔵するミサイルランチャー、胸部バルカン砲。
また各部にはハードポイントが点在、武装やパッケージの切り替えが可能となっている。
・烈花
灯火用の機体で近接モデル『ソーディアⅡ』を改修したカスタム機。
軽量化による高い運動性が売りの機体であるため装甲は極端に薄くルール規定上ギリギリまで削っている。
様々な要素を犠牲にして近接戦に特化しているものの、性能不足は否めない。そのため灯花は意図的にバランサーなど機体機能の一部をカットしており、無理矢理機体をパイロットに追従させようと努力している。
武装は『カトレア・ビームサブマシンガン』一丁と日本刀型の実体剣『斬機刀』を二振り。