第二話『結成の時』
先輩、名前は『姫野灯花』と言うらしい人に連れられ部活棟へと赴いた。どうやら第6と言う微妙な数字の部活でも部室は与えられるらしい。
部室は狭く、工具や何かの部品が転がっていた。その奥に一体の『トランスアームズ』が鎮座している。橙色に塗装され細身だが、優美な印象を受ける機体だ。
「他の部員の方は?」
「今は私一人だけです。そしてこれが私の機体です。今は調整中ですが」
「これ、名前は?」
「『烈花』、と言います」
「自分で調整してるんですね」
「所謂カスタム機、というものですから」
先輩曰くトランスアームズは工場製の量産品を『量産機』、一部パーツなどを交換して自分向けに改造したものを『カスタム機』、メーカーなどに依頼して1機だけ特注で製造して貰ったり自分自身で組み上げたものを『ワンオフ機』と呼ぶらしい。
『烈花』と呼ばれるこの機体も量産品である『ソーディアⅡ』と呼ばれる軽量の機体をさらに軽量化した機体で近接戦闘、格闘戦に特化させたものだそうだ。しかも徹底した軽量化で装備にも影響が出ているらしく装備品は軽いものに限られるとか。
「お陰で装備できるのはこれだけ、なんですけど」
そう言ってタブレットで表示された武器を見せてもらうと『カトレア・ビームサブマシンガン×1』『斬機刀×2』と表示されている。どうやら武器はこれだけらしく、内蔵武装のようなものも重くなるからと装備されていないようだ。
「何と言うか… これで戦えるんですか?」
「間合いにさえ飛び込めれば、なんとかなります」
少しだけ頭が痛くなった。こう言う人を突撃脳、とでも言うのだろうか。『間合いに入る』までの過程を一切考えていない、自分がこの機体を使えと言われたら即効で武器をもう少し積むだろう。それくらい心許無い。それに間合いに辿り着くまでにダメージを受けるようなことがあればこの機体では即効で致命傷になりかねないだろう。必要最低限の装甲しかないのだから。
「それに去年の世界チャンピオンのチームにも似たような機体というか、もっと酷いのがありましたし…」
これよりもっと酷い機体、武器が剣1本とロッドだけ、と言う明らかな要介護機体が世界チャンプのチームには居るとか。どんな機体か見てみたい気もするから後でネットで調べてみようと思う。
だがこれからこの部に加入するにあたって、大きな問題点が浮上した。
「トランスアームズって、いくらくらいするんですか?」
「正直に言えば、ピンキリですね。中古であれば3万円もあれば買える機種もあれば、新品でも5万円程度の機種もありますし」
初期投資の値段を聞いて、少しだけ安堵した。その金額であれば生活費を削れば何とかなるかもしれない、と。
そして幾つか軽い質問を聞いて、その日は解散となり私は寮へと帰った。
翌日の放課後、私は部室棟に向かって歩みを進めていると視線に気付く。後ろから誰か付いてきている、それも教室から。振り向くと私より少し小柄なで見覚えのある、席が隣の少女の姿があった。
「あの、氷室さん?」
「何よ」
「昇降口はあっちですよ?」
「迷子じゃないわよ!?」
どうやら彼女も部活動に入るようだ。その後の会話は無く、淡々と歩く。そして部室前に辿り着くと、まだ彼女は私の後ろに居る。なので改めて聞いてみることにした。
「部活、お間違えでは?」
「え、ここ第6トランスアームズ部よね?」
「そうですけど…」
「…まさか、確か蒼司って言ったわよね? ここに入部するつもり?」
…席が隣り合わせなのに部活動まで一緒になりそうなのは何の因果なのだろうか。やっぱり入る部活動を間違えたのではないか、と少し頭を抱えたくなる。
だがそんな思考も部室から聞こえた声に掻き消されてしまう。
『廃部、ってどう言う事ですか!?』
「「え」」
驚きのあまり氷室さんと声が重なってしまった。私達は顔を見合わせ、聞き耳を立てる。
『期限まではあと1ヶ月ある、と言っていたのは会長です!それなのに…』
『しかしだね、こんな見込みの無い部は早々に潰してしまいたいんだよ。予算が確定する前に。部員も実績も何もかも足りないこの部に食わせる予算は無いのさ』
咄嗟に配布されたばかりの生徒手帳を広げ、部活動についての項目を見つけ出す。
「『部員として3名所属しない限り部活動として認可できない』… もしかして昨日、部員が『今は私一人』って言ってたのって…」
「つまり、そう言うことよね…?」
どうやらもう決断までの猶予は残されていないらしい。私は思いっきり部室のドアを開け放つ。
「待って下さい!」
「蒼司さん!?」
「な、何だねキミは!?」
部室に居たのは先輩とあと一人の男子生徒、恐らく昨日在校生代表として演説していた生徒会長だと思い出し、二人は唐突な乱入者に驚き目を丸くする。
「部員が居れば良い、のですよね? なら私が入部します!」
啖呵は切った、もう戻れない。先輩は目を丸くし、会長の側も少し焦ったような動きをするがすぐに落ち着きを取り戻し、気色の悪いドヤ顔で言い返してきた。
「キミ一人が入ったところで、二人だ。部活動の規定では…」
「じゃあ三人になれば良いのよね」
そう言いながら後ろから氷室さんが部室に入ってきた。どうやら彼女も意を決したらしい。
「私も、この部に入る。それなら文句は無いでしょう」
こうして私達は巡りあい、交じり合ってしまった。もう引き返せないこの道、大きな運命のうねりが待ち受けていることも知らずに、スタートラインへと立ってしまったのだった。