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蒼き瞳に映るソラ  作者: 朝里炒豚
序章・スクールライフ編
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第一話『巡りあう少女達』

4月上旬。東京都にある『私立桜宮大学附属桜宮中学』の入学式が行われている。

受験生の中から選ばれた入学者数200人の入学式典。厳しい受験戦争を勝ち抜いた子供達の中から一人の少女が前に出た。


『暖かな春の訪れと共に…』


『氷室 火澄』、灰色の髪をサイドテールに結った小柄な少女は壇上に立ち新入生代表の答辞を述べていく。


正直どうでも良い。


こんな式典、面倒なだけだ。さっさと終わって欲しい、理事長の話も学生代表の話も全部どうせ無駄なんだから。

そんな事を考えている内に式典は終わる。そして教室に戻ると、全員が解放されたようにおしゃべりが始まった。

私も呼び止められて、煩わしいと思いながらも相槌を打っていると先生が現れ席に戻るよう促され、従う。

そして左隣の席を見ると見覚えのある少女だった。


「何よ」


先ほど壇上に上がっていた少女『氷室 火澄』。さっきは気付かなかったがどうやら隣の席はこの子らしい。


「いいえ。ただ主席さんが隣とは」


「あっそ」


そう言って彼女は窓の外を再び眺める。どうやら人と関わるのが嫌いなようだ。あと存外口も悪いらしい。


「では皆さん、自己紹介をしてください」


各々の自己紹介は殆ど耳に入らない。面白くも無いしなんの捻りも無い、ただのノイズにしか聞こえなかった。そしてとうとう私の番が訪れ、席を立ち上がり当たり障りの無い自己紹介を放った。


「『蒼司海乃』と言います。遠方から来たので、寮生活をしています。よろしくお願いします」





各人の自己紹介も終わり、初日のHRは終わった。この後やる事といえばひとつだけだ。


(帰る)


別段親しい人も居ないし、話すなんて明日以降だっていくらでも出来る。とっくに隣の席の誰かさんは撤退しているし。


昇降口から外に出ると人がごった返していた。様々なユニフォームや衣装に身を包んでいることを見ると恐らく部活動の勧誘だろう。どうでも良い。

喧騒から逃げるように陰の方を歩き校門まで逃げていく。

捕まればもみくちゃにされて潰れるのは間違いない。と言うか現に先ほど目の前で潰されてたクラスメイトが居た。名前は覚えてないけど後で冥福は祈っておこう。


(ここまで来れば安心…)


逃げ切れたか確認するために余所見をしていた次の瞬間、誰かにぶつかる。


「きゃっ…!?」


「あ、ごめんなさい!」


「い、いえ… 私こそ不注意で…」


私より背の高い少女が尻餅をついて倒れていた。その周囲にはビラがばら撒かれており、きっと彼女も部活動の勧誘に出ていたのだろうと容易に想像できる。


(こんな陰の方で?)


喧騒から逃れるために敢えて目立たないところを潜り抜けてきた、それなのに誰も居ないであろう場所にこの人は居たのだ。待ち伏せされたか、或いは…


(ああ、きっとあの中に入れなかったんだ)


あの部活動勧誘の喧騒の中に入るには度胸ともみくちゃにされても負けない強さが要る。だけどこの人は多分押しに弱い、そう言う性格なのだろう。だからこんな隅っこに退避したのかもしれない。


(でも変な感じ)


どこかおかしい、そう感じる。それが何かは分からないけど、どこか変に感じて放っておけない。新品で新しめのカバンを地面に置いて散乱したビラを拾う。


「あ、私が拾いますから…」


「構いませんよ。こちらの不注意が原因ですから」


ビラを拾い上げていくなか、私はビラの内容に目を通す。


『第6トランスアームズ部 部員募集』


『トランスアームズ』、元は軍事兵器になる予定だったものをスポーツに転向させた所謂スポーツチャンバラのようなもの、だと認識している。

軍事兵器でチャンバラをやる、と言うのも危ない話かと思いきや今まで死者は一人も出ていないというのだから凄い安全性なのだろう。

一部では学校教育にも採用されており、いずれは宇宙開発にも用いられるかもしれない、とのこと。世間一般ではこう言う認識だ。



「第6?」


「少々事情がありまして…」


所謂ワケアリ、と言うヤツなのだろう。あまり首を突っ込みたくは無い、多分首を突っ込んだらマズイ事態になるんじゃないか、と頭の中で何かが警鐘を鳴らす。


だけど、どこかこの人を放ってはおけない。そんな何かを感じる。


「駄目、ですよね」


(ああ、これは諦観だ)


何もかも諦めたような、なのにどこかまだ希望を捨て切れてないそんな声。


そんな声に負けたのか、気でも狂ったのか、それとも同情なのかは分からない。だけど、気が付けば変なことを口走っていた。


「ちょっとだけ、興味があります」


興味なんて無いのに。だけどこの人の必死さは伝わった、ただそれだけの理由で私はもう戻れない一歩を踏み出し始める。


「え…?」


彼女は困惑していた。想像すらしなかった一言、処理が止まった旧世代のPCのようにカチカチに固まっている。


…部活動を選び間違えたかもしれない、とちょっと後悔。それでも言葉を取り消すことは私の主義に反する。意を決し、彼女へとこう告げた。


「行きます、『第6トランスアームズ部』に」




その頃、一人の少女が駐輪場に居た。 彼女も喧騒から逃げるように陰を縫うように歩き、そして駐輪場までようやく辿り着いたのだ。


(ま、これも数日でしょ)


どうせこれも一時的な祭のようなものに過ぎない、勧誘期間さえ終わってしまえばもう巻き込まれずに済む。と言うかさっさと終わってほしい。

そんな事を考えながら自転車の鍵を解錠していると風に流された1枚のビラが顔面に直撃した。


「誰よ、ポイ捨てしたバカは…!」


部活動勧誘のビラのようだ。恐らく誰か受け取って捨てたのがこちらに流れてきたのだろう。迷惑でしかないし、ポイ捨てして環境を汚すなと怒鳴ってやりたい気分だった。

とは言えこのビラ自体に罪は無い。そう自分に言い聞かせてビラへと目を通す。


「『第6トランスアームズ部』…?」


『トランスアームズ』、その存在はよく知っている。そして私自身も1機、所有している。去年亡くなった祖母に贈られたものだが結局使ったことは無い。きっと生涯一度も使わないだろう、とも思っていた。


(だけど、良い機会かも…)


目を逸らし続けたこと、他人と向き合うことを恐れた自分を変えるまたとないチャンスなのかもしれない。

決めた。明日早速この部の門扉を叩いてみる。『第6』と言う部分が少し気になるが、目を瞑ろう。それが運命なのだと信じて。

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