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蒼き瞳に映るソラ  作者: 朝里炒豚
プロローグ
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プロローグ『少女達のはじまり』

私は空が嫌いだ。まるで偽物のような青さが世界を覆って私を苛立たせる。

何故なのか、それは自分でも分からない。思春期特有の思想とか価値観とかが過剰に発現しているのかもしれないが、恐らく違うだろう。


(どうして、かな)


その答えは今の自分では出て来ない。いずれ自分で出せるものなのかすら分からない。でもきっと、ここじゃないどこかへ行けば答えが見出せるかもしれない。かつて『ある人物』がそうしたように。


「…」


思い浮かぶのは三年前に出奔した、忌まわしき姉の姿。定期的な連絡は寄越すがほぼ音沙汰なし、恐らく生きてはいるだろうが後の事は知らないし知りたくも無い。もし感情を抱いているとすればそれは憎悪、人をスケープゴートにして逃げたことへの怒りと何も相談もしなかったことへの恨み、そして…


(これ以上は、思い出したくも無い)


そう考えて感情を抑え込む。嫌いなものには蓋をするに限る。そうすれば、楽だ。


「帰ろ…」


河原で下していた腰を上げて衣服に付いた草を払う。もうそろそろ引越しの業者が荷物を配達する時間でもあったし、このロクでもない思考を終わらせるには丁度良い。


「いつか、見えるかな」


最後にそう呟く。何が見えるのだろうか、この偽物の空の向こう側に。それが本物の空なのか、空の向こう側にある何かなのかは、今の自分には少しだけ早過ぎた問いかけだった。

だけどいつかは辿り着きたい、その向こう側へ。偽物の空を越えた先に、自分が辿り着くはずの向こう側へ。


―――それは世界を染める、蒼のお話


熱い、身を焼くような熱さに全身が包まれる。目の前にあるのは燃え盛る炎の光景、燃えて沈み始めた白いフェリーの姿。そして海へと投げ出されて今度は冷たさが全身を覆う。息が苦しい、必死にもがいて傍にあった残骸に掴まり水面に出ようとするがまるで体が動かない。


(たす、け…)


心で懇願するがその声は誰にも届かない、届くはずがない。無意味に消えるんだ、この命も。


ここまでが私の『夢』だった。


「っ…!」

いつもの夢で目を醒ます。体中が汗でぐっしょりしていて気持ちが悪い。私の『心の(トラウマ)』 を夢は容赦なく抉り返し、忘れたいことですら思い出させる。

こんなことなら処方された薬を飲んでおけば良かった、だってこんな夢を見ずに一気に眠れるから。


(いつまで、苦しまなきゃならないのよ…)


あの事故からもう何年も経ってるのに、未だに心の中にある悪夢。二百人もの命と共に消えた両親の最後、それが頭にこびりついて容赦なく心を傷つけ続ける。

台所でペットボトルの水を飲み、衣服を着替えて一息つく。無駄に広い家の中で一人きり、虚しいったらありゃしない。

既に両親は亡くなっており、育ててくれた母方の祖母も今はもう居ない。頼れる親戚なんか居なくて、助けてくれるのはおおよそ二ヶ月に一度来る当人曰く『両親のお友達』だったらしい後見人の人だけだ。当初は警戒していたが今では唯一信用できる大人はその人しか居ない。

祖母が亡くなった後の親戚間のいざこざは大変だった。いろんな人が出しゃばって、中には私を追い出してこの家を乗っ取ろうと画策した人も居て人間不信に陥るくらいには酷かったと思う。その人が居なければ今頃ウチは食いつぶされていただろう。


「寂しい…」


誰もいない孤独、こんな悪夢を見ても抱きしめてくれる人はもう居ない。私はもう、一人きりなのだ。


「居なくなりたい…」


だけどまだ生きていたい。そんな矛盾した心を抱えたまま、私は再度ペットボトルの水をあおった。



―――それは水底を彩る蒼のお話。



叶えたい願いがあった。だけどそれは叶うことはなかった。いつだって現実は残酷で、ささやかな希望すらも打ち砕いて、辿り着くことを許してはくれない。


「それでも、諦める訳には…」


絶対に諦められない。既にボロボロで折れかけている心に鞭を打って立ち上がる。どれだけ傷付いても、どんな手段を選んでも、どんな代償が待ち受けていてもこの道を選ぶと決めたのは私自身なのだから。


(全てを投げ捨ててでも、叶えたいから)


もう時計は動き出している。訪れる未来を止めることは出来ない、なら私は進むしか残されていないのだ。


(あの時、もっと力があれば…)


力があれば彼女達を救えたのだろうか?消える命を救えたか?惨劇を止めることが出来たか? 否、その答えは間違いだ。


(私には何も救えないかもしれない…)


私だけでは絶対に届かせることは叶わないだろう。だけど誰も私を助ける者は居ない、私が選んだのはそんな茨道なのだから。


「どれだけ繰り返すことになろうとも…」


螺旋の檻に囚われて、そんな戦いを繰り返してきた。そしていつも何も出来なかった。出来たとしても届かせることが出来なかった。


(お母様、私に力を貸してください…!)


きっと私の母は今の状況を見れば私を怒るだろう。仕方無いことだった筈なのに、それを覆そうと躍起になって、そして愚かで無力な行いを繰り返している私を。きっと力なんて貸してくれなくて、泣いてでも止めようとするに違いない。だけど母は既に居ない、ここに止めてくれる人なんて誰も居ない、辛く厳しい一人の戦いを止めてくれる人なんて。

この戦いも無駄になるのかもしれない。きっと私はまた何も出来ないで終わりを迎えるだけなのかもしれない。それでももう止まることは出来ない。道には戻る場所はなく、辿り着く場所しか無いのだから。


―――それは願いを司る、蒼のお話。





世界は変わっていく。1980年に発見された特殊粒子『トランスマテリア粒子』により世界は大きな転換点を迎えた。

当時不可能とまで言われていたビーム・レーザー兵器が人間用の携行武器になる程のエネルギー効率、、重力に反発する反重力性、粒子同士を結合させることによる物質生成などの万能性を有するソレは世界各国で研究を行われる。

勿論、軍事転用も試みられた。しかし既存の兵器を過去のものにしてしまうTM粒子の軍事転用は各国の兵器メーカーの反対など様々な要因などにより国連において締結された『シレトコ条約』にて規制・禁止される事になる。

だがそれで諦める程彼らは潔くない。そこで生まれたのがバトルスポーツ『トランスアームズバトル』だった。

『来るべき軍事転用に備えてそのノウハウを蓄える』、そんな目的で始められた『トランスアームズバトル』だったがいつの間にか大流行を引き起こし当初の目的など忘れられ、さらに大企業から抜けた技術者達が様々な企業を興し市場には多種多様なモデルが流通することとなった。

そして粒子の発見から40年が経過しようとした今、世界は再び大きく動き出そうとしている。

張り巡らされた悪意、待ち受ける惨劇、そして世界と人を巡る戦い。

少女達は立ち上がる。それぞれに抱えた想いを胸に、悲劇の未来を覆し新たなる未来を創るために。


―――それは世界を変える、蒼き少女達の物語。

初めまして。不定期連載となりますがお付き合いください。

意見・要望などは随時受け付けております。よろしくお願いします。

またブックマーク・評価のほうをよろしくお願い致します。

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