心が壊れる音
──翌朝──
涼人が亡くなった事に気付いたメイドが悲鳴をあげ王宮内はどよめきに包まれる
ただ一人走るように地下室に向かっている
走るその顔は憎しみ 恨みがこもっているような恐ろしい顔をしていたが瞳だけ心がはち切れそうなほど涙をこぼしていた
そんな事も知らない燐は今日も目が覚めいつも通り牢屋に座っていた
「…時雨様…今日も来るとは…言っていましたが……時雨様よりお母様に…会いたいな…
嫌われてもいるかもしれない だけどいつか
必ず…役に立つ 好かれる…いい子にするから…
あいしてよ……」
一筋の涙を零しながら願うように言う
─バタバタ…ガチャン!!!─
乱暴に牢屋の扉が開く 開く音に驚くように目を向けると泣きながら立っている加奈が姿をあらわす
「…!お母様…!?どうして…泣いているんですか…!?」
加奈の姿を確認するとすぐに立ち上がり駆け足で近寄っていく
「…んだ……涼人が死んだのよ!!あんたが殺したんでしょ!?」
最初はボソボソと言っていたが燐の首元を掴みながら喚き散らすように叫び始める
愛する人が死んだ悲しみを実の娘にヒステリックを起こしたように責め立て始めた
「…!?お父様が…死んだ…??」
苦しそうに顔を歪め足をジタバタとしながら目を大きく開く驚いたように加奈を見つめる
「そうよ!!あんたが殺したんでしょ!?私が憎いんでしょ!!憎いから私が愛している大切な人を腹いせに…!!涼人の能力は血が繋がった人には効かないデメリットがあるのよ!あんたしか犯人はいない!!」
首を締めるかのようにギリギリと力を入れながら睨みつけている 憎い人を殺す そんな風に
「…ッ!!…わ…私は…この…へやから…出てません……だから…殺してない……私は…お父様を……殺したり……しない…!!」
息ができなくなるように加奈の手を掴み必至にバタバタとする 彼女はこの牢屋から出るのは不可能 あまりにも無茶苦茶な理不尽な感情が一方的に押し付けられている
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!だまれよ!!何で役立たずのお前が死なないで涼人が死んだのよ!!お前がお前が…!死んでしまえ」
燐を乱暴に床に叩きつけると瞳が淡く光る
両手を燐に突き出し
【能力発動 毒の針よ 裁きを下せ 罪人に死の花を咲き乱れさせろ】
加奈の頭の真上に大きな魔法陣が浮かび魔法陣から大きめの針が出てくる その針は一斉にスピードを上げ燐に襲いかかる
「…ッァァァァァァ!!!」
地面に叩きつけられまともに避ける事が出来なかった為全てが身体中に突き刺さり焼けるように体が痛み始め悲鳴をあげる
「あんたがあんたがいなければ 〝あいつ〟みたいに捨てれば良かった!!私は産んでからお前を〝愛した事などない!!〟お前に私が持つ感情は恨みただそれだけだ!!」
ついに言ってしまった 燐が僅かながらにも信じていた気持ちを最後に壊すように 悲鳴をあげる燐にとどめを刺すかのように剣を取り出そうとする
──パリン…パリン……──
どこからともなく何かが壊れるような音がする
今まで嫌われていたけどいつか必ず愛されると信じていた だから暴力を振るわれても何を言われても耐えていた だけど…お母様は…嫌 まだ信じたくない
「お母様……私は…お母様のこと…大…好…き…
お願い…嘘でもいいから…愛している…って…言って……一度で…いいから…」
涙を零しながら縋り付くように身体中が痛むが必死に言葉を言う 一度でいい 愛してるって…
だが加奈はそんな気持ちを願いを無視するように…
「…お前なんか生まれなければ良かった!!死んで涼人を返せ!!!」
剣を大きくふるいグシャ…と音を立てて思いっきり燐の体に突き刺す
「…ッ!!!」
痛みが更に加速する 意識がなくなりかけ始めたが最後に加奈の顔が見たくて必死に顔を上げ目を開ける
最後に映る燐の瞳には恨みと憎しみと私が死ぬ事を狂ったように喜ぶ狂気の笑みを浮かべていた
そこまで見て泣きながら気を失っていった