ブライダルベールの花言葉
波乱の一日となった真夜中 涼人は一人部屋で考え事をしていた
それは いつまでたっても会えない娘 燐のこと
会おうとすると加奈に今はまだ勉強中です もうお休みになりましたよっとはぐらかされるように言われ無理矢理行こうとすれば私の事信じてくれないのですかと瞳に涙を浮かばせ見つめてくるので
行動が行動に移す事ができない
「…あの子は…燐は静音にそっくりだ…」
生まれた時もどことなく静音に似ていた 成長するたびに確信した この子は将来静音に似るだろうと
だが もう数年近くも会っていない
俺には子供達を守ると言う使命が…約束があるのに …よし 明日行ってみようとグッと決意をしたように手を握りしめると何か物音が微かに聞こえてきた
「誰だ…!?」
バッ!と物音の方に顔を向け腰元に携えている剣に手をかけいつでも引き抜けるようにする
「……こんばんは…貴方の命…頂戴しにきました」
涼人が見る視線の先には深く黒いローブを顔を隠すように羽織り見た感じ若い女性が立っていた
ナイフを構えると涼人に向かって突進するかのように素早く近づいてくる
「…!っ!!顔を見せろ!!まだ俺は死ぬわけにはいかない!娘達を残して!!」
剣を取り出すとナイフから身を守るようにガチン!と火花を散らしながら攻撃を防ぐ
そして両目を淡く光らせる 涼人の能力は洗脳
相手を意のままに操ることができるがこの能力には一つ大きなデメリットがあった それは……
「〝血が繋がっている人〟には 効かない能力なんか怖くないですよ」
ニタァと口元が笑いフードが自然と取れ顔が見えてくる 紫色の長い髪 紫色の瞳 そう涼人を襲ってきたのは実の娘 蘭だった
「蘭……??どうして……」
謎の人が実の娘だとわかり目を見開き驚き攻撃の力が微かに弱まってしまう
自分の命を狙ったのが実の娘だというショックから
【〝ブライダルベール・ボヌール〟!!
会いたい人と束の間の幸福を】
攻撃の力が弱まった涼人に淡く瞳を光らせ自分の能力を使う その瞳は泣きそうな瞳だったが意思は強く殺そうとすることをやめそうにはなかった
彼女が能力を発動するとブライダルベールの花の香りがし始めた
「…っは!これは嗅いだらダメなやつだ…っ!」
少し匂いを嗅ぐと身の危険を感じたのか慌てて鼻と口を塞ぐ そして頭で必死に考える
確か蘭の能力は………
─…人…涼人……こっちを見て…??─
後ろから懐かしい声がしてくる 一度でもいいからもう一度会いたかったずっとずっと愛している人の声が……
「まさか…その声……静音…??」
おそるおそる後ろをゆっくりと振り向く これが罠だとしても構わない ただ会いたい
振り向いた先には笑顔で両手を広げる静音がいる
─涼人 会いたかった…私の願いを叶えようと必死で…ごめんね?もう疲れたよね?…〝私と一緒に向こうに行こう〟?─
笑みを浮かべていたが悲しそうな瞳をし一歩ずつ近づいてくる 甘い甘い囁きをしながら
「…!……俺はまだ願い叶えられてない…そして静音に謝りたい…!!静音…!お前以外の人と結婚して本当にすまない!!だけど だけど…愛しているのは…世界で一番愛しているのはお前…だけなんだ…!!」
久しぶりに会えたこの世で一番愛した人に抱きつきながら涙を零す 抱きしめた体は暖かくまるで生きているようだった 死ぬ時はちゃんと見た だけどだけど…これが能力でもなんでもいい 覚めないでくれ 幸せな夢から
─大丈夫…わかっていますから…私ずっと向こうから見ていたから さぁ…涼人…私と一緒に…ずっと一緒にいましょうね─
涙を零す涼人を抱きしめ返しながら自分も涙を零す あの時言えなかった 本当はずっと一緒にいて欲しかった だから……
ーグサ!!!ー
抱きしめ合う二人の後ろから的確に心臓を貫く音が聞こえる
「…カハ…!!……蘭……最後に……静音に…会わせてくれてありがとう…な……俺は…お前を恨まない……蘭…愛しているよ…静音と俺の世界で一番…大切な…宝……物」
刺され口から血を吐き出し静音にもたれかかるように倒れながら後ろをチラッと振り向き笑みを浮かべる
─蘭 ありがとう…涼人に会わせてくれて……─
涼人をしっかり抱きかかえながら娘に泣きながら笑いかける 淡い光が二人を包み込み 涼人の体から魂が出てきてすぐに形となる
二人はしっかりと手を繋ぎ蘭の元にいき抱きしめる
「……お父さん…お母さん……ごめんなさい…殺して…お父さんを…だけど…あの世で幸せになってね…?」
二人に抱きしめられ涙をポロポロと零し震える手でパチンと音を鳴らす
すると 二人は消え蘭の足元には幸せそうな笑みを浮かべ亡くなっている涼人の死体がある
蘭の能力ブライダルベール・ボーヌルは相手が一番会いたい人に会わせる能力 死者でも関わらず
相手に甘い夢を見せ隙を作り的確に殺す事ができる幻覚系能力だ
ブライダルベールの花言葉は〝幸福〟〝願い続ける〟
ソッと涼人の頭を1 2回撫ですぐに立ち上がり部屋から出て行く
「…お父さんを殺すなら幸せに殺したかったから……だから…幸せになってね…私は堕ちていくから」
涙をぬぐいとりコツコツと夜に紛れるように姿を消して行く
全ては…何千万回も続くこの世界で愛したあの人を手に入れるために…