月の神
翌朝 加奈が客人を連れてくると言われたのでいつもより早めに目覚める
牢屋の隅にある水だけがでる蛇口をひねり桶を取り出し水が満タンになるまで少し待つ
水が溜まるとワンピースを着たままザバーと頭から勢いよく冷たい水をかける
ポタポタと落ちる水滴を気にせずに手でボサ付いている髪をゆっくり丁寧に梳かしていく
あらかた髪が綺麗になると水滴も落ちなくなる
少しは身体が綺麗になると満足したように加奈が来るのを待つ
自分に客人というのが今だに謎すぎているけど
お母様が来てくれる それだけで彼女は幸せが心が満ち足りたような感覚になる
普段なら見せない笑みを浮かべながら扉をジーと見ていたらキィっと扉が開く
「役立たず 貴方に客人よ?さぁさぁ 中へどうぞ?」
燐の姿を目にすると睨みつけ後ろにいる人であろう人を笑みを浮かべ手招きをする
加奈が手招きをし入ってくる人を少し警戒しながら見始める
「……初めましてじゃないけど 初めまして?僕は〝月詠 時雨〟 よろしくね?」
牢屋に入って来たのは青い綺麗な短髪の髪 髪色と一緒の深い青い瞳には月の模様が浮かび 優しい笑みを浮かべる男性が燐に挨拶をしてくる
「…?初めましてじゃない人…??えっと…葛木燐…です……」
少し首を傾げたが自分も無表情のまま挨拶をする
こんな印象深い人なら忘れないはず…あれ…もしかして……〝あの時〟の人?
「時雨さん 本当にこんな汚い役立たずを
〝婚約者〟としてもらってくれるの??」
挨拶をする二人を見ながらとんでもない発言をする
「婚…約…者…??」
加奈の発言を聞き加奈の言葉を繰り返すように言いながら二人を交互に見ている
「そうよ?貴方役立たずだから捨てようと思っていたのよ笑だけど 涼人が悲しむからできなくてずっとイライラしていた けどね婚約者としてこの国から追い出すなら涼人も悲しまないわ♪」
ニタァと笑いながら楽しそうに言い
ようやく邪魔ものが消えるととても嬉しそうに微笑んでいる
「…!お母様!待って!!私を捨てないで!!嫌だ!嫌だ!!私役に立つから!お願いします!」
捨てる その言葉に反応したように立ち上がり勢いよく加奈に抱きつきながら泣きながら言う
「この…!離しなさい!!あんたは!!要らないゴミなの!!ゴミを有効活用しているんだから感謝しなさい!!!」
抱きつかれ顔は醜く歪みパシン!と音を鳴らしながら叩き上げ 燐が少しぐらついた所に蹴りを入れ蹴飛ばし肩で息をしながら叫ぶ
「…っ!!捨てないで……お母様…お願いですから……!!」
牢屋の壁に叩きつけられ口から血を吐き出すがゆっくり立ち上がりながら再度向かって行こうとする
「加奈様!!少し話をしましょう!!燐様 また後から来ます!!」
向かってくる燐を再度叩こうとする加奈を押さえつけながらズルズルと牢屋から出て行きその場を去っていく
バタンと扉が閉まりると扉をバンバン!!と叩きながら
「捨てないで…!!嫌だ…いやァァァァァァァァ!!!」
誰もいない牢屋で一人の少女の悲痛な叫びが響いた……
ー王宮の中ー
「離せ!離せ!!月の神!!」
牢屋から離れ地下から移動すると自分を押さえつけている時雨から無理矢理離れる
「…申し訳ありません 加奈様 けど少し落ち着いてください」
ペコと軽く礼をしながら謝罪をする
「落ち着いていられるか!!汚い!汚い!!あのゴミが!役立たずが!!……時雨さん さっさとあのゴミをお持ち帰りいただけませんか?」
フーフーと息を荒げながら怒鳴り散らかすと時雨に目をやり逆らったらどうなるかわかるよな?という目で見る
「…少し時間をいただけないでしょうか?今あのまま来たら…すぐに自殺などしてしまう可能性が……そうなりましたら 涼人様が……」
申し訳なさそうにしながら加奈から少し目をそらすと涼人の名前を出す
涼人の名前が出るとグッ…っとしたような顔で加奈は黙る
燐の婚約関係は全て〝あの神〟と話して決めたもの 涼人には何も話していない
燐が死んだとなれば私が涼人の信頼を失う……
「必ず…月の都には連れて行きます…ですが少しでも僕のことを好きになってくれたら…っと言う条件はいかがですか?」
黙る加奈を見て一つの提案をする
そう 自分に意識が向けば自殺なんかさせませんよっと言う提案を
「…ッチ!さっさとしなさいよ!!私は涼人の所に行く!!」
提案を仕方なく飲み込み舌打ちをしながらその場から去って行く
そんな二人の様子を物陰からひっそりと覗いている女性がいた
「時雨様……〝この世界では私を見てくださいね…??〟」
紫色の長い髪 紫色の瞳の持ち主 葛木蘭
不穏な言葉を言いながらクスクス笑っている
「さて…私はあの邪魔な義妹を消す支度をしましょう…」
これから自分がする事に少し迷いはあるが全ては時雨を手に入れる為
何千万回もやり直しているこの世界 次こそ必ず…
〝私のものにしてみせる〟
それぞれが動き始めた 全ては愛の為に