王に近寄る一つの愛
あれから数年が経った
静音が亡くなってから心がポッカリと穴が開いてしまったかのように何もする気が起きずにただ部屋に娘の蘭と一緒に引きこもってしまった
国の民や王宮にいるものは王を心配し部屋に入ってはなんとか元気付けようと頑張っていたが大切な人を失った心には届かず愛想笑いを浮かべ用が終わると突き放すように部屋から追い出す日々
早く次の女神 王妃も決めないといけないが静音以上に人を愛する事が出来ない
「お父様ー?お母様はまだ帰って来ないのですかー?お父様 お母様に会えば元気になりますよね お母様遠くに行ってまだ帰ってきませんねー」
膝に座り本を読む蘭は顔を見上げ涼人の頭をよしよしと撫でる 心配されるほど酷い顔をしていたのだろう
「…静音…遅いな…どこに行ったんだろうな……」
ぎゅーと蘭を抱きしめ涙を零さぬように話す
幼い娘にはまだ死ぬと言う事が理解できずに遠くに行っていると思っている それだったらどんなに良かったことか……
─コンコン…─
蘭を抱きしめ話していたら控えめに小さく扉を叩く音が聞こえてくる 扉の音を聞くと蘭はバッと立ち上がり笑みを浮かべながら近づいていく
…俺も僅かに笑みを浮かべた ただ一人励ますだけではなく悲しい気持ちも理解してくれて王妃 女神などのことも言わずただ側にいてくれる心優しいメイドが一人いる
ガチャと扉が開く
「涼人様 蘭様 こんばんは♪今日は何して遊んで何を話しましょうか?」
黒い長い髪 紫色の瞳 クラシカルメイド服をきた女性が姿をあらわす
「加奈ー!!遊びましょうー!!」
加奈の姿が見えた途端抱きつきキャッキャッとはしゃぐ
「…加奈 今日も来てくれたのか…蘭が喜ぶから嬉しいよ ありがとうな…」
はしゃぐ蘭を見ながら嬉しそうに加奈を見つめ部屋へと招き入れる
「蘭様 今日も元気ですね!って涼人様 お気になさらず 私がしたいことをしていますからね♪」
ふふと笑い蘭を抱き上げ部屋へと入ってくる
唯一部屋から突き放すようにしない 薬事 加奈は昔からずっとこの王宮に務めているメイド
幼い頃からよく一緒にいた為 身分の差があるとはいえ仲の良い幼馴染みたいな関係だ
俺が静音と結婚する時も誰よりも喜び色々と世話になった
「蘭は元気だよ!お父様は元気ないけど…」
元気よく返事をしチラっと涼人の方を見ている
やはり先ほど頭を撫でたのは気遣っていたみたいだ
「ならいいが……っと…まぁな…」
加奈に嘘を言って元気だと言ってもすぐにバレてしまうのでため息をつきながら言う
「蘭様 今は涼人様は元気がない時なんです!ほら!遊んだら元気になるかもですよ!」
何しましょうかねと蘭をおろしクスクス笑い涼人に手招きしながらこちらに呼ぶ
それから三人で広い部屋で追いかけっこや体を動かす遊びをした
この時ばかりは少しだけ静音を失った気持ちが満たされるような感覚になってくる
時間が経つのはあっという間だった
「ふー!今日も良い汗かきましたね!蘭様は疲れて爆睡してますよ…笑笑」
少し汗を拭きながら膝でスヤスヤと眠る蘭をクスクス笑いながら頰をツンツンとする
「これだけ身体を動かせばな…笑っとそろそろ帰る時間だろ?加奈」
加奈の膝から笑いながら蘭を抱き上げ時計をチラッとみる
「あ!もうこんな時間!!では 涼人様また明日!!」
時計をチラッと見てアワアワと慌てて急いで立ち上がり部屋から帰ろとする
けれど片手をパシっと涼人から握り締められる
「…明日…話したいことがある…夜にまた来てくないか?」
優しい笑みを浮かべ大切な話があるだと付け加える
「…!はい!わかりました!!」
嬉しそうな笑みを浮かべ今度こそ部屋から出で行く
出て行く加奈を見ながら蘭の頭を撫でながらベッドへと移動する
この国は女神になる人は必ず王の妻となる 国の民も女神がいないのは不安だと頭ではわかっている
どうしても静音以外を妻にすることが許せなかった だけど…蘭もこんなに懐いてひたむきに接してくれる優しい加奈なら国の民も愛してくれるのではと考え 数年間考え続け決意をした
加奈を新しく運命を司る女神 国の王妃へと
静音を忘れる 別の人を愛するのではなく塞ぎ篭ってしまった自分をどうにか元気づけようとする国の民を安心させる為 国の為だ
それと…静音との約束を守る為だ
「…死んだその時は謝る だから静音 新しい妻を迎える事を許してくれ……」
蘭をベッドに寝かせ小さく呟き自分もベッドへと入り眠りにつこうとする
明日 加奈に話をしよう 優しい加奈ならわかってくれる筈だ 静音と会えるその日まで……俺は国の民を守るよ…だから待っていてくれ……
静音 俺はお前だけを愛しているよ この気持ちは最初に会ったあの日からずっとずっと変わらない
大切な大切な気持ち
そこまで思ったまま疲れた反動か深く深く眠りについて行く