節分の夜、鬼は再び
「鬼は外、福は内」
町中にそんな声が響く夜。
鬼は寒さに震えながら、豆をぶつけられ、街をさまよい歩いていた。
『人間と仲良くなりたいだけなのに。何にも悪いことしてないのに。どうしてみんな、鬼を嫌うの?』
何百年、何千年と毎年繰り返してきた問いに答えるものはいない。
何百年、何千年と毎年繰り返せば何となく分かる。
この見た目が人間は怖いのだと。
『見た目なんて変えようがないじゃないか。生まれつき……こうなんだから』
この手に持っている金棒を人間は恐れているのだと。
『……違うんだよ。この金棒は、人間を守るために持ってきたんだ』
いくらそう言っても、人間は誰も聞いていない。
その見た目と金棒のせいで、恐ろしい鬼のイメージが出来上がってしまっているのだから。
鬼は本当は皆優しいのだという知識は誰も持っていないのだから。
「鬼は外、福は内」
『どうして。僕は人間の福を護りたいのに』
毎年春が始まる前日に鬼はやってくる。
新しく始まるその年、人間を守れるように、その為に仲良くなれるようにと。
でも、人間は毎年鬼を追い払う。
だから鬼は、毎年立春の日は、鬼の里で泣いている。
けれど遠い鬼の里から人間を見守っている。
そしてまた、節分の日に戻ってくるのだ。
「鬼は外、福は内」
繰り返されるその声に、今年もダメだったのかと肩を落とす。
『どうして、中に入れてくれないの? 僕は、僕は……』
冷たい涙を流しながら、鬼は再び里へ帰っていく。
『今年もまただめだったけれど……来年には、きっと』
何百年、何千年と呟いてきた言葉を呟いて。