表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

病んだ。やあだ。



四面楚歌。

俺の人生を表す最適な言葉。


絶体絶命。

この状況を例えるのであれば、最適な言葉であろう。


病付《矢見月》苦労《九郎》。

俺の名前だ。


「さっきから何を考えているのかしら? さあ、席に戻って。お話をしましょう? 二人の今後の……」


菜奈さん……いや、寄木菜奈は既にキャラ崩壊済みだ。

俺が惹かれていたクラスの委員長である彼女はもういない。悲しいよちくしょう!

やっと普通の女の子で、共通の趣味があり、可愛くて清楚な人に巡り会うことができたと思ったのに……。


断言しよう。俺はヤンデレ及びメンヘラな女は嫌いだ。

絶世の美女であろうが、千年に一人の美少女であろうが、性格に難のある人とは付き合えないし、生涯を添い遂げたいなんて思えない。


長年病んだ女に絡まれた経験からすると、こういうときははっきりと言ってしまったほうがいい。

だから


「悪いけど、俺は寄木さんと付き合えないよ」


「えっ……」


「だけど、俺はこれからも寄木さんと友達でいたい。だから……」


「今なんて言ったのかしら?」


「え?」


寄木さんの表情を確認すると、明らかに怒気に満ちていた。不思議と背後からゴゴゴゴ……! と特殊演出が加えられている気がする。どっから出てるんですそれ? アフターエフェクトですか?


まあ取り敢えずわかるのは、地雷、踏みましたね。


「付き合えない? 今、私に付き合えないって言ったのかしら? ねえ? ねえねえねえ! どうしてかしら? 私に何か不満があるの? 私、これでも自分のプロポーションには自信があるのだけど。これまでそれなりの容姿の異性から何度も告白されてきたし、もちろん九郎くんと付き合うために全てお断りしたわ。九郎くんの趣味に合わせるために上村先生の作品を全て読んだりした。九郎くんを不安にさせないために学校では誰からも寄せ付けないように常に気を張っていたりしたわ。今まで私は、あなたのために! あなたのために努力してきた!!! まあ、あなたのためだと思えば、これくらいのこと全然苦じゃなかったのだけれど……」


「」


こ、言葉が出ねえ……。

俺のために俺のためにって言ってるけど、言っちゃアレだけど、そんなの知らないし!

一方的に自分の感情押し付けてるだけじゃないか?

確かに、俺のためにそこまで努力してきてくれたことは正直すごく嬉しい。ただ、尽くす方向性がズレてる。正攻法でいいのに。

でも、どうしてもわからないことがある。


「よ、寄木さん」


「さっきから、どうして苗字で呼ぶのかしら? さっきまで名前で呼んでくれていたのに。私のことが嫌い? まさか、このお店に閉じ込めた当てつけかしら?」


「なんで俺のことが好きなの?」


「……!」


俺のことが好きだというのは普通に、素直に嬉しい。しかし、俺と寄木さんはつい最近まで対して関わり合いもなかったし、それこそ、上村先生の話をするようになるまで特に何も接触の機会はなかった。

なのに、なぜこうも狂気的な愛を俺に向けるのだろう。

それがどうしても引っかかるのだ。


「……好きになった理由を聞くだなんて、流石に野暮だわ」


「それなら、俺は君とは付き合えない。それに、俺はもっと相手のことを知ってからでないと、中途半端な気持ちで付き合いたくないんだ。これは昔からの自分の考えだ」


まあそのおかげでこれまで彼女が出来たことがないんですけどね、と付け加えて、寄木さんの目をしっかりと見つめる。

寄木さんからは動揺と悲しげな表情が見て取れた。そんな顔をされたら、なんかこっちが悪い気持ちになってしまう。


「あなたは、覚えていないの?」


「え……?」


「私、小学生の頃にあなたに会ってるのよ?」


「……嘘?」


寄木さんほどの美人な小学生など、俺の小学校時代にはいなかった気がする。いや、間違いなくいない。そもそも高校に入学するまで、『寄木』なんていう、珍しい苗字の人には一人も出会わなかった。


「嘘じゃないわ。隣の小学校同士の合同運動会があったのは覚えている?」


「ああ、それなら覚えているよ」


あの時は確か俺の出る競技の時に怪我をした太った子がいて、その子を保健室に連れてったら結局参加出来なくて、先生にしこたま怒られて、家では親にもしこたま怒られた記憶がある。

……もしかして、あの怪我をした子って、寄木さんだったり……?


「もしかして……?」


「……恥ずかしいけれど、私、あの頃からダイエット頑張ったのよ?」


え、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!??????


あの太った子が、寄木さんだったん!?


いやいや、イメチェンし過ぎだろう!? なんならあのときの俺、「こいつ重くて運びズレええ……少しは痩せろよ」まで思っていたまである。


しかし、だからといって、保健室に連れていったぐらいで惚れるなんてことはないはずだ。


「あなたが言ってくれた言葉、私はいまでも鮮明に覚えているわ……」


「ちなみに、俺なんて言ってた?」









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ