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7/9

寄木菜奈という女


更新遅くなり大変申し訳ありません!


劇場内。

席には俺、菜奈さん、京歌の順で座っている。

菜奈さんの表情を見る限り、おそらく京歌が何か要らぬことを吹き込んだのだろう。俺に迷惑をかけるのならばともかく、今日会ったばかりの人に対してそれはやってはいけない。

映画が終わったらみっちり、今日という今日は叱ってやる。今まで一度も京歌に対して怒ったことないけど。


そんなことを考えていると、映画が始まる前の他作品の宣伝が流れ始めた。そしてお決まりの映画怪盗(ドロボウ)も。何だか久々に観たけど、この注告映像っていつまでも変わんないよなぁ。


ふと横を向いて見ると……。


菜奈さんが今だに優れない顔をしていた……なんてことはなく、ポップコーン(キャラメル味)を小さな口で、まるでリスのように集中して食べていた。あらヤダ、お可愛いこと。


しかし、普段学校ではクールな菜奈さんのこんな一面が見れて、何だか得した気分。


一方京歌はというと、俺が菜奈さんを見ていることに気付き、真顔で俺を見つめてきた。

やめろ! 後で怒ろうと思ってんのにビビって怒れんくなるだろうが!!!


ブーーーーーーーーーーーーーーーーー


おっと、いよいよ本編が上映されるようだ。しかし、上村先生の『パラレルワールド・ラプソディ』が実写化するとはな……。発売当初は映像化不可能とまで言われた作品だったのに。

やはり時代が進むにつれて、不可能も可能になってくるんもんなんだなぁ。って、何で俺ったらおじさんみたいなこと考えてんだ。まだまだピチピチの高校生だからね!


『……この図書館で、いつも君を見る。きっと君も、僕の存在に気付いているだろう。だけれども、お互いわかりあっているのに、知らないふり……』


お〜やっぱり出だしはこう来たか……。このシーンって、原作のラストを知っている人からしたら考えさせられるんだよなぁ。きっと菜奈さんもそう思っているに違いない。


ちらりと菜奈さんを見ると


「……」


ただ黙って観ることに没頭している。さすがカミムラー(上村先生のファンのことをいう)。俺も観ることに没頭しよう。


brrrrrrr……


「……?」


おっと不味い。劇場内で携帯の電源切らないといけないんだった! これはマナー違反だよな。切ろう切ろう。

しかし誰からのメールだろうか?


*******


From: 京歌


件名:この泥棒猫は危険です。


本文:映画が終わったら話があります。


*******


京歌おまえかい!!!


お前も堂々とマナー違反してんじゃねえよ! 兄妹そろってこの映画館出禁になっちまうぞ!?


はあ、全く……。


映画を観ながら、京歌が送って来た『菜奈さんが危険』ということについて、何故だろうとふと思った。まあどうせ、いつもの京歌の束縛心からの謳い文句だろうが……。


映画終わったらどうしようかと頭の隅で考えながら、俺は映画を観ることに集中した。


***


『君も僕も、もっと早く動いていればよかったんだ……。そうすれば、こんなことは起きずに済んだ……』


『そうね……だから私たちは、共犯者よ……』


『ーー人生とは選択の連続だ。最も良い選択をしていくことが大事なんだ。しかし、それがわかっていても、僕たちはそれが出来ずに歩み続けている。それが人間というものなのだろう』



終わったか……確かにとても良い映画だ。原作を忠実に再現しているところもあるが、ほんの少しだけ頂けない部分がある。俺の好きなシーンがまるまるカットされていた。というか、原作ファンからしたら大事なシーンだと思っていたところなだけに少し残念な気持ちがある。まあそれでも本当に素晴らしい映画だったけど。

俺みたいな原作厨の(さが)はこれだからいかんのだな……。

きっと菜奈さんも気づいているだろう。


「良いお話だったわ。原作通りだったわね」


「え?」


菜奈さんが俺に向かって言ってきた。あれ? 菜奈さんは気付いていないのかな? まあ、そういうこともあるか……。


「これからどうしましょうか? お茶でもする? ()()()()も一緒に」


なんだ、京歌もちゃんと自分が義妹だと言ったのか。アイツのことだから自分は俺の彼女だとか言うと思ったんだけどな。


「そうだね。京歌、お前はどうする?」


「……私は、いいです。帰ります」


「?」


珍しいな。いつもならヒョコヒョコついてくるもんなのに。俺の怒気を悟ったか!? なんてな。


すると京歌は俺の側まで来て言った。


「兄さん……帰ったら話があります」


「え? ……ああ、わかった」


いつもの京歌ならば、嫉妬の念のこもった目をして言ってくるものだが、今日は違った。

真剣味を帯びた、そんな目だった。京歌と菜奈さんの間で何かあったのだろうか?


***


「義妹さん、帰っちゃったわね。もう少しお話がしたかったのだけれど……」


映画館から出て、俺と菜奈さんは新宿御苑の近くまで来ていた。映画館からほど近い距離にあったので、何となくここまで歩いて来た。


「なんか用事でもあるんじゃないかな? それよりも、これからどうする?」


「そうね……あそこにカフェがあるから、あそこに入りましょう」


菜奈さんが指差したのは、チェーンのカフェだった。


「いいね、そうしようか」


菜奈さんも上村先生の作品について語りたいって言ってたしな。ちょうどいいだろう。


俺と菜奈さんはそれぞれコーヒーや軽食を注文し、受け取ってから二人がけのテーブルに座った。普通新宿にあるチェーン店なんてどこも混んでいるものだろうに、今日は俺と菜奈さんしか店内にはいなかった。


「いや〜でも今日の映画よかったね! 菜奈さん、誘ってくれてありがとうね」


「ふふ、そうね。こちらこそありがとう九郎くん。あなたと観れてよかったわ」


そう言って微笑む菜奈さん。彼女は笑顔が本当に美しいと思う。

これで趣味が同じというのだから幸運だなと常々感じる。


さて、まずは上村先生のどの作品が一番好きか聞こうーー


「ところで、九郎くんは普段は何をしているのかしら?」


「え? 普段? 普段かぁ……」


普段何をしているかと聞かれれば、小説読んだりアニメ見たり……本当にそれくらいじゃないか? あとは京歌に追いかけられたり……ロクな事してねえな!


「まあ、本読むことぐらいしかないかな?」


「そう……彼女もいないのよね?」


「そ、そりゃいないけど……」


「それじゃあ、好きな女の子のタイプは?」


「好きなタイプ!?」


俺に関する質問多くない?


「や、優しい子、かな?」


「そう。私って、優しい?」


「優しいと思いますが……」


「……」


「……」


この沈黙は何だ?

しかし、何故だか嫌な予感がする。長年不幸に見舞われた、培った勘が警戒音を鳴らしている。


「な、菜奈さん? 話題変えない? ほら、そろそろ上村先生のことでも……」


「嫌よ」


「へ?」


自分でもだいぶアホみたいな声が出たと思う。

すると菜奈さんは「だって……」と言葉を紡いでーー


「あなたのこと、もっと知りたいのだもの」


恍惚とした表情で、とろけるような熱い視線を俺に向けてきた。


この現象を何というかーーーー病み付き化だ。


間違いない……菜奈さんは、俺に対して病み付きになってしまっている。


***



『藤崎さん? あなたは九郎くんの義理の妹さんでしょう? 私が知らないとでも思った? 悪いけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、全部知っているわよ? 全部、全部ね?」


あの女……侮れません。

まさか私の秘密まで知っているとは思いませんでした。

そして何処と無く、私と同じニオイがしました……。


私もまだまだ、詰めが甘いということですか……。


兄さん、安心してください。


私が守ってみせますから……。






映画のモデルはありますが、九郎くんの指摘などは全く関係ありません!笑

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