委員長と義妹(京歌)の邂逅。
新宿ハルト8という映画館に着いた。
中の装飾は片田舎の映画館とは違ってやはり豪奢な雰囲気が漂っている。上村秀樹先生原作の映画、「パラレルワールドラプソディー」の公開初日ともあって、人が多い。そして、館内にいる男女は誰も彼もザ・シティーボーイシティーガールといった、都会に相応しいカップルがチラホラ見える。
俺の思い込み過ぎかも知れないが、ちょっと田舎モン感が出ちゃってるな俺……。
しかし、委員長……じゃなくて、菜奈さんは全く引けを取らず、寧ろまるで芸能人のようなオーラを纏っている……気がする。
ここに辿り着くまでに何人もの道ゆく人に二度見されていたし、終いにゃ「え、何あの子超可愛い! 隣の男の子は彼氏かな?」「いや、ただの付き人じゃね?」とか言われる始末……。っておい! 付き人ってなんだ付き人って!!!
「すみません、二人分前売り券があるのですが」
「はい、お席はどちらにしましょうか! (うわ! この人めっちゃ美人! 芸能人かな!?)」
「そうね……」
菜奈さんはというと、前売り券を持って受付にて席を取ってくれている。男の俺、甲斐性ねええ……。
このままでは男が廃る。よし、上演前にポップコーンとか飲み物買っておくか!
しかし、こっちの列もスゴイ人集りだな。三往復ぐらい並んでるよおい……。
「九郎くん、真ん中の列でよかったかしら?」
チケット引き換えが終わったのか、菜奈さんが小走りでやってきた。
「ああ、真ん中の列が一番ちょうどいいよね」
「ならよかったわ。何か買うの?」
「うん、上演前にポップコーンとか買おうかなって」
すると、菜奈さんの表情が一変した。
「九郎くん、ポップコーンは何味にしようと思っているの?」
キリッとした顔で問い詰めてくる。急にどうした!?
「え、いや、普通に塩味とか……」
「キャラメル味」
「へ?」
「キャラメル味がいいわ。九郎くんは食べたことないのかしら?」
ポップコーン自体あまり食べないのだが……。塩味以外と言ったら、子供の頃ディズニャーランドにいった時にチョコ味食べたぐらいか?
「キャラメル味がいいの?」
「キャラメル味でないと私、一生後悔すると思うわ」
そんなに!? キャラメル味に命懸けてんじゃんもはや!!!
まさか菜奈さんがここまでポップコーン奉行だったとは……。
「わ、わかった。キャラメル味買っておくから、菜奈さんは先に行ってて?」
「ホッ……そ、それじゃあ、お願いするわ。お金はあとでいいかしら?」
あからさまにホッとしてるな……。
「ああ、お金はいいよ。俺の奢り。それと、チケットの代金渡すね」
俺はあらかじめポケットに忍ばせておいた、チケット分の代金を菜奈さんに手渡す。
「……それじゃあこれは私の奢り。これでフェアでしょう?」
ニコッと微笑みを投げてくる。思わずドキッときてしまった。周囲からも、どこからか『尊い……』『おっふ!』と聞こえてきた気がする。
「ま、まじか。ありがとう!」
「い、いや、いいのよ! 私がしたかったことだし……。そ、それじゃあ先に行ってるわね!」
やや毛恥ずかしそうに先に劇場に向かって行った。
いやしかし……かわええぇ。
今日はなんか景色が色ずいて見える。なんだか本当にデートみたいだ。一生の思い出になりそう。
***
真ん中の列の中央。やっぱりここが映画を観るには最適だわ。矢見月くん……九郎くんもそう言ってくれたし。
「隣、失礼します」
私が席についていると、隣に可愛らしい女子高生ぐらいの女の子が座ってきた。
お淑やかな雰囲気のある、黒髪の女の子。九郎くんはどんな女の子が好みなのだろう……。べ、別に、九郎くんを異性として好きというわけではない、けれど……。
「すみません」
「……え? 私?」
不意に、隣の女の子が声をかけてきた。一体なんだろう? それにどことなく、まるで親の仇かの如く睨んできているような気もする。
しかし、どこか企んだ表情から一変、いじらしい微笑みでーー
「私、藤崎 京歌と申します。九郎くんの婚約者です!」
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