委員長と映画デート(?)
誤字報告してくださった方、ありがとうございます!
prrrrrrrrr……
『はい、寄木です』
「あ、もしもし、菜奈さんの友達の矢見月と申します。菜奈さんはご在宅でしょうか?」
柄にもない敬語を懇切丁寧に連ねる。
やはり寄木の家に直接電話をするなんて憚られるものだ。
ってか、今の時代スマホ持ち歩いてない女子高生なんているんだな!
本当なら今日学校で寄木さんと話しておきたかったけど、いつの間にかいなくなってたんだよなぁ。あの人休み時間中は大抵どっか行ってるし、帰りの学活が終わった後もすぐいなくなる。まあ土曜日だし委員長の仕事もないしね。
『あら、そうなの……娘とはどういうご関係で? あ、ちょっと主人が代われと言っているので代わりますね』
!?
「いやいや! 全くやましい関係ではないです! ただの! ただの友達ですから! なんなら友達というかクラスメイトぐらいの関係で……!」
『ぷっ……! 冗談よ。私よ矢見月くん』
「へ……? え、じゃあ菜奈さん……でしょうか」
『そうよ。堅っ苦しい敬語もやめてちょうだい。映画のことで電話してきたのでしょう?』
心臓がまだバクバクいってるんだが……。流石に立ち悪いぞ! いきなりお父さんご登場は勘弁だ。
にしても、寄木もこんな冗談みたいなことするんだな。学校じゃずっと本読んでて、他の女子から話しかけられても澄ました感じだから、なんだか新鮮だ。
「ああ、いつ行くのかなって。なんならチケットだけでも取っておこうかなと」
『その心配ならいらないわ。前売券を買ってあるもの』
「え! まじで!」
用意周到な寄木さんに感服ですはい。しかし俺の分まで買っておいてもらったとは……当日ちゃんとお金払うこと忘れないようにしないと。
『明日にでもどう? どうせなら公開初日に観にいきたいわ』
「委員長が良いならそれで良いよ! 何時にしようか?」
『9時に新宿駅東口の改札で待ち合わせでお願い』
9時って、完全に初日の一番最初の回じゃん……委員長気合入ってるな。
「オーケー。それじゃ、また明日」
『ええ……楽しみにしてるわ』
ピッ
それにしても明日か……。
女の子と映画に行くなんて、純恋以外とは初めてだ。何着てこうかな? やっぱり明日って昼食もするのかな?
う〜む……
「兄さん」
不意に、背筋が凍った。
まずい。うちには地雷が歩いてるんだった。
「きょ、京歌さんじゃないっすか〜……。いかがなさいまして?」
振り向くと、京歌がいかにも怒ってますという雰囲気を漂わせながら立っていた。
黒い! 瞳が黒いよ京香さん!!!
「下手な敬語はやめてください。あの泥棒猫との会話を思い出してイライラします」
電話の話聞いてたのかよ!?
てかいつから俺の部屋に入って来てたんだ!?
「ど、泥棒猫とか言うなよ、失礼だろ? 俺が話した女の子をみんな泥棒猫呼ばわりするな。お前、俺が京子さんと話しても泥棒猫って言うのか?」
確かに義母さんである京子さんは、京歌の母親ともあって美人だが。
「お母さんが兄さんに対して色目を使えば、そうなりますね」
「親子で奪い合われるってすごいな!? いや絶対ないけど!!」
親父から寝取ろうなんて気色悪いわ!
「兄さん。話を逸らさないでください。委員長さんと明日出かけるんですね?」
「……おう」
「そうですか……楽しんで来てくださいね!」
ニコリと笑ってそういった。
あれ? てっきり私もついていくと駄々こねるものだと思っていたのだが……。
「お、おう。ありがとな」
「……」
***
次の日の朝。
今日はいつもよりも服装に気を遣って来た。自分にファッションセンスがあるとは思えないが、それでも幾分か普段よりもマシなはず。
新宿までは家から電車で三十分もあれば着く。やはり普段は来ない都心ともあって、人混みにうんざりして来てしまうものだ。一応十分前には着いておいた。
改札をジッと見つめ、委員長はまだかまだか待つこと五分。
「あれか……?」
真っ白な長い丈の服装の女性……あれが委員長だろう。学校では黒タイツをしていて、全体的に黒のイメージが強かったため、だいぶ印象が違う。服装だけでも人間、印象変わるものだな。
「委員長〜」
キョロキョロと俺がいないか身振りしていたので、小走りをしながら声をかける。
「あら、矢見月くん早いのね」
小さく笑みをする委員長。なんだか、話し始めてから笑顔が増えた気がする。
「いや、普段こんなところ来ないからさ。遅刻したらまずいなって」
「ふふ、私もよ。考えることが一緒ね」
学校じゃあまり笑わないから、こうも連続で微笑まれるとなんだかむず痒くなって来る。やっぱ美人だなー。
「それじゃあ、行きましょうか」
「オーケー! 行こう」
新宿駅を出て、俺たちは映画館へと向かった。
……この時、俺はもっと自分の背後に警戒をしておくべきだった。
「ギリギリギリ……あの泥棒猫ぉ!!!」
俺が出かけるとあって、京歌がついて来ないはずがないのだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




