義妹と幼馴染と親友……と、委員長。
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土曜日。
俺の通う二手街高等学校は私立高校のため、当然のように授業がある。
進学校ということもあり、先生も無駄にキビキビしていて、正直かったるい。
「どうしたよ九郎? 相変わらず義妹さんのことでご苦労さんってか?」
「いちいち九郎と苦労で掛け合わせてくるな。……まあご察しの通りだよ」
俺が学校に着くなりため息をついていると、ニヤニヤしながら駆け寄ってきたのは浦野裏 秀だ。
顔はなかなかにイケメンであるのだが、歯に衣着せぬ素行が仇となり、残念イケメンの称号を手にしてしまった憐れな男である。
高校入学から友達になり、今では良き相談相手でもある。
「それで? 今日は何があったん?」
「それがよ……」
***
「んじゃ行ってくるわ〜」
「おう、頑張ってこい」
「気をつけて行ってらっしゃい九郎くん」
「はい! 行ってきます」
父の八郎と、そして去年から俺の義母となった恭子さんに挨拶を済ませ、玄関に行く。
するとそこには
「それじゃあ兄さん、行きましょうか」
さも当然と言わんばかりに、京歌が待っていた。これはもう高校に入ってからの恒例行事になってしまっているので、特にもう気にすることはない。というか、もう諦めた。
しかし、今日は土曜日。
俺の高校は土曜日でも学校はあるが、京歌の通う女子校は授業はないはず。
それ故に、俺の中で土曜日というものは自由の日という認識があるのだ。
「……お前、今日学校あんの?」
「ないですよ」
ニッコリと笑って、そう言う。
「笑顔で誤魔化すな笑顔で! じゃあ何で付いて来ようとしてんだよ!?」
「いえ、だってーー」
京歌が玄関のドアを開く。するとそこにはーーーー
「!? きゅ、九ちゃんおっは〜……」
幼馴染の木葉 純恋が家の前にいた。
純恋は幼稚園の頃からの仲で、高校も同じ二手街高校だ。
地毛だと言う赤毛はミディアムショートにウェーブがかかっていて、視力が悪いため以前はメガネをかけていたが、今ではコンタクトに変えているため明るい表情が特徴的だ。ぶっちゃけ昔の純恋を知らなかったらちょっとギャルっぽく見えていたかも。
「……兄さん、堂々と逢引すれば良いと思いましたか?」
「何だよ堂々と逢引って!? たまたまだろたまたま!」
「いえ、あの女は家の前で約12分間ほど立ち止まってソワソワしておりましたよ」
「お前はSEC○Mか!」
かたや純恋といえば「あわわ……」とキョドついていて、黙って俺と京歌の会話を聞いている。
「とにかく、お前は今日ぐらい家でじっとしてろ!! たまには義母さんの手伝いでもしたらどうだ?」
「私は毎日お母さんのお手伝いぐらいしています。自分で出来ることはちゃんと自分でこなしています。……他に何か?」
「うっ……!」
「兄さんは学校で何しているかわからないんですから、普段からしっかりと私が管理しておかないといつ犯罪に巻き込まれるかわかりません」
学校で犯罪に巻き込まれるって何だよ! テロリストが学校包囲とかしてくるってか!?
そんなんラノベだけだっつーの!!!
だがしかし、今日ぐらいゆっくりしたい。
「あ、あのさ!」
「「?」」
声をあげたのは、先ほどから黙りこくっていた純恋だった。
「そろそろ時間もやばいし……。それに京歌ちゃんも、あんまりお兄さんを困らせちゃダメだよ? そんなことしてると……嫌われちゃうよ?」
「!!!???」
「は、はぁ? まあ確かに困っちゃいるが……」
「に、兄さん!!」
「おう?」
京歌が血相を変えて俺の肩に掴みかかる。表情を見るなり、だいぶ焦っている。
「わ、私のこと、嫌いになっちゃいましたか!? 嫌です嫌です嫌われたくないです。兄さん私のこと嫌ったりしませんよね!? よねえ!?!?」
「あ、う、うん……」
なるほど、純恋もなかなかやるな。
俺に嫌われたら困るであろうことを利用して、まんまと京歌を釣ったわけだ。
「じゃあ、今日は留守番してるか? 大人しくしてるか?」
「……します。不本意ですが……」
「良い子だ」
頭を撫でておく。こうしておけば京歌は大体大人しくなってくれる。
「……ずるいです、九郎くんは」
ふてくされつつも、何とか納得してくれたようだ。
帰りに何かスイーツでも買って帰ってやろうと決め、俺は純恋と共に学校へ行く。
「兄さーん!! 泥棒猫には気をつけてー!! すぐ隣にいますよー!!!」
「……うるさいやつだ」
「あはは……。まあ良いじゃない。かわいい義妹さんで」
「かわいいだけなら良いんだよ全然。いかんせん性格に難有りだからなぁ」
「じゃあ私は?」
俺の前に回り込み、上目遣いをする。こうして見ると、純恋も大人になったなと感じる。
子供の頃から一緒にいるからあまり気にしてこなかったけれど。
そういや、純恋のこと好きだってやつも多いらしいしな。
「まあお前は……バランスいいんじゃね?」
「な!? 何よバランス良いって……。まるで特徴ないみたいじゃない……」
「バランスは大事だぞ? 性格も体格も」
「〜〜〜〜!! バカァ! この! この!」
「やめ!? カバンで叩いてくるな!?」
「何をイチャついてんですかぁぁぁああああ!?!?」
「「!?!?」」
***
まさか、というより、やはり京歌がストーキングしていたので、それから純恋とともに全速力で逃げた。
追いつかれるよりも先に学校に着いたから良いものの、スマホに『兄さん、あとで覚えておいてくださいね』とメッセージが入っていた。
そのおかげで朝からヘトヘトだ。
授業が3限で終わるとは言え、まともに受ける気にならん。
「九郎も本当に苦労人だねぇ」
「いちいち苦労ネタやめろ。全然面白くないからな」
「それよりも、委員長ちゃんと映画行くってマジ?」
「ああ、マジだよ。……正直、俺もビックリしてる」
うちのクラスには寄木 菜奈という委員長がいる。
クール系美少女という印象が強く、周りからは一歩引かれてしまっている。がしかし、
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何気なく俺の好きな上村 秀樹という作家のミステリー小説の最新刊を休み時間に読んでいると、
「や、矢見月くん、まさかあなたも上村先生の作品が好きなの……?」
突然声を掛けられたかと思えば、委員長が俺の背後に立ち、さも驚いた表情をしていた。
「ああ、そうだよ。中坊の時にハマったんだけど、それからずっと追いかけてる」
「私と同じじゃない……。ねえ、今度その小説のシリーズが映画化されるって知ってる?」
俺の持っている小説を指差しながら言ってきた。
「もちろん、見に行くつもりだ。委員長もか?」
「当然よ。まさか同い年で上村先生の良さがわかる人がいるなんて……。ねえ、よかったら一緒に映画を観に行かないかしら?」
急な映画のお誘いにビックリして、キョドってしまう。これじゃあ俺が女に免疫ないみたいじゃないか! いやあんまりないけど!
「い、いいけど。俺なんかと一緒でいいの?」
「上村先生の作品について語り合いたいわ。ダメかしら?」
確かに、共通の趣味を語り合うなんてこと今まで一度もしたことないからな……。
「いいよ!」
「決まりね。はい、これ私の連絡先。携帯は持ち歩いていないから、家に電話かけてちょうだい」
「お、おう……」
女子の家の電話にかけるってなかなかハードル高いんだが……。
これが俺と委員長の初めての会話だった。
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「すげえなあ九郎くんは。もうモテモテじゃん! 妹ちゃんといい、純恋ちゃんといい、委員長ちゃんといい。さてはお前、ラノベの主人公だな?」
「なんだよラノベの主人公って……。別にモテてねーよ。今まで彼女だっていた事ないし、告白もされたこともない」
「ふっふっふ……甘いな九郎よ。ラノベの主人公とは古くから高校生になってから急にモテ出すという謎の世界の理があるんだぞ?」
秀はさも悟りを開いた偉人かのような表情で、ドヤ顔をかます。
「何言ってんだよ……。にしても、帰ったらまた京歌にドヤされんのか〜……」
「……はあ、お前そんなに京歌ちゃんのこと苦手なん?」
「まああの性格だからな……。苦手意識を持たない方がおかしい」
「そうかねー……? いいじゃん一途で。俺は良い子だと思うよ? キッカケは何だかは知らないけど、あんだけお前に尽くしてるんだからさ。あんまり突き放してやるなよ」
秀はどこか思いつめるような顔で、天井を見上げる。
時折見せるその表情に、俺は毎回、過去に何かあったんだろうな? と憶測している。
しかし、それを聞くのは今日ではない。
もっと場所とタイミングをみて、話を聞きたいものだ。
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1. 病み疲れ風来坊
なあ、クラスの女子と一緒に映画に行くのってデートじゃないよな?
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2.黒猫
相手の認識にもよるけれど、世間一般的にはデートだよ。
前のスレも見たけど、妹さんには要注意だね。当日についてくるかもよ。
一週間に3話更新……目指す!