九郎の人生は、やはり苦労するものらしい。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
俺の名前は矢見月九郎。
九郎なんて縁起の悪い名前だと思われただろう。うん、俺もそう思う。
しかしながら、我が家は代々名前に数字が入るのがジンクスとなっているのであり、父の名前は八郎だ。父も祖父からその名を貰った時はひどく恨んだようだが、今となってはハチ公とされるよりは幾分マシだと言っている。
自分としてはハチ公はなかなかに栄誉ある名だなと思うので、悪くはないと思うのだが……。
と、そんなことより。
自分はこの名はとても嫌な名前だと感じている。さらにこの名字も。
矢見月は、漢字的にはかっこ良く見えるかもしれない。しかし、やみつき、だ。病み付きだ。
病み付き苦労。この名は本当にその名の通り、俺の人生に大きく影響していると思う。
何故なら……。
「あれ? 兄さん、何してるんですか? ネットなんか見ちゃって。そんなのよりも、バームクーヘン作ったので一緒に食べませんか? ……私の部屋で」
部屋に突然入ってきたのは、俺の義妹の矢見月 京歌。旧姓、藤崎京歌。
現在、俺も京歌も高校二年生なのだが、高校入学前はお互い他人だった。
高校入学前の京歌は俺のストーカーだったーーーー。
***
「ふわぁぁ〜……。今日は清々しい朝だな! よし、走って学校にでも行くか!!!」
俺は家を出るなり、全速力で学校を目指した。
振り返ってはならない。振り返ってしまえば、面倒なことになってしまうからだ。
ーー今日はどうだ!? 撒いたか!?
「…………!!」
はい!! ちゃんと追いかけてきてます! もはやストーキングじゃないです! ハイエナに追いかけられたシマウマ状態です!!
「はぁ……! はぁ……! やべ……息上がってきた……」
とりあえず角で曲がって歩こう。出なきゃこっちの体力が持たん。
しかしその時。
プップぅぅぅぅぅう!!!
トラックだぁぁぁぁぁあああ!!!
やばい、止まってもギリ轢かれてしまう。
さよなら俺の人生。待ってろ異世界転生……!
こうして俺の人生は幕を閉じたーー……。
かに思えた!!
気づけば俺は轢かれておらず、トラックの兄ちゃんが「気をつけろクソガキ!!」と行って去って行ったのを眺めていた。
あれ? なんで?
すると、背中が妙に暖かい。そして俺は背後から抱かれていることに気がつく。
「大丈夫ですか? 危なかったですね。私がたまたま通りがかっていなかったら大変なことになってましたよ……」
ま、まさか……!
「初めまして。私は藤崎京歌と申します。実は私……ずっと前からあなたのこと知ってましたよ?」
いつものストーカー女!!
ってか、たまたま通りがかったって、いつも後ろからつけてきてんだろうが! なんなら今日は追いかけてきたまである!
「それにしても……あのトラックの男の態度は気に入りませんねぇ……。人を……ましてや私の九郎くんが轢かれそうになったのにも関わらず……」
あのー……黒いオーラが出てらっしゃいますよ? 明日にはあの兄ちゃんがこの世からいなくなってるとかありませんよね? ねえ!?
「あ、えと、助けてくれてサンキューな……。は、初めまして?」
「はい!初めましてです!!」
あんだけ派手にストーキングしといて初めましてを通すか……?
しかし、これまでしっかり見ていなかったら気がつかなかったけれど、よく見ると美人だなぁ。
艶やかな長い黒髪に、艶かしいぷるんとした唇。パッチリとした大きな目とは対照的に、小さく整った顔。芸能人と遭遇すればこんな感じなのではないだろうか?
これまでストーカー女として認識してきたから気軽に話せるものの、いざ初対面でこんな美人と会話をすればこうはいかない。なんたって僕、ウブだからね!
「その制服……近所の女子校か? 私立の」
「はい! 九郎くんはすぐそこの区立中学ですよね?」
「お、おう……」
もう普通に名乗ってもない俺の名前で呼んでるんだけど、もうこの際気にしなくていいや……疲れた。
「それじゃあ私は逆方向なので」
逆方向だったの!?
わざわざ逆走してたってこと!?
「お先お暇します! それでは……また」
「はい、さよなら……」
また、ってのが気になるが……まあいいや、疲れたし(二回目)
その後、学校が終わった後でも偶然(笑)京歌と出会い、一緒に帰ったりしていた。
まあ別にストーカーの件を除けば悪い子じゃないし、別に友達としてなら全然ありだなと感じていた。
だがしかし、ある日こんなことがあった。
「でさぁ、先生ただでさえタコみたいなのに怒った時ゆでダコみたいでおもしろ……」
「ねえ九郎くん」
「ん? どうした急に。さっきから表情が暗いけど」
「九郎くん、今日の朝校門から一緒に歩いていた女の子いましたよね? 誰ですか?」
「ああ、純恋のことか? 幼馴染だよ。子供の頃からの仲でさ」
「ふうん? 幼馴染、ですか……」
「お、おう……?」
この時、俺は甘かった。彼女がストーカーであるということを完全に忘れていた。
ストーカーなんてするぐらいだ。俺に対して独占欲というものがない訳が無い。
京歌は急に俺に迫り、道路の脇に追いやる。そして肩を鷲掴みにされ、身動きを取れなくされた。
「え!? なに!?」
「私がいるのになんであんな女と楽しそうに歩いてるんです? 学校の前から眺めているこっちからしたら、まるで見せつけられているように見えました……! どうせ私がいない間にあの女とイチャイチャしているんでしょう? 私というものがありながら!! ……ひょっとして、あの女と付き合っていたりしませんよね? もしそうなら私……」
ーーーー何するかわかりませんよ?
…………この日から俺の生活は、京歌の管理下に置かれ、それはそれは窮屈なものとなった。
京歌は……病んでいる。俺に病み付きになっている。
そんな暮らしが続いたが、受験の際はとても助かった。
俺は正直、頭があまり良くない。いや、よくなかった。
学校が終わった後、二人で図書館に行き、夕方くらいまで一緒に勉強をした。その際、俺の勉強の仕方が間違っていると指摘し、改善したおかげで、当初希望していた高校の偏差値10ほど高い進学校に入学することが出来た。
ちなみに、京歌は内部進学らしいので、時間的に余裕があったそうだ。
てっきり同じ高校にされるものかと思ったが、そこまで縛るつもりはないらしい。
と、思ったのだが……。
「父さんな、この人と再婚することになったんだ」
「……」
「そして、お前にもとうとう、妹ができることになったぞ! お前、昔から妹欲しいって言ってたもんな!」
「……」
「よろしくお願いします……兄さん」
京歌かよぉぉぉぉおお!!!
こうして俺と京歌は、兄妹となった。
***
親族になればこれまでとは違ってベタベタしなくなると思ったが、家族の目を掻い潜った途端に、スキンシップが激しくなるという厄介なものになってしまった。
「バームクーヘン、好きでしたよね? ささ、食べましょう? 私の部屋で」
「ああ、ありがとう。食べるよ、自分の部屋で」
「……来ますよね? 来てください」
「……はい」
これを断ったら後が面倒だ。仕方がない。
妹の部屋は整理整頓してあり、まるでニ○リのインテリアコーナーのようだ。
しかし本棚の方を見てみると……なにやら怪しいタイトルのアルバムがある。
『2017年 4月〜8月 九郎くん』
『2017年 9月〜12月 九郎くん』
『2018年 1月〜 九郎くん』←NEW!
うん……見なかったことにしよう……そのほうがいい。
「いやあそれにしても、どうです? 最近の学校は?」
「どうもこうも、いつも通りだよ」
京歌の作ったバームクーヘンに紅茶。これは例えヤンデレる危険性があっても食したい絶品なのだ。
「いつも通り、ですか……?」
「へ……?」
あら、これはまたまた何か俺はやらかしたのだろうか?
はて? 何かしただろうか……あ!!!
「委員長さんとまた、どこか遊びに行く約束していましたよねぇ? へぇ? どこ行くんですぅ?」
京歌の表情は笑顔なものの、当然目は笑っていない。ハイライト? というやつが消えている。
「ま、まあちょっと、映画にな? お互い好きな作家の小説が映画化したからさ……。ただの友達だからな! そこは理解しておいてくれ! な!?」
諭すように言うと、京歌はジーッと俺を見つめ、一応はそのまま普通へと戻った。まあふてくされているのだが。
「まあ……、友達付き合いは大切ですものね。でも、あの泥棒猫はそうは思っていないでしょうけど……」
後半はボソリと呟くように言っていたので分からなかったが、了承してくれたようだ。
なんで義妹の了承を得なければならないのかわからんが……。
「兄さん」
「どうした?」
「結婚しましょう」
「なんだ急に!?」
「このままでは兄さんがハイエナどもにいつしか食べられてしまいます! その前に先手を……!」
「何考えてんだお前はぁ!?」
「ぎゃんっ!?」
俺は自分が座っていた座布団を京歌に投げつける。もちろん優しく。
「バームクーヘンサンキューな! 俺は部屋に戻るからな!」
「ふへへ……この座布団、兄さんの匂いが……」
「……」
こりゃ重症だ……。
放っておいて部屋でネットサーフィンに興じるとしよう。
部屋に戻って、3ちゃんねるを立ち上げる。
そして俺はこう書き込んだ。
1:病み疲れ風来坊:2019/05/10(金) 21:25
Q.ヤンデレストーカー女が義妹になったんだけど、どうすればいい? 教えて凄い人!
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21:ただの只人:2019/05/11(土) 0:12
A.結婚しましょう! 兄さん! とか言われんじゃね? そのうち。
まあ頑張れ主よ。幸運を祈ってる。
表現などが下手で泣きそうです……。
ご意見ご指摘などがありましたら、是非感想を。