表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

第5話 barrage

 無数の敵ウォーカーが、群をなして向かってくる。


 一瞬前まで、この砂漠で繰り広げられていた戦争。

 回収屋のカイルが、敵の目的である遺物を奪還したことで、その戦況は豹変した。


 敵たちは、交戦中だった目の前の相手すらも無視し、一直線にカイルの方へ駆けてくる。当然、無防備な背後から次々に撃破されていた。

 だが、激流の如く突進する敵軍は、止まる気配を見せない。




 ――なんて諦めの悪い奴らだ。

 ここまで切り抜けてきたカイルも、この状況には参っていた。

 しかし同時に、自分の見つけた遺物が相当重要なロストテクノロジーを秘めているらしいとわかり、血が騒いでもいた。ここまで来て、奪われるわけにはいかない。

 自機の操縦桿を、固く握り締めた。




 そのとき、辺りに女性の声が響く。

「そこの民間機のあなた!」

 ウォーカー機内のカイルが、普通に聞き取れるほどの大音量。

 ゼルク小隊のフィオナが、機体のスピーカーを通して話しているのだ。めったに使われない機能だが、無線が通じない状況や相手に用いられる。


 急いでその場を離れようとしていたカイルは、立ち止まった。フィオナが言う。

「その遺物を渡して」

「なんでだよ? おれはこれを持ち帰らないと」

「わたしが持ってた方が、まだ安全よ。それに、回収屋の雇い主はわたしたちなんだから、今渡しても同じことでしょ?」

 確かに元はと言えば、カイルたち回収屋は、〈統一戦線〉と呼ばれる軍隊に雇われていたのだった。


「それもそうか。報酬はしっかり頼むぜ」

 カイルは、片手に機関砲を持つフィオナ機に、円柱状の遺物を渡した。

「そういうこと。わかったら早く逃げて」


 ところが、カイルはその忠告を拒んだ。

「それは無理。こっちはその遺物に生活かかってるんだ。あんた一人に任せて、奪われたら困る」


「民間機がどうするっていうの? ほら危ないから――」

 と、食い下がるフィオナを制止して、カイルが言う。

「それに……あいつらが逃がしてくれると思うか?」


 カイルの視線の先では、敵がいよいよカイルたちに迫っていた。

 近づいてくる地響き。途切れることのない銃声。

 カイルたちが射程に入るのも、時間の問題だった。狙撃されればひとたまりもない。


 敵との距離を測りながら、フィオナが言う。

「仕方ないわ。遺物を持ってるわたしには撃てないはずだから、後ろに――あれ?」


 気がつくと、カイルの姿が見えない。

 突然、フィオナの背後から声がした。

「もう隠れてる」

「うわっ! 驚かさないでよ」

「背後をとられて気づかないなんて、パイロットとしてどうなんだ」

「う、うるさい。そんなことより、敵が来るわよ」


 カイルに注意を払っていなかったとはいえ、フィオナだって腕利きのパイロットなのだ。瞬く間に背後をとったカイルの動きは、少なくともただの民間人のものではなかった。




 敵はもう間近に迫っていた。

 銃を使うのは諦めて、全機が高周波ナイフを抜いている。もちろん銃は恐ろしいが、こうして全員がナイフを構えていると、また違った不気味さがあった。


 敵軍勢の後方から、味方が攻撃しているはずだが、敵は気にするそぶりも見せていない。

 隣の味方が撃破されようとも、目もくれずに遺物を追っている。




「そろそろ移動しよう」

 と、フィオナ。ここは後退して、味方の援護を待つのが得策だ。この距離を保っていれば、遺物を守りながら一方的に攻撃できる。


「おう!」

 と、カイルが答えた。いよいよ反撃に転じるのだ。腰に提げたチェーンソーを確かめ、突撃に備えた。




 そして、二人は走り出した。全く正反対の方向へ――。

「ちょ、ちょっと! 何してるの?」

「えっ? 攻め込むんじゃなかったのか」

「そんなわけないでしょ! こっちには遺物があるんだから」

「よく言うだろ? 攻撃は最大の防御って」

「この状況で使う言葉じゃないから!」


 そう言う相手の声も、だんだん遠ざかっていった。

 だが、お互いもう後戻りはできない。今引き返せば、ただの的だ。




 前方の敵機が、次々にカイル機へ機関砲を向ける。

 大事な遺物から離れたカイルを撃つのに、ためらう理由はなかった。


 ――まずい!

 カイルは速度を落とさず、自機を仰向けに倒した。そのまま砂地をスライディング。

 機体が軋んで嫌な音を立てる。


 いくつもの銃声が重なり。

 無数の銃弾が、カイル機のわずか上をかすめていった。


 敵はもう目の前。

 こうなったら、自分が敵を引きつけて時間を稼ぐほかない。


 カイルは機体を立て直す。

 起き上がると同時に、チェーンソーを抜く。勢いを借りて、一気に斬りつけた。

 先頭の敵機が停止する。


 そのまま敵軍の内側に飛び込む。

 回転しながらチェーンソーを振り回す。

 周りの敵が、態勢を崩した。


 数では圧倒的に不利なカイルだが、一つだけ有利な点があった。

 それは、味方を気にせず武器を振り回せること。一方の敵は、密集しすぎて思うように動けない。


 カイルが敵のナイフをかがんで躱し。

 別の一撃はチェーンソーで弾く。

 振動するやいばが擦れ合う。激しい火花と金属音。

 後方の敵には、蹴りをお見舞いする。


 カイルはチェーンソーを振るい続け、敵を寄せ付けない。

 あくまでも遺物を追っている敵たちは、カイルに対して攻めあぐねているようだ。


 カイルが、倒した敵機から機関砲を拾い上げた。左手に構えて撃ちまくる。近づく敵は、チェーンソーで斬る。


 しかし、前方からも、相次いで敵機がやってくる。

 多勢に無勢。倒されるのも、時間の問題だった。





 一方のフィオナは、自陣方向へ移動を続けていた。

 敵は相変わらずフィオナだけを追っている。

 敵軍に飲み込まれた例の民間機が心配だが、今は自分の心配が先だ。不思議と、あの「民間人」がそう簡単にやられはしないと直感していた。


 走りながら何度も振り返り、右手に構えた機関砲を短く撃つ。


 そのとき、しばらく通信が途絶えていたサミュエル小隊長から、無線が入った。

「とんでもないことになってきたな。敵が邪魔だったが、今そちらに向かってる」

「了解。助かるわ」




 ほどなくして、ゼルク小隊の二機が、フィオナに合流した。

 擲弾兵のサミュエルと、狙撃手のエレーナ。この二人による火力増強は大きい。


 二人も攻撃を開始した。ロケット弾と大口径の銃弾が、確実に敵を仕留めていく。


 サミュエルが言う。

「いいかげん、けりをつけたいところだな」

「同感ね。敵の数も、かなり減ってきたわ」

 と、エレーナ。〈統一戦線〉の味方は、遺物に気を取られている敵たちを、大量に撃破していた。


「久々に、あれをやるか」

 と、サミュエル。

 二人には、それが何を意味するか、すぐにわかった。




 サミュエル機が敵の方を向いたまま、おもむろに片膝をつき、両拳を地面に突き立てた。

 事情を知らない人には、ダメージを受けて弱っているようにしか見えないだろう。


 その背中に、他の機体にはない、大きな直方体の装備が見える。

 直方体の蓋が開き、中からずらりと並んだ小型ミサイルが覗く。

 背中のそれは、大型のミサイルポッドだった。


 機内のサミュエルは、レーダーで捉えうる全ての敵機を、自動でロックオン。ロックされた敵を示す赤い照準が、コックピットの画面いっぱいに散らばる。


 その直後、ポッドからミサイルが発射された。

 無数のミサイルが乱舞し、幾筋もの白煙が弧を描く。

 やがて、それぞれのミサイルが、自らの目標を目指して、飛翔する。


 ミサイルは、次々に目標を襲う。小型ミサイルというだけあって、致命打にならないことも多い。しかし、敵にとって大損害であることは間違いなかった。


 不意を衝かれた敵に、味方が追撃を加える。

 エレーナは、なおも遺物に近づこうとする敵機を狙撃し、無力化していく。


 そのときカイルは、無数のミサイルが雨あられと降り注ぐのを、あっけにとられて見ていた。

 ミサイルはひとつひとつが誘導されているようで、カイル機には当たらない。




 もはや、勝敗は明らかだった。

 敵の残党が、急いで撤退していく。

 味方は追撃の手を緩めず、敵を確実に排除していた。




 静まりかえった砂漠。

 戦の跡には、そこかしこで黒煙が立ち上っていた。

 散らばる残骸に、風が吹きつける。


 味方は比較的多くが生き残り、早々と帰投していく。


 遺物を守りきったフィオナは、ふと思い出して、あの民間機の姿を探す。


 ――いた!

 こちらへ来る作業用ウォーカー。ところどころ損傷が目立つが、普通に歩いている。


 フィオナは、再びスピーカーで話しかける。

「生きてたのね」

「おかげさまで、な」

「とりあえず、基地まで来てもらえる?」

「わかった。まだ報酬ももらってないからな」


 ゼルク小隊三機と、一機の作業用機は、連れ立って基地へと戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ