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第4話 engagement

 砂漠での戦闘から、時は少し遡って――。

 作業用機の限界速度で疾走するウォーカーの機内。


 カイルは憤りを隠せなかった。

〈ドレッドノート〉艦内で発見した遺物。大破してから百年以上経つはずの艦内で、それは明らかに異彩を放っていた。

 回収屋にとって、発見した遺物は自身の収入そのものだ。


 ――それを奴らは!

 遺物を奪って逃走する一機のウォーカーを追いつつ、カイルは歯噛みする。




 戦艦〈ドレッドノート〉を出た二機は、その残骸を取り囲む巨大なクレーターの底で、緑がかったガラス質の地面を走っていた。

 そして、クレーターのふちの隆起した部分に差しかかる。といっても、クレーターが巨大すぎて、もはや断崖に近かった。その高さは、人間の三倍近くあるウォーカーの機体が小さく見えるほどだ。


 はるか前方を行く敵機は、すでにその急斜面を登り始めていた。だが、その右腕部はカイルによって切断され、左腕には円柱状の遺物を抱えている。両手がふさがっているため、登るのに手間取っているようだ。


 カイル機も斜面にたどり着き、ウォーカーの手足を使って登り始める。徐々に距離が縮まってきた。

 時折、上を行く敵機の重みで砕けた、ガラス質の破片が降ってくる。




 やがて斜面の中腹に入り、いよいよ急勾配になってきた。

 敵機はカイルの目前に迫っていた。一層必死に脚を動かすその様子からは、焦りが感じられる。


 しかし、どうやって敵を止めたものか、カイルは悩んでいた。

 闇雲に引きずり落としては、あの遺物が壊れてしまうかもしれない。何より、あれがとんでもない危険物や爆発物という可能性だってある。ここにもう一つクレーターをつくるのだけは避けたい。


 結局、慎重に相手の動きを封じるしか方法はなかった。

 敵機の片脚をチェーンソーで斬ってやれば、動けなくなってあきらめるだろう。切断はできなくても、関節部を無力化できれば十分だ。


 カイル機は、腰に提げていたチェーンソーを取り出した。相手に悟られぬよう、慎重に構える。

 一気に身を乗り出し、斬りつけようとしたその刹那。

 敵の足場が崩れたのは、はたして偶然か――。

 支えを失った敵の機体が、落ちる。


 落ちてくる敵機に踏みつけられたカイル機は、うつ伏せに斜面を滑り落ちる。コックピット内が、すさまじい振動と轟音に揺さぶられる。

 とっさに、チェーンソーを地面に突き立てる。だが、ようやく止まったときには、かなりの距離を落ちてしまっていた。


 カイル機を踏み台にした敵機は、遠く上方で踏みとどまっている。


 カイルもすぐに体勢を立て直して追いかけるが、大きく差が開いていた。急坂ではカイルの方が早いものの、ついに敵機が先に斜面を登りきった。


 しばらくして、カイルもようやく登り終える。しかし、基本的に平坦な砂漠地帯では、追いつくことなど不可能に思われた。


 ところが、敵はそれほど遠くには行っていなかった。明らかに前より動きが鈍い。見ると、片膝から小さく火花が散っていた。

 さっき空振ったように見えたカイルのチェーンソーは、敵機の脚をかすめていたのだ。


 ――まだだ!

 カイルはそこに一縷いちるの望みを託し、必死に機体を走らせる。




 クレーターを出て砂漠に入ってから、どれくらい経っただろうか。二機はまだ走り続けていた。

 一向に距離は縮まらないが、カイルは諦めない。何やら左の方が騒がしいが、気にしない。


 このとき、まさか戦場に足を踏み入れているとは、思いもよらないカイルだった。


 再びチェーンソーを取り出し、考える。

 ――一か八か、これを投げつけるか?

 が、やはりリスクが大きすぎる。


 左の方から、突然一機の軍用ウォーカーが現れたのは、やけになったカイルがチェーンソーを振り回していたときだった。


 その機体が、走っていた二機の前に立ちはだかった。かなりの高速機で、機関砲を持っている。




 その機体の主、フィオナは瞬時に考える。


 円柱状の物体を抱えている方は間違いなく、フィオナたちが交戦している敵軍の機体だった。これは小隊員の味方が言った通り。

 しかも、ロストテクノロジーの遺物を持って逃走している可能性が高い。

 後ろの民間機も気になるが、敵機の対処が先だ。

 結論を出したフィオナは、走ってくる敵機に機関砲を向け、引き金を絞ろうとする。




 するとその瞬間、敵機は抱えている物体を正面に掲げるように持った。

 フィオナが撃てば、当然遺物に当たる。


 これでは撃てなかった。少なくとも今は。

 遺物を破壊することは、敵に持ち去られたときの最終手段として以外、許されない。


 敵機はスピードを落としたものの、歩みを止めずにフィオナの方へ向かってくる。


 フィオナは銃口を動かして、遺物に当たらずに撃てるよう狙う。しかし、敵はそれに合わせて遺物を動かし、正確に銃口をトレースする。


 敵機が、また一歩踏み出す。二機の距離が近づく。

 敵機に攻撃の手段はない。しかしフィオナも撃てない。

 フィオナが有利であることに変わりはないが、決定打に欠けていた。




 そんな状況に追い討ちをかけるように、小隊長のサミュエルから無線が入る。機速の遅いサミュエルとエレーナは、先行したフィオナを追っていたはずだ。

 いつになく緊迫した声が告げた。

「敵機が多数、そちらへ向かった! なんとか止めようとしてるが、見向きもされない」


 フィオナはコックピット内のレーダーを見て、愕然とした。敵機を示す無数の赤い輝点が、自機の方へ向かってくる。

 他の小隊からも、無線でフィオナたちへの警告が飛ぶ。

「ゼルク小隊、敵のほぼ全部隊がそちらへ向かっている! 何が起こったのかわからんが、とにかく持ちこたえろ」




 遺物を持つ敵機が、味方に救援を求めたのだろう。

 フィオナは、一刻も早く決着をつけなければならなくなった。

 レーダーの赤い輝点が近づいてくる。敵の上げる砂埃が、一列に連なってやってくる。


 目の前の敵機の様子は、相変わらずだ。円柱状の遺物を掲げ、悠然と歩いてくるようにさえ見える。すでに勝負はついた、とでも言うように。




 そのとき、突然敵機の動きが止まった。


 耳障りな騒音が、コックピット越しでもフィオナの耳に入る。

 戦場には似つかわしくないその音は、むしろ基地内の工場で耳にするような――。

 硬い金属を、工具で切削するような音だった。




 敵機の背後では、実際にその通りのことが行われていた。

 崩れ落ちた敵機の後ろには、チェーンソーを構えた例の民間機――カイルだ。


 遺物を横取りした敵をようやく仕留めて、カイルは満足げに円柱状の遺物を拾い上げた。

 ――ずいぶん遠くまで来ちまったな。

 そう思い、ここへ来て初めて周りを見回す。


 すると、周りではいくつも煙が上がり、銃声や爆発音が響いていた。知らぬ間に、戦場に飛び込んでいたようだ。


 しかも、カイルのイメージする戦争とは、だいぶ様子が違う。戦争は、二つの勢力が向かい合って闘うものだと思っていた。


 ――なんであいつらは、全員おれの方へ走ってくるんだ……?




 さらなる激戦の火蓋が、切られようとしている。

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