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073 VS姫咲高校 その11 決着

 春高予選もいよいよ最終局面。

 

 セットカウントは2-2

 

 第5セットのスコアは12-14で2点負けている。

 

 バレーボールのルールでは第5セットは他のセットとは違い、デュースを考えなければ先に15点取るだけでそのセットを取ったことになる。つまり今は、相手のマッチポイントというわけだ。

 この非常にしびれる場面でサーブは俺の番となる。思わず入れてくだけサーブを打ちたくなるが、それをやってしまうと結局こちらの失点につながるから出来ない。脳裏にインターハイ予選で最後に相手のサーブミスで俺達が勝った玉木商業戦が蘇る。

 

 

 ふぅぅぅう……




 落ち着け。こんな時のためのルーティーンだ。


 練習は本番と同じくらい真剣に、本番は練習と同じだと思って気楽に。

 

 深呼吸。そして笛が鳴る。

 

 2歩目でトスを……

 

 うげっ!トスが前に流れた。だがそれでも打たないわけにはいかない。前にボールが流れてしまったのでいつものように腕の力を十分に伝えられないサーブはネットの白帯にぶつかる……

 

 一瞬、本当にネットに阻まれ自爆点で試合終了かと思ったが、わずかに勢いが勝ってネットイン。

 

 これが奇襲となってそのままこっちの得点。

 

 13-14

 

 

「優ちゃん今のは心臓に悪すぎ……」

「陽菜。そう言ってやんなよ。ニンジャ、このプレッシャーの中、ナイスサーブだ」

「未来の言う通りだよね。私ならプレッシャーで吐いちゃうかも……」

「明日香。吐くならコート外でお願いね」

「うぅ。こっちも緊張してくる……」



 次のサーブまでのわずかな時間。チームメイトから声をかけられる。そうか。そうだよな。今俺は緊張しているのか?

 

 言われると……

 

 いやいや試合に集中だ。

 

 

 再びルーティーンに入り、呼吸を整える。2歩目でトス。今回はフローターサーブだ。いいコースに飛んで行った。相手はサーブレシーブを乱すが、第5セットから入ってきた1年セッターはこれを修正してくる。

 

 どこから打つ?相手エースは後衛だが、バックアタックも使ってくる。要警戒。セッターも前衛だからレフト、センターの2択もある。

 


 センターが突っ込んでくる。トスも上がるがスルー。これは――

 

 

 バックアタック!


 

 

 相手エースの強烈なバックアタックが飛んでくるが何とか俺がレシーブ。

 

 ……強烈だったんだからAパスで返球できなくても俺が悪いわけではない。

 

「カバー!陽菜!」

 

 上がったボールに対し、カバー人員として陽菜を指定する明日香。


「優ちゃんやり返せ!」


 陽菜はアタックラインより少し前にオープントスをあげてくる。指名があったということはそういうことだ。ボールの位置と高さから助走は3歩。狙う場所はジャンプしてから決める。

 

 

「!バックアタック!速いのが来るよ!」


 姫咲のコートは前衛も含め全員がレシーブの体制に入る。だがしかし、そうは問屋が卸さない。相手が守備態勢をとってようが問答無用で決めてやる。

 

 

 渾身のスパイクは反応こそされたが、相手に触らせることなく決まった。これで14-14。同点でデュースだ。勝つにはあと2点必要になっている。

 

 それは相手も同じでプレッシャーもかかっているはずだが、戦意は衰える様子を見せない。全く。最後まで楽をさせてくれないチームだ。


 このローテ3本目のサーブはあちらさんも待っているであろうスパイクサーブ。いいところに飛んでったが、相手にレシーブされる。が、この軌道は直接こっちに戻ってくるパターンだな。

 

「チャンボ!」(※チャンスボールの略)


 明日香が言うが、これはきれいにスリータッチで返す必要もない。


 返ってくるボールの高さは3m強。普通なら地上に落ちてくるところを待ってスパイクにもっていくところだが、この高さは俺にとってある意味丁度いい高さだ。

 

 

「みんな、どいて!」


 

 助走をつけてアタックラインより後ろでジャンプして3m半ばほどの高さのボールに接近する。

 

 

 そして――

 

 

 バシーンッ!!

 

 

 そのままダイレクトバックアタックで相手コートにボールを叩きつける。

 

 

 さすがにこれには相手も唖然としている。まあ普通バックアタックでダイレクトに叩き込む奴はいないからなあ。それが出来るなら前衛がダイレクトに叩き込んでるだろうし。

 

 

 

 重要なことだが俺はバックアタックの速攻が出来ないわけではない。俺がバックアタックを打つのに必要な高さにボールが上がってこないので使わないだけである。

(陽菜や未来の名誉のために言うとボールが100%上がってこないので使わない、である。試合で使うにはもう少し練習して精度を上げる必要がある)



 15-14

 

 

 

 その後、俺のローテ4回目のサーブは残念ながらコースアウト。


 

「ドンマイドンマイ」

「ナイサー。強気のサーブ」

「大丈夫、流れはこっちに来てる」

「さぁ、ここ。1本で切るよ」

 

 サーブ失敗後、励ましを受ける。

 

 これでもう一度あと2点状態だ。

 

 

 

 しばらくして――


 

 玲子が飛ぶ。そのままバレーの教科書に乗せたいくらいきれいなフォームだ。何より(女子としては)打点が高い。

 玲子のスパイクはブロッカーの指先に直撃。狙ってやったな。玲子のスパイクの勢いを止めきれなかったボールはそのまま飛んでいき、相手コート外に落ちた。



 ピーッ!

 

 試合終了の笛が鳴る。



 やれやれだ。この試合、単純に5セット制という以上に疲れた。これで負けてたらさらに疲労感は倍増しだったな。

 

 

 春高 県最終予選 女子決勝戦


 松原女子高校 VS 姫咲高校

 

    16-25

    25-20

    25-23

    14-25

    17-15


  セットカウント

     3-2



 松原女子高校 全日本バレーボール高等学校選手権大会 出場決定


 

 

 個人賞(全員3次予選より選出)※1

 

 ベストスパイカー

  1位:立花 優莉 松原女子高校1年

  2位:徳本 正美 姫咲高校1年

  

 ベストセッター ※2

  西村 沙織 姫咲高校3年

  

 ベストブロッカー 

  1位:辺見 朱里 姫咲高校2年

  2位:田辺 歩実 姫咲高校2年


 ベストサーバー

  立花 優莉 松原女子高校1年

  

 ベストリベロ

  有村 雪子 松原女子高校1年

  

 ベスト6

  (セッター)  西村 沙織 姫咲高校3年

  WS(ウイングスパイカー)立花 優莉 松原女子高校1年

  WS(ウイングスパイカー)徳本 正美 姫咲高校1年

  WS(ウイングスパイカー)小梁川 希 陽紅高校3年

  MB(ミドルブロッカー)辺見 朱里 姫咲高校2年

  MB(ミドルブロッカー)村井 玲子 松原女子高校1年


 最優秀選手 ※3

  立花 優莉 松原女子高校1年



補足

 ※1

  個人賞は最近の大会、特に県大会レベルだとやらないそうですが、まあそこはお話ということで……

 ※2

  本来、ベストセッターはどれだけスパイクが決まったトスをあげられたか、を評価するものです。

  普通はスパイクが決まる=それだけブロックを引き離すトスをあげられた名セッター、という図式が成り立つため、スパイクの決定率から評価できるのですが、本作の主人公はブロック無視してスパイクできるトンデモキャラです。

  そのため、スパイクの決定率だけで選出すると陽菜が選ばれますが、「この決定率は立花優莉あってのものであって立花陽菜の技量ではない」として陽菜、未来は選考外となっています。事実、技量としては西村選手より2人は劣っています。

 ※3

  一番優秀かと言われれば疑問符ですが、他に選ぼうとした際にあまりにも優莉のインパクトが強すぎて選べなくなってしまい、優莉が選ばれます。

  MVP(一番優秀)よりはMIP(一番印象に残った)の方が相応しいのは事実です。


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[良い点] スポーツものの小説は今まで一切読んでこなかったですがTSものが好きなので前作から続けて読ませて頂いてます。 非常に面白いです。 [気になる点] 先に15点取るだけで、という表記だとデュ…
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