068 VS姫咲高校 その6 実況席から
リアルでも春高の県大会決勝なら実況付きで視聴することが出来ます。
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春高 県最終予選 女子決勝戦
第2セット終了直後
実況席より
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「全日本バレーボール高等学校選手権大会進出をかけた県秋季バレーボール大会女子の部、決勝戦第2セットは松原女子高校が取り返し、これでセットカウントは1-1。五分に戻しました。田代監督、第2セットいかがでしたか?」
「第1セットと違い、松原女子高校から硬さが取れましたね。それがこのセットをとれた大きな要因です」
「第2セット開始前に『先に3点リードしたほうが勝つ』とおっしゃいました。そして先に3点リードしたのは松原女子高校。まさに予想通りの展開ですね」
「そんなに難しい予想ではなかったんです。1年生しかいない、指導者も指導歴1年目の松原女子高校は圧倒的に経験が足りてない。それが春高をかけた大一番の第1セットでプレッシャーという形で出てしまいました。
もちろん、そうなるように仕向けた熟練の姫咲高校の戦い方も見事でした。第2セットのポイントは、松原女子高校が平常心を取り戻せるか、姫咲高校はそのまま心を攻め続けられるかでした。
結果としては松原女子高校が勢いと平常心を取り戻し、第2セットを制しただけです」
「平常心を取り戻した松原女子高校がこのままいきますか?」
「それはどうでしょうか。あくまで普段の実力が出せるようになっただけ。両者の実力は総合力ではやや姫咲高校の方が上でしょう。
ただし、松原女子高校は経験がないからこその定石を外したプレーをしてくる。これがはまってしまうとなまじ強豪校と戦いつくしてきた姫咲高校は驚いてしまうことがあります」
「定石を外したプレーとは?」
「いくつかありますよ。例えば妹の方の立花。彼女は先ほどのセットでジャンプフローターサーブを披露した。完成度からしてぶっつけ本番ではなく、練習をしたサーブでしょう。
今後はサーブのたびに相手にスパイクサーブとフローターサーブの選択を強いることが出来ます。
それはそれでいいのですが、私ならフローターサーブを覚えさせる前に後衛速攻を覚えさせますよ。
勿体ないでしょう?ローテーション中6回に1回、しかもスパイクサーブとの二者択一になってしまう
フローターサーブよりも、ローテーション中6回に3回、しかも自身がスパイカーに混ざることでチーム全体の攻撃力アップを狙える後衛速攻のどちらが大切だと思いますか?」
「これは手厳しい。田代監督。ひょっとしたら立花選手はここまでやっていないだけで実は後衛速攻も出来るかもしれませんよ」
「だとしたらここまで出し惜しみする必要性を感じません。現に第1セットを落としているんです。出来るならもっと前からやってしかるべきでしょう。
……と厳しく言いますが、これは私なりの彼女への期待の表れです。彼女が素晴らしい選手であることには変わりません」
「そんな田代監督も期待する選手も出る第3セット。勝敗のカギを握るのは何でしょうか?」
「サーブレシーブでしょう。松原女子は立花、姫咲には徳本という素晴らしいスパイカーがいます。厳密に数えたわけではないのですが、両エースのスパイク決定率は6割を超えているのではないでしょうか?
これは驚異的なことです。女子の世界では5割前後でエースと呼ばれるわけですから。その頼れるエースにきちんとトスをあげられるか、そのトスをあげるためにはまずファーストタッチをどれだけ丁寧に行えるかが勝負のカギを握ります。
それが両校ともに難しい。姫咲高校は攻守に優れたチームですが、それでもビッグサーバーを多数擁する松原女子高校のサーブをキチンとレシーブするのは難しいでしょう。
松原女子高校は全体的にレシーブの実力が低い。姫咲高校は突出してサーブが強いわけでもないのですが、第1セット、第2セット共になかなかセッターの位置に返せない。ここは両校共に『良いスパイクは良いトスから。良いトスは良いレシーブから』というバレーの基本を思い出してほしいですね」
「なるほど。あっとここで試合再開のようです。秋季バレーボール大会女子の部、決勝戦。どちらが先に春高へ王手をかけるのか。注目の第3セットはまもなく開始です」
ちなみに本当は第1セット終了時にも実況席からを入れようとして忘れたという事実が……




